2024阪神ジュベナイルフィリーズ


冒険者は西を目指す

 アメリカ西海岸デルマー競馬場で行われた今年のブリーダーズカップ開催には日本から史上最高の19頭が遠征し、そのうち6頭が2歳馬という点も画期的だった。結果はBCジュヴェナイルターフスプリント-G1のエコロジークUSAが8着、BCジュヴェナイルフィリーズ-G1のオトメナシャチョウUSA7着、アメリカンビキニ9着、BCジュヴェナイル-G1のエコロアゼルUSA8着、シンビリーブUSA10着、BCジュヴェナイルターフ-G1はサトノカルナバル9着と振るわず、2019年サンタアニタ競馬場でのBCジュヴェナイル-G1で5着となったフルフラットUSAの日本調教2歳馬最高着順を上回ることはできなかった。2歳戦5レースのうち芝の3レースは愛国調教馬が勝ち、ダートの2レースは米国調教馬が勝った。順当といえば順当だが、こと2歳戦においては仕上がりの早さとか完成度という点では調教技術だけでなく競馬環境という点でも彼我の差はいかんともしがたいものがある。個々の能力だけでなく、2歳戦の始まりとか、重賞が組まれる時期とか、そういったことは結果に如実に反映されるだろう。夏の北海道シリーズでJRAの馬がしばしばホッカイドウ競馬の馬に負けるのと同じことだ。そういった完成度重視で考えれば、米国から遠征してきた◎メイデイレディUSAにもチャンスがある。厳しい戦いで揉まれて培った力とG1の経験は、ここが初のG1となる日本馬に対して大きなアドバンテージとなり、日本の馬場への適性などの未知数を相殺できるのではないだろうか。父のタピットは米国のチャンピオンサイアーで、特にダートの大レースでの強さに定評があるが、実際には芝での重賞勝ち馬も下表の通り23頭いる。全重賞勝ち馬が12月1日現在で106頭だから、およそ2割強が芝馬ということになり、これは一般的なタピットのイメージ(があるとして)よりも多いのではないだろうか。現役時のタピットのG1勝ちは3歳時のウッドメモリアルS-G1のみで、これはラニUSAなどの多くの産駒と同じように後方からの追い上げで制した。本馬も舞台が芝に替わっただけで、同じように後方から追われ通しで追い込んでくるので、速い上がりの勝負は合わないかもしれないし、京都外回りの長い直線なら何とかなるかもしれない。母の父モアザンレディは現役時2歳で5連勝、その後キングズビショップS-G1に勝ったダートのスプリンターの印象が強いが、シャトル供用先のオーストラリアでも成功し、母の父としては日本で菊花賞馬ドゥレッツァ、香港で香港スプリント-G1のウェリントンを送ったりしている。母ネモラリアは英国調教馬で2歳8月にデビュー3戦目で初勝利を挙げると続く9月のハンデ戦にも勝って、10月には米国遠征を敢行する。フリゼットS-G1ではダートの不良にもそれなりに対応して中団から差を詰めて2着、続くBCジュヴェナイルフィリーズターフ-G1では後方から直線猛然と追い込んで3着となった。3歳時には英国でコロネーションS-G1・2着、シティオブヨークS-G3勝ちの成績を残している。旅慣れた遺伝子というと嘘くさいが、母と本馬で相当なマイレージがたまっているのではないだろうか。祖母アリナは米国でリステッドや上級ステークスを含む4勝を挙げ、ファンタジーS-G2で2着、アイオワオークス-G3で3着となった。5代母ロイヤルアドヴォケイターの孫にはマザーグースS-G1のステラージェイン、サンタマリアH-G1のスターラー、曽孫にメイトリアークS-G1のスタービリングが出る牝系。父系祖父プルピットの母プリーチ、ファピアノ、ウッドマン、ゴーンウエストを通じたミスタープロスペクター4×5×5×5は多様なスピードの形を感じさせるもの。


意外に多い芝重賞勝ちのタピット産駒
馬名生年母の父芝重賞勝ち鞍
タピッツフライUSATapitsfly2007MarlinジャストアゲイムS-G1、ファーストレイディS-G1、ハニーフォックスS-G2
ホワイトローズIIUSAWhite Rose2010El PradoグレンズフォールズS-G3
Tapicatタピキャット2010Storm Catフロリダオークス-G3
Ring Weekendリングウィークエンド2011センCryptoclearanceフランクE.キルローマイルS-G1、バーナードバルークH-G2、シービスケット
H-G2、サラナクS-G3、ヒルプリンスS-G3
Walk Closeウォーククローズ2011In ExcessモデスティH-G3
Prospect Parkプロスペクトパーク2012BertrandoラホヤH-G3
Time and Motionタイムアンドモーション2013Kris S.クイーンエリザベスII世チャレンジカップS-G1、レイクプラシッドS-G2
Synchronyシンクロニー2013Forest WildcatムニスメモリアルH-G2、キングエドワードS-G2、フェアグラウンズH-G3×2、
オーシャンポートS-G3、レッドバンクS-G3
Tuskタスク2013センShamardalトロピカルターフS-G3
Tin Type Galティンタイプギャル2013Deputy MinisterミスグリロS-G3、ボイリングスプリングズS-G3
Dream Dancingドリームダンシング2014Monarchosデルマーオークス-G1、ヒアカムズザブライドS-G3
Bellavaisベラヴァイス2014GhostzapperマーシュアズリヴァーS-G3
Ticonderogaタイコンデロウガ2014JoharパームビーチS-G3
ラビットランUSARabbit Run2014Dixieland BandローズS-G2
Tapit Todayタピットトゥデイ2015Storm CreekアシーニアS-G3
Jehozacatジェホザキャット2015CatienusエンデヴァーS-G3
Kinglyキングリー2016Dixie UnionラホヤH-G3
Love Tap(AUS)ラヴタップ2017センForestryATCグローミングS-G3
Subconsciousサブコンシャス2018センCandy Rideトワイライトダービー-G2
Personal Bestパーソナルベスト2019War FrontラプレヴォワイヤントS-G3
Capensisカペンシス2019Unbridled's Songヴァージニアダービー-G3
Coinageコイニジ2019センMedaglia d'OroウイズアンティシペイションS-G3
メイデイレディUSAMay Day Ready2022More Than ReadyジェサミンS-G2

 総合、2歳のサイアーランキング2冠を目指すキズナは複数頭出しで賞金積み増しを狙う。○ブラウンラチェットはフォーエバーヤングの半妹だが、父が同じディープインパクト×ストームキャットなので8分の7きょうだいということもできる。今年のBCクラシック-G1勝ち馬シエラレオーネはイトコにあたる。▲ミストレスはイトコが三冠馬コントレイルのキズナ産駒。ストームキャット3×4なので、2歳戦向き、マイル向き。シスキンの希少な初年度産駒△テリオスララ、ディープ×キンカメの先端配合△ビップデイジーも要注意。


競馬ブックG1特集号「血統をよむ」2024.12.8
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