2009秋華賞


繊細な大物食い

 ブエナビスタが遠征する予定のあった凱旋門賞G1はシーザスターズが完勝。93年に勝った母のアーバンシーUSAに続く母仔制覇は、94年にカーネギーIREが達成(母デトロワが80年の勝ち馬)して以来のこととなる。これで今年G1・6連勝。次はブリーダーズCクラシックG1か、ジャパンCG1か、はたまたオーナーの地元の香港でドリームジャーニーに立ちはだかるのかと外野が想像を膨らます間もなく、アッサリ引退を決めてしまった。ところで、アーバンシーUSA、カーネギーIREというと思い出されるのがホワイトマズルGB。93年にクビ差2着、94年には武豊騎乗で2馬身差6着となっている。伊ダービーG1に勝ったほかは、キングジョージVI世&クイーンエリザベスSG1で2年連続2着とメジャーなG1のタイトルに手が届かず、ジャパンCG1でもレガシーワールドの13着に大敗。日本で種牡馬入りするとダンシングブレーヴUSA直仔でもあって、初年度の種付け数101頭とそこそこの人気を集めるが、その後は水準以上の数の種付けをこなしながら受胎率の低さがネックとなっていて、大物を出しながらリスクもともなう微妙な存在となった。それでも、現3歳までの12世代で重賞勝ち馬9頭、うち4頭がG1級という長打力は大きな魅力。しかも、イングランディーレの天皇賞(春)での大逃走を筆頭に、穴血統としての実績が特に大レースで目立つ。

 スプリンターズSG1を6番人気で制したローレルゲレイロは同じダンシングブレーヴUSA系キングヘイローの仔で、別掲の通りダンシングブレーヴUSA系全体に穴血統という傾向があるようだ。ローレルゲレイロがセントウルSG2・14着からの巻き返しだったように、逆境では無理をせず、自分の型に持ち込めば無類の強さを発揮するというリファール系の特徴を更に色濃く受けたのがこの系統。そこでデリキットピースの一変に期待した。母デリキットは3勝全てが1200mでの逃げ切りというスプリンターだったが、その半姉アドラーブルはオークス馬。このあたりはジェニュインの全妹で短距離で活躍したクルーピアスターがホワイトマズルGBとの配合で菊花賞馬アサクサキングスを産み、サンデーサイレンスUSA×カッティングエッジの配合ながらダート1000mで2勝したファビラスターンがシャドウゲイトを産んだのと奇妙なほどの符合を示している。アドラーブルはニシノフラワーが1番人気となったオークスを4番人気で勝ち、4代母の曾孫マイネルラヴUSAは7番人気のスプリンターズSでシーキングザパールUSAとタイキシャトルUSAを斥けた。牝系もまた大物食い血脈といえるだろう。


ダンシングブレーヴUSA系のG1/Jpn1勝ち馬一覧
 ダンシングブレーヴUSA Dancing Brave(牡、1983〜1999年、鹿毛、米国産、父Lyphard)
       英仏米で2、3歳時10戦8勝、凱旋門賞G1、キングジョージVI世&クイーンエリザベス
       SG1、エクリプスSG1、英2000ギニーG1、セレクトSG3、クレーヴンSG3。
   コマンダーインチーフGB Commander in Chief(牡、1990、鹿、英国産、母の父Roberto)
    |   英愛で6戦5勝、英ダービーG1、愛ダービーG1
    | アインブライド(牝、1995、鹿、パーソロンIRE)阪神3歳牝馬S(7人気)
    | マイネルコンバット(牡、1997、鹿、ノーザンテーストCAN)ジャパンダートダービー(5人
    |   気)
    | レギュラーメンバー(牡、1997、黒鹿、ナスルエルアラブ)川崎記念(2人気)、JBCクラ
    |   シック(1人気)、ダービーグランプリ(4人気)
   ホワイトマズルGB White Muzzle(牡、1990年生、鹿、英国産、Ela-Mana-Mou)英伊仏日
    |   米加で17戦6勝。伊ダービーG1
    | スマイルトゥモロー(牝、1999、鹿、サウスアトランティックIRE)優駿牝馬(4人気)
    | イングランディーレ(牡、1999、鹿、リアルシャダイUSA)天皇賞(春)(10人気)
    | シャドウゲイト(牡、2002、黒鹿、サンデーサイレンスUSA)シンガポール航空国際CG1  
    | アサクサキングス(牡、2004、鹿、サンデーサイレンスUSA)菊花賞(4人気)
   Ivanka イヴァンカ(牝、1990、鹿、愛国産、Sparkler)フィリーズマイルG1
   Wemyss Bight ウィームズバイト(牝、1990、鹿、英国産、Mill Reef)愛オークスG1
   チェロキーローズII IRE Cherokee Rose(牝、1991、鹿、愛国産、Secretariat)モーリスド
    |   ギース賞G1、スプリントCG1
   エリモシック(牝、1993、青鹿、テスコボーイGB)エリザベス女王杯(3人気)
   キョウエイマーチ(牝、1994、鹿、ブレイヴェストローマンUSA)桜花賞(1人気)
   キングヘイロー(牡、1995、鹿、Halo)高松宮記念(4人気)
     カワカミプリンセス(牝、2003、鹿、Seattle Slew)優駿牝馬(3人気)、秋華賞(2人気)
     ローレルゲレイロ(牡、2004、青鹿、テンビーGB)高松宮記念G1(4人気)、スプリンター
       ズSG1(6人気)
高松宮記念の回の使い回しに見えるかもしれませんが、微妙に変えてあります

