2025安田記念


キタサンブラック初年度第三の男

 上半期のG1も残すところあと2つとなった。今年はJRAで馬券が発売された海外の競走が10あったので、年明けから東京優駿-G1までの22節で20のG1が行われたことになり、均すとほぼ毎週欠かさずG1があったようなものだ。海外のG1では日本調教馬が4つに勝っていて、複数勝利の馬はいないので14頭で14勝。下表から1〜3着馬の数で簡易リーディングサイアーを抽出すると、1位ロードカナロア(3勝2着1回3着1回)、2位キタサンブラック(1勝2着1回、3着1回)、3位キズナ(2着3回、3着1回)、4位ドゥラメンテ(2着1回、3着2回)となるが、ロードカナロアとドゥラメンテのほか、ルーラーシップ、リオンディーズの父でありサートゥルナーリアの父系祖父であるキングカメハメハの勢力が大変大きくなっていることも分かる。もちろん、サンデーサイレンスUSAの血のサポートがあってこそのキングカメハメハという前提はあるものの、現在のサイアーランキングで1位キズナ、2位ロードカナロアの競り合いがG1ひとつで容易に逆転する接近戦としてずっと続いているように、サンデーサイレンスUSA直系とキングカメハメハ系の勢力争いはもつれ合ったまま年末を迎えるのではないだろうか。覇権維持を狙うディープインパクト〜キズナ系にとっては、ブラックタイド〜キタサンブラック系が敵対的近親者として台頭してきており、種牡馬の世界は既に先の見えない戦国時代に入っているのかもしれない。
 下表を見る限り、前半ダッシュのロードカナロア、長打2発のルーラーシップ、善戦して勝ち切れないキズナ、追い上げ急なブラックタイド〜キタサンブラックという流れ。今回もそれぞれが有力産駒を送り込んできた。◎ガイアフォースは一昨年のこのレースでソングラインから0秒2差の4着、昨年がロマンチックウォリアーIREから0秒3差の4着で、ほかに東京1600mでは昨年のフェブラリーS-G1で0秒2差2着がある。過去10年でディープインパクト産駒がサトノアラジン、グランアレグリア、ダノンキングリーの3勝、キズナ産駒ソングラインが2勝と半分をディープインパクト直系が勝っているので、そこを東京優駿-G1制覇の勢いに乗ってキタサンブラック産駒が奪いに来ても驚けない。母のナターレは戸塚記念やしらさぎ賞、クラウンCなど南関東の地区重賞に勝ったほか、盛岡の芝1700mのOROカップでのレコード勝ちもある。その父クロフネUSAは自身がNHKマイルCに勝ち、種牡馬として産駒ホエールキャプチャとソダシがヴィクトリアマイル-G1に、クラリティスカイとアエロリットがNHKマイルC-G1に勝ち、母の父としてもノームコアがヴィクトリアマイル-G1に勝つなど、東京1600mに限ってもこれだけの実績を積み上げている。3代母クリスマスローズは3勝を挙げ、その全姉エリザベスローズはセントウルSに勝ち、産駒のアグネスゴールドはスプリングSに勝ってのちにブラジルのチャンピオンサイアーとなった。4代母ノーベンバーローズUSAから先はフロリダの名門タータンファームのジョン・A・ネルド氏が育てた牝系で、6代母キラルーの産駒ファピアノ、7代母グランドスプレンダーの孫オジジアンUSAらは種牡馬として現代まで大きな影響を及ぼしている。5×4のノーザンテーストCAN、5代目に並ぶヴァイスリージェントとニジンスキーのE.P.テイラー・ブランドのノーザンダンサー直仔も今年の隠しトレンドといえる。4歳で世界王者になったイクイノックス、5歳でJBCクラシックに勝ったウィルソンテソーロに続くキタサンブラック初年度産駒第三の男として大躍進がないか。


上半期G1のトレンド 1〜3着馬とその父
競走名1着馬2着馬3着馬
日付、距離父馬父馬父馬
サウジカップフォーエバーヤングロマンチックウォリアーIREウシュバテソーロ
2月22日、ダ1800リアルスティールAcclamationオルフェーヴル
フェブラリーSコスタノヴァサンライズジパングミッキーファイト
2月23日、ダ1600ロードカナロアキズナドレフォンUSA
高松宮記念サトノレーヴナムラクレアママコチャ
3月30日、芝1200ロードカナロアミッキーアイルクロフネUSA
ドバイターフソウルラッシュロマンチックウォリアーIREMaljoom
4月5日、芝1800ルーラーシップAcclamationカラヴァッジオUSA
ドバイシーマクラシックダノンデサイルCalandaganドゥレッツァ
4月5日、芝2410エピファネイアGleneaglesドゥラメンテ
大阪杯ベラジオオペラロードデルレイヨーホーレイク
4月6日、芝2000ロードカナロアロードカナロアディープインパクト
桜花賞エンブロイダリーアルマヴェローチェリンクスティップ
4月13日、芝1600アドマイヤマーズハービンジャーGBキタサンブラック
皐月賞ミュージアムマイルクロワデュノールマスカレードボール
4月20日、芝2000リオンディーズキタサンブラックドゥラメンテ
クイーンエリザベス2世CタスティエーラプログノーシスCalif
4月27日、芝2000サトノクラウンディープインパクトAreion
天皇賞(春)ヘデントールビザンチンドリームショウナンラプンタ
5月4日、芝3200ルーラーシップエピファネイアキズナ
NHKマイルCパンジャタワーマジックサンズチェルビアット
5月11日、芝1600タワーオブロンドンキズナロードカナロア
ヴィクトリアマイルアスコリピチェーノクイーンズウォークシランケド
5月18日、芝1600ダイワメジャーキズナデクラレーションオブウォーUSA
優駿牝馬カムニャックアルマヴェローチェタガノアビー
5月25日、芝2400ブラックタイドハービンジャーGBアニマルキングダムUSA
東京優駿クロワデュノールマスカレードボールショウヘイ
6月1日、芝2400キタサンブラックドゥラメンテサートゥルナーリア
※今年ここまでのGT競走(日本調教馬が勝った外国の競走を含む)を対象。太字は延べ3回以上登場する種牡馬

 この上半期で複数G1勝利の馬がいないのはそれだけタフな戦いが多いせいでもあって、王者ロマンチックウォリアーIREを破った○ソウルラッシュにはいったんいわゆる目に見えない疲れが出るのか、あるいは更に上昇するのか、2つの可能性は見ておかなければならないだろう。米ホープフルS-G1のヘネシーUSAらが出る牝系で、こちらもノーザンテーストCAN、ストームバード、トライマイベストUSAとE.P.テイラー・ブランドのノーザンダンサー直仔の血を3本持つ。

 ▲ブレイディヴェーグはロードカナロアとディープインパクトの組み合わせで、これはディープインパクトともキングカメハメハとも相性のいいストームキャットの血が配合の要となっている。祖母はドラール賞-G2など仏重賞に3勝し、産駒ミッキークイーンは優駿牝馬-G1と秋華賞-G1に勝った。

 キズナはG1勝ちでサイアーランキング首位の面目を施したいところ。△シックスペンスは母フィンレイズラッキーチャームUSAが米国でダート7FのマディソンS-G1など5つの重賞を含む11勝を挙げた活躍馬。△ダディーズビビッドはイトコにアドマイヤムーンやエフフォーリアがいて、3代母ケイティーズの娘に女傑ヒシアマゾンUSAがいる名門。


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