1975年にカナダの実業家で大オーナーブリーダーであるエドワード・プランケット・テイラー氏の生産馬として米国で生まれたノーザンダンサー産駒トライマイベストUSAは2歳時にデビュー戦からデューハーストS-G1まで3連勝し、3歳時にもヴォクスホールS-G3に勝ったが、続く英2000ギニーでは19頭立てのしんがりに敗れ、そのまま引退して種牡馬となった。正統後継者といえるのはブリーダーズCマイル-G1に勝ってシャトル種牡馬としても大成功したラストタイクーンIREだが、クイーンアンS-G2など3つの重賞に勝ったワージブIREは、ミドルパークS-G1とスプリントC-G1に勝ったロイヤルアプローズを出し、その産駒アクラメイションはダイアデム-G2に勝って種牡馬となった。ここまではノーザンダンサーに発して伏流しかけた細々と続くラインだが、アクラメイションの子孫は下表の通り2歳、スプリント、マイルの各部門を中心に大きな発展を遂げることになる。特に今年の春はマッドクールIREが高松宮記念-G1を、香港調教馬ロマンチックウォリアーIREが安田記念-G1を制していて、成功の波がアジアにも達した。一芸に秀でた父系の大逆転劇といえよう。◎チャリンIREはワールドベストレースホースランキングでロマンチックウォリアーと同レート122を得ている(注:その後11月10日版で124に上方修正)。アジア・オセアニアの異なる3地域でG1勝ちを果たしたロマンチックウォリアーIREと同様に扱うことはできないとしても、夏のドーヴィルの良馬場1:33.98でもアスコットの重馬場1:45.98でも勝っている事実は、初めての日本の馬場にも対応し得る可能性を示す要素のひとつとはいえる。ムーランドロンシャン賞-G1では勝ち馬に逃げ切られたとはいえ、フランス・ギャロ発表のトラッキングレポートによれば自身の上がりは11.74-10.84-11.77を記録しており、スプリンター父系の強みとして前半の速い巡航速度も保てるので、それなりに勝算は立つのではないだろうか。母は5Fのハンデ戦で1勝し、リステッドの2、3着入着があり、産駒で本馬の全兄にあたるウイングズオブウォーは2歳9月に6fのミルリーフS-G2に勝った。3代母の子孫にもミルリーフS-G2のガレオタ、モールクームS-G3のブラウンシュガー、サイリーニアS-G3のバーントシュガー、シックスパーフェクションズ賞-G3のオスキュラなど短距離の活躍馬が多い。 |
ワージブIRE系のスペシャリスト的発展 |
トライマイベストUSA Try My Best 1975年生 デューハーストS-G1◆ ワージブIRE Waajib 1983 Royal Applause 1993 スプリントC-G1☆、ミドルパークS-G1◆ Acclamation 1999 DARK ANGEL ダークエンジェル 2005 ミドルパークS-G1◆ | Lethal Force 2009 ダイヤモンドジュビリーS-G1☆、ジュライC-G1☆ | | Golden Horde 2017 コモンウェルスC-G1☆ | Mecca's Angel 2011 f ナンソープS-G1☆×2 | Hunt 2012 h シューメイカーマイルS-G1★ | Persuasive 2013 f クイーンエリザベス2世S-G1★ | Battaash 2014 h ナンソープS-G1☆×2、キングズスタンドS-G1☆、アベ | イドロンシャン賞-G1☆ | Harry Angel 2014 ジュライC-G1☆、スプリントC-G1☆ | Raging Bull 2015 シューメイカーマイルS-G1★、メーカーズマークマイルS | -G1★、ハリウッドダービー-G1、 | Khaadem 2016 h クイーンエリザベス2世ジュビリーC-G1☆×2 | Top Ranked 2016 エプソムH-G1★ | Alfareeq 2017 h ジェベルハッタ-G1×2 | Althiqa 2017 f ジャストアゲイムS-G1★、ダイアナS-G1 | Art Power 2017 h 英チャンピオンズスプリントS-G1☆ | Angel Bleu 2019 