2025高松宮記念


アーサーの跡を襲うシーザー

 ディープインパクト後継馬やキングカメハメハ後継馬が種牡馬界の主力となった今では珍しいことでもなくなったが、今回の出走馬18頭のうち13頭は父系祖父が日本産馬という構成になった。2頭は自身が外国産馬で、2頭は父が外国産馬、残りの1頭は父系祖父が外国産馬ということになる。13頭のうち3頭は父系曽祖父が日本産馬。それらはいずれもビッグアーサーの産駒で、祖父サクラバクシンオー、曾祖父サクラユタカオーと遡り、下表に示した通り、3代にわたりG1またはG1級競走を制した。いうまでもなく種牡馬としても成功しているわけだが、サイアーランキング(JBISによる中央・地方を合算した総合ランキング、以下同じ)ではビッグアーサーは30位が最高で、サクラバクシンオーは10年間ベストテンに入って4位が最高、サクラユタカオーは5回ベストテンに入って5位が最高だった。その父テスコボーイGBは歴史的名種牡馬で1978年と1979年にチャンピオンサイアーとなった。ビッグアーサー産駒が勝てば、内国産父系4代によるG1(級)制覇が達成される。父系4代G1(級)制覇はピクシーナイトらモーリス産駒によって達成されているが、スクリーンヒーローから更に遡ったグラスワンダーUSAは米国産輸入競走馬なので、内国産の縛りを設けると3代止まりになってしまう。ともあれ、サクラバクシンオー系のように有能だが傍流といった地位が生き延びるにはちょうどいいようで、盛者必衰の理といわれるように、大成功してピークを極めるとあとは下降線を辿り、長期的には絶滅かそれに近いところまで至ることになる。
 サクラユタカオー〜サクラバクシンオー系は細々とした父系存続モードに入ってもう長く、プロの綱渡り芸人といってもいいが、3頭出しとなった今回の攻勢はG1制覇の空前のチャンスなのではないだろうか。スプリント部門、特にこのレースは当代の支配者たるサンデーサイレンスUSA系の隙間を縫ってマイナー血統がG1を狙える傾向もある。◎ビッグシーザーは2歳未勝利のレコード勝ちから3歳2月のマーガレットSLまで1200mで4連勝してスプリンターとしての素質を示した。その後は波の大きな成績が続いたが、ここに来ての連勝はようやくの本格化と見ることができる。早熟なように見えて実は大器晩成であったというケースは意外にスプリンターに多い。父ビッグアーサーの美点はキングマンボ×サドラーズウェルズのいわゆるエルコンドルパサーUSA配合の母にあり、イメージとしてはこれがサクラバクシンオーのスピードに現代的な力強さを補っている。本馬の母アンナペレンナUSAは米国産輸入競走馬で、ダート1700m〜1800mの条件戦を3勝。その父テイルオブエカティはテイルオブザキャット×サンデーサイレンスUSAの良血でウッドメモリアルS-G1の勝ち馬。ストームキャットに遡る父系なので、母はストームキャット3×3の近交になる。ここでキングマンボやサドラーズウェルズといった血が生きてくるわけで、それをノーザンテーストCAN、ストームバード、ニジンスキーというE.P.テイラー・ブランドのノーザンダンサーの血がまとめて日米欧の融合を果たしている。
 同じ父で1歳年長の○トウシンマカオはその分早くG1での好走を果たした。ビッグシーザーの母がストームキャット3×3なのと好対照をなしてこちらの母はニジンスキー4×3。キングマンボとウッドマンを経由したミスタープロスペクター4×4の配合もきれいだ。母ユキノマーメイドは芝1800m〜2000mで4勝、祖母サスペンスクイーンは米国産輸入競走馬で芝1000m〜1200mで3勝。4代母ローズボウルは英チャンピオンS-G1、クイーンエリザベス2世S-G2(2回)などに勝った名牝で、5代母ロゼリエールの産駒にキングジョージ6世&クイーンエリザベスS-G1のイルドブルボンUSAがいる。


