2007オークス


オークスを支配するダービー馬たち

 桜花賞馬不在のオークスは、ラインクラフトがNHKマイルCに回った一昨年とアローキャリーが休養に入った02年。その前はシャダイソフィアがダービーに挑んだ83年まで遡らなければならない。シャダイソフィアのいないオークスは同じノーザンテースト産駒で同じ社台ファーム生産のダイナカールが制しており、ノーザンテースト時代の本格的な到来を告げるエポックとなった。今回からはサンデーサイレンス直仔が不在。そういった意味では、やはり新たな時代を感じさせる節目となっている。過去8年連続して連対馬を送り出してきたサンデーサイレンスの産駒がいなくなり、桜花賞馬までいなくなった今回は予想の上での困難が増したが、過去の勝ち馬の血統を見ると、過去6年、父か母の父が2400mのクラシックか凱旋門賞に勝っていることに気付く(下表太字)。トニービン(凱旋門賞)、ホワイトマズル(伊ダービー)、ロベルト(英ダービー)、ドクターデヴィアス(英ダービー)、スペシャルウィーク(東京優駿)、シアトルスルー(ベルモントS)といった、ダービーディスタンスで活躍した血がその真価を発揮するのがこの舞台の特徴といえるだろう。

過去10年のオークス馬の血統
年度 勝ち馬 父 母の父
1997メジロドーベルメジロライアンパーソロンIRE
1998エリモエクセルロドリゴデトリアーノUSARiverman
1999ウメノファイバーサクラユタカオーノーザンディクテイターUSA
2000シルクプリマドンナブライアンズタイムUSANorthern Dancer
2001レディパステルトニービンIREBlushing Groom
2002スマイルトゥモローホワイトマズルGBサウスアトランティックIRE
2003スティルインラブサンデーサイレンスUSARoberto
2004ダイワエルシエーロサンデーサイレンスUSAドクターデヴィアスIRE
2005シーザリオスペシャルウィークSadler's Wells
2006カワカミプリンセスキングヘイローSeattle Slew
太字は2400mのクラシックまたは凱旋門賞勝ち馬  

 今回、その条件に該当するもののうち、最も魅力的なのがトウカイオスカー。父は91年のダービー馬。ほかにジャパンC、有馬記念、皐月賞にも勝っており、サンデーサイレンス登場以前を代表する名馬の一頭であり、その父シンボリルドルフは三冠を制した歴史的名馬。曾祖父パーソロンは71年カネヒムロ、72年タケフブキ、73年ナスノチグサ、74年トウコウエルザとオークス4連覇をやってのけたSSも真っ青の大御所だ。種牡馬としてのトウカイテイオーは、これまで大レースに限れば、トウカイポイントのマイルチャンピオンシップ、ストロングブラッドのかしわ記念、ヤマニンシュクルの阪神ジュベナイルフィリーズと不思議なことに1600mでの活躍ばかりが目立つ。これはパーソロンが初期にスピード志向の強い産駒を送り出していたことに似ていて、そろそろ中長距離の大物が出てもおかしくはない。実際に全兄のトウカイアローは2400mと2500mに勝ち鞍があり、2500mの準オープンでトウショウナイトの1/2馬身差2着がある。また、リアルシャダイ牝馬との組み合わせはトウカイポイントと同じ。トウカイポイントは初めての重賞勝ちがマイルチャンピオンシップであり、それも11番人気という大穴。この破壊力は長年長距離の穴血統として鳴らしたリアルシャダイ独特のもので、天皇賞qを逃げ切ったイングランディーレ、フェブラリーSで今年最初のG1を制したサンライズバッカスによって、母の父としてもその恐るべき底力に陰りがないことが証明されている。祖母の父のシャムはケンタッキーダービーで2分00秒を切って走りながらダービー馬になれなかった歴史上唯一の存在で、これはセクレタリアトと同世代に生まれた悲劇。それでも種牡馬としては健闘し、わが国でもマル外ブーム前夜の活躍馬プリンスシン(京都記念)を送っている。アメリカ血統としては貴重なステイヤー血脈で、これも長距離への対応を助けそうだ。牝系は、祖母の産駒に中山金杯×2、東京新聞杯に勝ったベストタイアップ、京成杯のノーモアスピーディがおり、遡れば仏2000ギニーのリヴァーマンやNHK杯のアスワンがいる名門。

 アマノチェリーランは父が愛ダービー馬。種牡馬としてはメルボルンC3連覇の女傑マカイビーディーヴァやアスコットゴールドCのミスターディノスが代表産駒だから、日本で走るには重厚長大に過ぎる嫌いがあるが、こういったデインヒル血脈の良さは大レースになるとそれまでに見せたことがないような底力を発揮する点。母は英ダービー2着馬テリモンの半妹で、その父は“キングジョージ”勝ち馬。同じステイヤー血統でも、近代的な父と、オールドファッションドな母の対比が妙。

 もう少し“ダービー血統”狙いを続けます。カーリアンはジョッキークラブ賞(仏ダービー)勝ち馬。その娘の仔が3頭も出ている点は非常に怪しい。▲に父も英ダービー馬のラブカーナを取ってみた。アイルランドに帰国後、元オーナーの祖国インドに移ったオースは、日本に残した産駒の唯一の重賞勝ちがキョウワハピネスのファルコンSだから、忘れられたダービー馬クラブに入りつつある。ダービー馬らしさよりフェアリーキング系のスピードが出た方がマシと考えられるのも屈辱的。名誉回復を賭けた反撃には最適な舞台。カタマチボタンの母はカーリアンの軽快なスピードが強く出ていたようで、フェアリーSに勝ったほか、ファンタジーSやCBC賞での3着がある。しかも、ニジンスキー3×3、ヘイルトゥリーズン4×5、母にはラウンドテーブル3×4がある強い近交馬だけに、一概に距離延長がプラスになるとはいえない。ただ、ニジンスキー3×3が良い方に作用すれば大変な爆発力に繋がる。ザリーンはステイヤーズSのチャクラの半妹で、伯父には独伊で2400mのG1に2勝したプラティニ、ドバイデューティフリーのほか伊G1にも2勝したパオリニがいる。父は良血で、今後SS後継争いの一角を占める存在になるかもしれない。

 ベッラレイアの父は菊花賞馬で、ダービーはアドマイヤベガの2着に終わっている。ダービー2着馬の娘がオークスに勝ってももちろん構わないのだが、話の流れでここまで印が下がってしまった。ナリタトップロードは05年11月に世を去ったが、昨年からデビューした産駒は、5月にホッカイドウ競馬でデビューしたインパーフェクトがセンセーションを起こし、それが勢いを失うと代わってこの馬が台頭してきた。父自身が大変な人気者だっただけに、新たなヒロインとして大人気となる背景はできている。祖母の産駒に91年のジャパンC勝ち馬ゴールデンフェザントがいる牝系は上質で、母は北米の芝ステークスに勝ってデルマーオークス招待2着とG1実績もある。ただ、ボールドスキがどうだろう。母の父としてはBCターフのベタートークナウなど4頭のG1勝ち馬を出しているが、ニジンスキー系としては非力で、クラシックには少し足りないような気もする。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」2007.5.20
©Keiba Book

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