 ブエナビスタは阪神ジュベナイルフィリーズで母仔制覇を達成していて、その後は母を超える成績を既に残した。当たり前に考えると一番強いのは間違いないが、母ビワハイジがドイツ起源の欧州系ステイヤーといえること、父スペシャルウィークもやはりステイヤーで3歳秋には成長途上の落ち込みに苦しんだことなどを考えると、この秋あたり、階段の踊り場のような地点に差しかかるのではないかと思う。2歳時から急上昇を続けてきたので、ここらでひと休みという成長曲線の停滞ですね。ディープインパクトのようなお化け(?)でさえ、3歳の有馬記念でそういうひと休み的な敗北を喫していることを考えると、どんな馬でも多かれ少なかれあることだろう。札幌記念2着が停滞の予兆だったのか、あるいは札幌記念のひと休みで、ここから再び快進撃が始まるのかは検討の余地ありとしておきたい。

 レッドディザイアは父のマンハッタンカフェがブエナビスタと同じ名門ドイツ牝系で、父系祖父サンデーサイレンスUSA、母の父カーリアンが共通。ビエナビスタがニジンスキーの4×3となっている代わりに、こちらは母がノーザンダンサーの3×3。顔もカーリアン系というのか、よく似ている。時期が違うが前哨戦2着というのも同じ。ここまで似ていると、どこまでいっても力関係は変わらないのではないだろうか。

 一昨年のレインダンス、昨年のムードインディゴと、2着には人気薄のダンスインザダーク産駒が入った。昨年は1着と3着がそれ以上に人気薄だったので目立たないが、乱戦になるとダンスインザダークの持久力や底力が生きる。ヴィーヴァヴォドカは4代母が輸入馬マイリーGB。その持ち込みの娘キューピッドは阪神牝特に勝ち、子孫をヤマピット、イットー、ハギノトップレディ、ハギノカムイオー、ダイイチルビーと広げて“華麗なる一族”と呼ばれたが、こちらのテツノアークの分枝は対照的にいたって地味な一族として、それでも報知オールスターCのスピーディドゥとか、大阪城Sのアキノサンシー、忘れな草賞2着のマヤノユウリらを送って、細く長く続いてきた。フラワーCはテツノアーク系初のJRA重賞だから、長年にわたって蓄積されたエネルギーがサンデーサイレンスUSA血脈の導入によって一気に爆発というケースはあるかもしれない。

 クーデグレイスはもう1頭のホワイトマズルGB産駒。母はトニービンIRE×リアルシャダイUSAだから、いかにも大レースに強そうな血統構成だし、ホワイトマズルGBとリアルシャダイUSAの取り合わせはイングランディーレに通じる。3代母が小倉記念のシャダイチャッターで、インティライミも出る牝系は上質。

 条件戦でこれを破ったパールシャドウはクロフネUSA×ウッドマン。ノーザンダンサー血脈も3本持っていて、いかにも馬力がありそう。フレンチデピュティUSA×ウッドマンで宝塚記念に勝ったエイシンデピュティに通じる配合でもある。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2009.10.18
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