ジャンリュックラガルデール賞-G1◆、クリテリウムアンテ | ルナシオナル-G1◆ | マッドクールIRE 2019 高松宮記念-G1☆ | Mangoustine 2019 f 仏1000ギニー-G1★ | チャリンIRE Charyn 2020 クイーンエリザベス2世S-G1★、クイーンアン | S-G1★、ジャックルマロワ賞-G1★ | Mysterious Night 2020 h サマーS-G1◆ Equiano 2005 キングズスタンドS-G1☆×2 | The Tin Man 2012 h 英チャンピオンズスプリントS-G1☆、ダイヤモンドジュ | ビリーS-G1☆、スプリントC-G1☆ | Belvoir Bay 2013 ブリーダーズCターフスプリント-G1☆ Harbour Watch 2009 | Waikuku 2015 h スチュワーズC-G1★×2 | Pyledriver 2017 キングジョージ6世&クイーンエリザベスS-G1 Aclaim 2013 フォレ賞-G1 | Cachet 2019 f 英1000ギニー-G1★ Marsha 2013 f アベイドロンシャン賞-G1☆、ナンソープS-G1☆ Mehmas 2014 | Chez Pierre 2018 メーカーズマークマイルS-G1★ | Going Global 2018 f デルマーオークス-G1 | Minzaal 2018 スプリントC-G1☆ | Supremacy 2018 ミドルパークS-G1◆ | Mugnum Force 2022 ブリーダーズCジュヴェナイルターフスプリント-G1◆ | Scorthy Champ 2022 愛ナショナルS-G1◆ | Vertical Blue 2022 f マルセルブサック賞-G1◆ Expert Eye 2015 ブリーダーズCマイル-G1★ ロマンチックウォリアーIRE 2018 h 安田記念-G1★、香港C-G1×2、クイーンエ リザベス2世C-G1×3、コックスプレート-G1、香港ゴールドC-G1 Makarova 2019 f アベイドロンシャン賞-G1☆ |
G1のみを抜粋、★はマイル(1600m)戦、☆はスプリント戦、◆は2歳戦、f は牝馬、hはセン馬 |
○ナミュールは半妹ラヴェルが先週のエリザベス女王杯-G1で2着と好走。3年前の11月には叔母マルシュロレーヌによるブリーダーズCディスタフ-G1制覇の快挙もあった。3代母で桜花賞馬のキョウエイマーチが生んだ唯一の牝馬である祖母ヴィートマルシェがつないだ細い糸が女系の名門に大発展を遂げようとしている今がまさにそのときだ。父のハービンジャーGBは今年もチェルヴィニアが活躍しているようにステイヤー種牡馬ではあるが、2014年生まれのペルシアンナイトはこのレースで2017年1着、2018年2着、2019年3着と3年連続で好走した。 春には大阪杯-G1のベラジオオペラを送り、サイアーランキングでもキズナに続く2位をキープしていながら、どうにも地味な印象が拭えなかった今年のロードカナロアは、先々週と先週でファンタジーS-G3、デイリー杯2歳S-G2、武蔵野S-G3と重賞を3勝。ようやく大種牡馬らしさを発揮しはじめた感がある。▲ブレイディヴェーグの一戦入魂型の成績もロードカナロア産駒らしいところではあるが、今回はデビュー以来最短のレース間隔となった。重箱の隅をつつくように死角を探せばそのあたり。 △マテンロウスカイはモーリスとの父仔制覇がかかる。マイル部門の大レース出身で名種牡馬といえるのはニホンピロウイナーとかダイワメジャーくらいで、本来であれば種牡馬選別機能の主力を担うべきマイル部門がそうなっていないのが日本の競馬の不思議なところではあるが、モーリスが流れを変えるのでしょうか。 △フィアスプライドは唯一のディープインパクト産駒。グランアレグリアの(阪神施行での)2勝を含め過去5勝のうちには、8番人気で勝ったダノンシャークもいる。ヴィクトリアマイル-G1・2着の力は侮れないぞ。 |
競馬ブックG1特集号「血統をよむ」2024.11.17
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