2007オークス ボツ原稿


オークスでダービーを狙う

 皐月賞とダービーに勝った2冠馬がこれまで14頭出現しているのに対し、桜花賞とオークスの牝馬2冠は、1952年のスウヰイスー(この年までオークスは秋に施行)以降、54年ヤマイチ、57年ミスオンワード、64年カネケヤキ、75年テスコガビー、76年テイタニヤ、86年の牝馬三冠メジロラモーヌに下表の3頭を加えて10頭しか達成していない。単純計算で牡馬より1.4倍難しいことになる。春の牝馬の体調の変化、そしてそれ以上に800mの距離の延長が困難をもたらす大きな理由だろう。

 パターンとしては(1)シャダイカグラ、アグネスフローラ、シスタートウショウに代表されるように、人気に応えて上位を死守したものの何かに少しだけ負けるケースと、(2)アラホウトクやオグリローマンのように2400mはやっぱり長かったわねと大敗してしまうのが数の上では拮抗している。あとは(3)距離延長を嫌われて人気を落としながらそれに反発しての健闘。ファイトガリバーやワンダーパヒュームが該当する。

 ダイワスカーレットの場合は桜花賞2着馬が不在で3着馬に0秒8の大きな差。能力的にはこれまでの桜花賞馬以上に大きなアドバンテージを携えてオークスに臨んでいるわけだが、死角があるとすれば、やはり血統ということになる。母は桜花賞4着→オークス5着、父サンデーサイレンスの半姉ダイワルージュは桜花賞3着→オークス13着、同じく半兄ダイワメジャーは皐月賞1着→ダービー6着と着順を下げた。このあたりは血統表3代目にあるクリムゾンサタンの影響だが、同じ“スカーレット一族”でもそれが4代目に退いているサカラートやヴァーミリアンは長距離をこなす。悪魔の呪縛からギリギリ逃れられるかどうかという立場にあるといえるのではないだろうか。一方の父系も、父自身は皐月賞までしか走っておらず、産駒にまだ2000mを超える距離での実績はない。その兄アグネスフライトはダービー1着→菊花賞5着、母アグネスフローラは桜花賞1着→オークス2着だった。逆に祖母アグネスレディーは不良馬場に泣いた桜花賞6着からオークスで巻き返して勝っているので、こちらもどちらにでも転び得る要素を持っている。印象だけで数字にしてみると2冠達成確率43%、負けても少しだけ確率48%、大敗確率9%といったところだが、ロイヤルスキーとクリムゾンサタンが3代目に同居するあたり、危険な香りも漂うのでに下げてみた。

 さて、負かすとすれば何だろう。ここ6年連続で勝ち馬に共通するのは、父または母の父が2400mのクラシックか、そうでなければ凱旋門賞に勝っているということ。それを目安に網を張ってみよう。真っ先に浮上するのが日本ダービー馬トウカイテイオーで、はその産駒トウカイオスカー。母の父のリアルシャダイはかつて長距離戦での穴血統として知られ、ブルードメアサイアーに回った近年も破壊力に陰りはない。イングランディーレの衝撃は記憶に新しいところだし、サンライズバッカスはフェブラリーSで今年わが国最初のG1勝ちを収めた。トウカイテイオーとの配合ではマイルチャンピオンシップを11番人気で制したトウカイポイントがいる。

