2024天皇賞(秋)


忘れたころに来る天才

 シンボリルドルフは1984年の三冠を制してジャパンカップはカツラギエースの3着、有馬記念でカツラギエースに雪辱すると翌年には天皇賞(春)に勝った。天皇賞(秋)では向正面から早めに動いて好位に上がり、直線ではそれまでと同じように悠然と抜け出すのかと見えたが意外に伸びず、ギャロップダイナの強襲に屈して2着に敗れた。その仔トウカイテイオーは1991年に2冠を制し、翌年の大阪杯勝ちから臨んだ天皇賞(春)でのメジロマックイーンとの対決に敗れると、天皇賞(秋)では序盤で掛かり気味になったこともあってか直線は伸びを欠いて7着に敗れた。父も仔もその後はジャパンカップにも有馬記念にも勝って名馬の地位を不動にしているので、タイミングの問題か、相性の問題か、このレースには縁がなかったということになる。シンボリルドルフの後継として大きな期待とともに種牡馬入りしたトウカイテイオーは、産駒から3頭のG1級勝ち馬を送った。しかし、それらは下表の通りせん馬のトウカイポイントと牝馬のヤマニンシュクル、ダート馬のストロングブラッドであって、もはや父系の存続は風前の灯火となっている。そうはいっても、現役時には1年ぶりの実戦となった有馬記念を制した奇跡を呼ぶ男の血が簡単に断絶するわけはなく、娘の産駒でサウジアラビアロイヤルCに勝ったブレイブスマッシュは、オーストラリアに渡るとG1に2勝し、種牡馬となって2022/23シーズンからデビューした初年度産駒から、ライトフィンガーズS-G2のキモチ、マンフレッドS-G3のブレーヴミードが出た。一度は涸れかけた流れは伏流となって南半球に至り、何頭かの馬の血統表の中で細く長く生き続けるのではないだろうか。
 ◎レーベンスティールは母トウカイライフがトウカイテイオーの血をつなぐ貴重な存在。ダート1400m〜1800mで4勝を挙げ、産駒ルーチェデラヴィタはコスモス賞など2勝を挙げた。この母のトウカイテイオー×リアルシャダイUSAの配合はマイルチャンピオンシップに勝ったトウカイポイントと同じパターンでかつてのリアルシャダイUSAの大レースでの穴属性に期待できる部分もいくらかはある。牝系は5代母マギージグスNZの産駒に京成杯3歳Sなど4勝を挙げたタケノダイヤがいる程度の地味なものだが、休眠牝系から突如現れた大物は時に底なしの強さを見せることがある。シンボリルドルフ〜トウカイテイオー父仔に鬼門であったこのレースで頼りになるのはやはりディープインパクトの血であり、その点、父がリアルスティールであるのは心強い。ドゥラメンテやキタサンブラックと同世代であった父は皐月賞-G12着、菊花賞-G12着、ドバイターフ-G1に勝って、4歳時の天皇賞(秋)-G1はモーリスの2着、5歳時には毎日王冠-G2に勝って天皇賞(秋)-G1に臨んだものの、大変な不良馬場に泣いてキタサンブラックの4着だった。どうも天皇賞(秋)-G1に対して負のエネルギーに満ちた血統のようではあるが、種牡馬としてのリアルスティールは本馬のひとつ下の世代から7戦してケンタッキーダービー-G13着以外負けていないフォーエバーヤングやダートのスプリント重賞を連勝中のチカッパを出すなどしている。このように自分にないものを持った産駒を出す種牡馬は強いですね。そのようなディープインパクト系のホープの力に引っ張ってもらって、トウカイテイオーの血が残るのであればそれもまた良しといえる。


記録に残るトウカイテイオーの血
父としての産駒性別生年毛色母の父
トウカイポイントセン1996栗毛マッチポイントリアルシャダイUSA
最優秀父内国産馬、マイルチャンピオンシップ、中山記念、3着=香港マイル-G1
ヤマニンシュクル2001黒鹿毛ヤマニンジュエリーNijinsky
最優秀2歳牝馬、阪神ジュベナイルフィリーズ、中山牝馬S、2着=秋華賞、3着=桜花賞
ストロングブラッド1999鹿毛ワイプザアイUSAGulch
かしわ記念、カブトヤマ記念、さくらんぼ記念、群馬記念、2着=帝王賞
トウカイパルサー1996鹿毛イングリッシュホーマーUSAConquistador Cielo
愛知杯
タイキポーラ1996栃栗毛スターオブザノースIREChief Singer
マーメイドS
チタニックオー1997鹿毛トロピカルメイクリアルシャダイUSA
3着=皐月賞
娘の産駒性別生年毛色
ブレイブスマッシュ2013鹿毛トーセンファントムトーセンスマッシュ
MRCフューチュリティS-G1、MVRCマニカトS-G1、サウジアラビアロイヤルC、2着=VRCニュー
マーケットH-G1、MVRCA.J.モアS-G1、3着=MRCC.F.オーS-G1、VRCニューマーケットH-G1
レーベンスティール2020鹿毛リアルスティールトウカイライフ
セントライト記念-G2、オールカマー-G2、エプソムC-G3
ヴィーヴァヴォドカ2006黒鹿毛ダンスインザダークトウカイステラ
フラワーC-G3
シングンマイケルセン2014鹿毛シングンオペラジェヴォーナ
最優秀障害馬、中山大障害、東京ハイジャンプ、東京ジャンプS
※重賞勝ちとG1級競走3着以内を記載

 ○ノースブリッジは中東と香港への遠征を境に明らかに強くなっていて、このあたりは父モーリスの4歳を迎えての破竹の勢いとか、アドマイヤムーンの3歳暮れの香港遠征をきっかけとした急成長がややマイルドな形とはいえミックスされた印象がある。モーリスは5歳時に札幌記念-G2・2着から天皇賞(秋)-G1に勝ち(2着リアルスティール!)、アドマイヤムーンは3歳時に札幌記念-G2勝ちから天皇賞(秋)-G13着となった。血統的には勝手知ったるルートと見ることもできなくはない。父系祖父スクリーンヒーローも5歳時唯一馬券に絡んだのが天皇賞(秋)-G1の2着だった。なお、3代母の孫ディープボンドは天皇賞(春)-G1で3度の2着、1度の3着があり、牝系としての天皇賞渇望度は出走馬中随一といえるものがある。

 調教時に見る▲リバティアイランドは分厚い筋肉に覆われて、牡馬のスプリンターかと見紛うほどの逞しさが感じられる。ドゥラメンテは今年のスプリンターズS-G1勝ち馬ルガルを送ってスプリント方面の才能も示したので、本馬にもそのような要素は潜在しているのかもしれない。父系がキングマンボ、母の父系がレッドランサムだから、ミスタープロスペクター系×ロベルト系の1990年代ニックスの2020年代バージョンといえるが、トライマイベストUSA、ノーザンテーストCAN、ニジンスキー、エルグランセニョールとE.P.テイラー・ブランドのノーザンダンサー血脈が潜む点も高度に意匠的。

 もう一頭のモーリス産駒△マテンロウスカイは祖母の父がトニービン。父にはノーザンテーストCANの血も潜んでいるので、かつてのこのレースのVIP血統を備えていて、一発があって驚けない。

 ハーツクライ産駒はこれまで延べ13頭が出走し、ジャスタウェイが勝ち、△ダノンベルーガが3着。二者択一なら実績のある方を。


競馬ブックG1特集号「血統をよむ」2024.10.27
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