テスコボーイGB父系の半世紀
 テスコボーイGB Tesco Boy 1963年生、黒鹿毛 クイーンアンSなど英5勝
   トウショウボーイ 1973、鹿 有馬記念、皐月賞、宝塚記念
   | ミスターシービー 1980、黒鹿 天皇賞(秋)、東京優駿、菊花賞、皐月賞
   | | メイショウビトリア 1987、鹿 ステイヤーズS
   | | ヤマニングローバル 1987、鹿 デイリー杯3歳S、ア共和国杯、目黒記念
   | サクラホクトオー 1986、鹿 朝日杯3歳S、アメリカJCC、セントライト記念
   |   サクラスピードオー 1993、黒鹿 共同通信杯4歳S、京成杯
   サンシャインボーイ 1974、栃栗 
   | ステートジャガー 1981、鹿 大阪杯
   |   メルシーステージ 1991、鹿 毎日杯、アーリントンC
   サクラユタカオー 1982、栗 天皇賞(秋)、大阪杯、毎日王冠、共同通信杯4歳S
     サクラバクシンオー 1989、鹿 スプリンターズS×2、スワンS
     | ショウナンカンプ 1998、鹿 高松宮記念、スワンS、阪急杯
     | | ショウナンアチーヴ 2011、黒鹿 ニュージーランドT-G2
     | ビッグアーサー 2011、鹿毛 高松宮記念-G1、セントウルS-G2
     |   トウシンマカオ 2019、栗 セントウルS-G2、京阪杯-G3×2、オーシャン
     |       S-G3
     |   ビッグシーザー 2020、芦 京阪杯-G3
     |   カンチェンジュンガ 2020、鹿 阪急杯-G3
     エアジハード 1995、栗 安田記念、マイルチャンピオンシップ、富士S
       ナナヨーヒマワリ 2001、栗 マーチS-G3
       ショウワモダン 2004、鹿 安田記念-G1、ダービー卿チャレンジT-G3

 ▲サトノレーヴの香港スプリント-G1・3着はアジアの短距離王カーインライジングに0秒1まで迫ったところに大きな価値があり、プレレーティング115は控えめに過ぎる。父ロードカナロアは香港スプリント-G1・2勝、スプリンターズS-G12勝、高松宮記念-G1と安田記念-G1にも勝った日本の史上最強スプリンターで、サクラバクシンオー産駒の母は短距離で5勝を挙げ、産駒のハクサンムーンはG1連勝中のロードカナロアをセントウルS-G2で負かした。祖母メガミゲランは北九州短距離Sレコード勝ちのあるスプリンターで、5代母ゲランに遡る牝系。4代母ミスゲランの曾孫にはクイーンエリザベス2世C-G1のウインブライトもいて、ときどき大復活を遂げる名門。

 △ナムラクレアはディープインパクト系×ストームキャット牝馬のニックスの短距離向きバリエーション。3代母クドジェニはサラマンドル賞-G1、モルニ賞-G1に勝ったニアルコス家の名牝で、大種牡馬マキアヴェリアンの全妹。娘にマルセルブサック賞-G1のデネボラUSA、孫に凱旋門賞-G1のバゴFR、ムーランドロンシャン賞-G1のマクシオス、曽孫にアシュランドS-G1のイモリエント、仏オークス-G1のセンガなど多くの活躍馬がいる。

 △オフトレイルは3代母がゴールデンスリッパーS-G1のビントマースケイ、祖母がデインヒル直仔で豪G3勝ち。父ファーは英チャンピオンS-G1の勝ち馬。ピヴォタル、ポーラーファルコンを経てヌレエフへと遡る欧州で息長く続く万能スプリンター父系。


競馬ブックG1特集号「血統をよむ」2025.3.30
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