桜花賞馬のオークス成績
年度桜花賞馬母の父オークス
での着順
オークス勝ち馬母の父
1987マックスビューティブレイヴェストローマンUSAバーバーGB→(1)
1988アラホウトクトウショウボーイデュールUSA→(7)コスモドリームブゼンダイオーラッキーソブリンUSA
1989シャダイカグラリアルシャダイUSAファバージFR→(2)ライトカラーヤマニンスキーパーソロンIRE
1990アグネスフローラロイヤルスキーUSAリマンドGB→(2)エイシンサニーミルジョージUSAダイアトムGB
1991シスタートウショウトウショウボーイダンディルートFR→(2)イソノルーブルラシアンルーブルUSAテスコボーイGB
1992ニシノフラワーMajestic LightDanzig→(7)アドラーブルノーザンテーストCANBig Spruce
1993ベガトニービンIRENorthern Dancer→(1)
1994オグリローマンブレイヴェストローマンUSAシルバーシャークIRE→(12)チョウカイキャロルブライアンズタイムUSAMr. Prospector
1995ワンダーパヒュームフォティテンUSAトウショウボーイ→(3)ダンスパートナーサンデーサイレンスUSANijinsky
1996ファイトガリバーダイナガリバートライバルチーフGB→(2)エアグルーヴトニービンIREノーザンテーストCAN
1997キョウエイマーチダンシングブレーヴUSAブレイヴェストローマンUSA→(11)メジロドーベルメジロライアンパーソロンIRE
1998ファレノプシスブライアンズタイムUSAStorm Cat→(3)エリモエクセルロドリゴデトリアーノUSARiverman
1999プリモディーネアフリートCANマルゼンスキー→(3)ウメノファイバーサクラユタカオーノーザンディクテイターUSA
2000チアズグレイスサンデーサイレンスUSAAl Nasr→(2)シルクプリマドンナブライアンズタイムUSANorthern Dancer
2001テイエムオーシャンダンシングブレーヴUSAリヴリアUSA→(3)レディパステルトニービンIREBlushing Groom
2002アローキャリーラストタイクーンIREサンキリコUSA→ 不スマイルトゥモローホワイトマズルGBサウスアトランティックIRE
2003スティルインラブサンデーサイレンスUSARoberto→(1)
2004ダンスインザムードサンデーサイレンスUSANijinsky→(4)ダイワエルシエーロサンデーサイレンスUSAドクターデヴィアスIRE
2005ラインクラフトエンドスウィープUSAサンデーサイレンスUSA→ 不シーザリオスペシャルウィークSadler's Wells
2006キストゥヘヴンアドマイヤベガノーザンテーストCAN→(5)カワカミプリンセスキングヘイローSeattle Slew
オークス馬血統の太字は2400mのクラシックまたは凱旋門賞勝ち馬  

 ▲アマノチェリーランは父が愛ダービー馬。種牡馬としてはメルボルンC3連覇の女傑マカイビーディーヴァやアスコットゴールドCのミスターディノスが代表産駒だから、日本で走るには重厚長大に過ぎる嫌いがあるが、こういったデインヒル血脈の良さは大レースになるとそれまでに見せたことがないような底力を発揮する点。母は英ダービー2着馬テリモンの半妹で、その父は“キングジョージ”勝ち馬。同じステイヤー血統でも、近代的な父と、オールドファッションドな母の対比が妙。

 カーリアンはジョッキークラブ賞(仏ダービー)勝ち馬。その娘の仔が3頭も出ている点は非常に怪しい。には父が英ダービー馬のラブカーナをピックアップしてみた。アイルランドに帰国後、元オーナーの祖国インドに移ったオースは、産駒の唯一の重賞勝ちがキョウワハピネスのファルコンSだから、忘れられたダービー馬クラブに入りつつある。ダービー馬らしさよりフェアリーキング系のスピードが出た方がマシと考えられるのも屈辱的。名誉回復を果たすには最適な舞台だろう。

 カタマチボタンの母はカーリアンの軽快なスピードが強く出ていたようで、フェアリーSに勝ったほか、ファンタジーSやCBC賞での3着がある。しかも、ニジンスキー3×3、ヘイルトゥリーズン4×5、母にはラウンドテーブル3×4がある強い近交馬だけに、一概に距離延長がプラスになるとはいえない。ただ、ニジンスキー3×3が良い方に作用すれば大変な爆発力に繋がる。

 ザリーンはステイヤーズSのチャクラの半妹で、伯父には独伊で2400mのG1に2勝したプラティニ、ドバイデューティフリーのほか伊G1にも2勝したパオリニがいる。父は良血で、今後SS後継争いの一角を占める存在になるかもしれない。


競馬ブック増刊号「血統をよむ」ボツ原稿 2007.5.20
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