2023エリザベス女王杯


母方からのインパクト

 11月7日現在のブルードメアサイアーランキング(JBIS発表)によると1位キングカメハメハの収得賞金は42億4107.3万円で、2位ディープインパクトは41億4188.7万円でその差は約1億円。このレースを勝てば逆転できることになる。母の父ディープインパクトは先週オオバンブルマイがオーストラリアの高額賞金競走ゴールデンイーグルに勝って約4億7000万円を稼いでいて、そうかと思うと母の父キングカメハメハはウシュバテソーロがドバイワールドカップ-G1に勝ったことにより約9億円、どちらもサイアーランキングに算入されない稼ぎがある。グローバルな種牡馬統計を作ろうとすると日本の賞金水準が高いためにかつて米ブラッドホース誌などは苦心の補正を施して妥当な数値に近づけようとしていたが、今や一般的な賞金水準とケタが違うレースまでも日本馬が勝つようになり、もう統計作成者は泣き寝入りするほかないのではないだろうか。
 ディープインパクトの娘の産駒はキセキが2017年の菊花賞-G1に勝って、そのあと重賞勝ち馬量産体制に入るまでに少し時間がかかったが、これはサンデーサイレンスUSAの血を持たないキングカメハメハ系か持っていても比較的薄いモーリスのような種牡馬の台頭を待たなければならない面があったためだろう。現2歳世代のゴンバデカーブースを送ったジャイアンツコーズウェイ系のブリックスアンドモルタルのような新しい輸入種牡馬が増えてくるこれから先は今よりもう一段階成績を伸ばす可能性が高い。先のことはともかく、目の前の6頭のディープインパクトの娘の産駒からどの馬を選ぶかということになると、ゴールデンイーグル、ドバイワールドカップ-G1より更に高い1着賞金約13億円のサウジカップ-G1に勝ったパンサラッサの父がロードカナロアだったことを考えると、お金を稼ぐ力という点においてロードカナロア×ディープインパクトの◎ブレイディヴェーグに勢いがある。この組み合わせにはファンタジスト、ボンボヤージ、アスクワンタイムの短距離3きょうだいのほか、京王杯スプリングC-G2のレッドモンレーヴがいて、今までのところ早熟なスピード志向が見えるものが多いが、本馬のレースぶりがこれまでの例とは一線を画すことは明らか。母インナーアージは全4勝のうち最後の勝利を芝2500mで挙げており、祖母ミュージカルウェイFRは1950mのドラール賞-G2や2000mのラクープドメゾンラフィット-G3(2回)など3つの重賞に勝った。母の全妹にあたるミッキークイーンは優駿牝馬-G1と秋華賞-G1に勝ち、4、5歳時にはこのレースでも3着となった。ロードカナロアとディープインパクトの組み合わせには、キングカメハメハとサンデーサイレンスUSA、ストームキャットとディープインパクトという実績のあるニックスが含まれており、本馬の配合はミスタープロスペクター4×5、ヌレエフ5×5という現代的なスピードとパワーにつながりそうな近交でもある。


母の父として実績を積み上げるディープインパクト
馬名生年毛色重賞勝ち
キセキ2014黒鹿ルーラーシップ菊花賞-G1
Blowout2016鹿Dansili(GB)ファーストレイディS-G1、チャーチルディスタフターフマイルS-G2
ハッピーアワー2016鹿ハービンジャーGBファルコンS-G3
ヒンドゥタイムズ2016鹿せんハービンジャーGB小倉大賞典-G3
ファンタジスト2016黒鹿ロードカナロア京王杯2歳S-G2、小倉2歳S-G3
ブラヴァス2016鹿キングカメハメハ新潟記念-G3
ラストドラフト2016黒鹿ノヴェリストIRE京成杯-G3
アリストテレス2017鹿エピファネイアアメリカジョッキークラブC-G2
エヒト2017鹿ルーラーシップ七夕賞-G3、小倉記念-G3
ヒートオンビート2017鹿キングカメハメハ目黒記念-G2
ボンボヤージ2017鹿ロードカナロア北九州記念-G3
アンドヴァラナウト2018黒鹿キングカメハメハローズS-G2
オールアットワンス2018鹿マクフィGBアイビスサマーダッシュ-G3×2
ジェラルディーナ2018鹿モーリスエリザベス女王杯-G1、オールカマー-G2
ステラヴェローチェ2018黒鹿バゴFR神戸新聞杯-G2、サウジアラビアロイヤルC-G3
ディヴィーナ2018鹿モーリス府中牝馬S-G2
ビッグリボン2018鹿ルーラーシップマーメイドS-G3
マリアエレーナ2018クロフネUSA小倉記念-G3
ルークズネスト2018鹿モーリスファルコンS-G3
ワンダフルタウン2018鹿ルーラーシップ青葉賞-G2、京都2歳S-G3
プレサージュリフト2019黒鹿ハービンジャーGBクイーンC-G3
レッドモンレーヴ2019鹿ロードカナロア京王杯スプリングC-G2
オオバンブルマイ2020鹿ディスクリートキャットUSA京王杯2歳S-G2、アーリントンC-G3、(ゴールデンイーグル)
ドルチェモア2020鹿ルーラーシップ朝日杯フューチュリティS-G1、サウジアラビアロイヤルC-G3
マスクトディーヴァ2020黒鹿ルーラーシップローズS-G2
アスクワンタイム2021鹿ロードカナロア小倉2歳S-G3
ゴンバデカーブース2021青鹿ブリックスアンドモルタルUSAサウジアラビアロイヤルC-G3

 別定戦時代のマーメイドSは勝ち馬にエアグルーヴ、エリモエクセル、フサイチエアデール、ヤマカツスズラン、ローズバド、アドマイヤグルーヴ、ダイワエルシエーロとそうそうたる名前が並んでいたものだが、2006年にハンデ戦に替わるとレースの質はすっかり様変わりした。しかし、2015年の勝ち馬シャトーブランシュは繁殖入りすると、世界最強馬イクイノックスを生んだ。牝馬の重賞には内容が格付けに見合わないと思われるものがときどきあるが、それでも大切にしなければならない理由がここにある。今年の勝ち馬○ビッグリボンは菊花賞馬キセキの全妹で朝日杯フューチュリティS-G1のドルチェモアとも同じ大物配合ルーラーシップ×ディープインパクト。祖母ロンドンブリッジはファンタジーSに勝ち桜花賞2着の活躍馬で、産駒ダイワエルシエーロは優駿牝馬に勝った。5歳でもまだまだ伸びる余地がある。

 3歳時のジェンティルドンナが桜花賞-G1、優駿牝馬-G1、ローズS-G2、秋華賞-G1と連勝しているときにすべて2着だったのがヴィルシーナで、エリザベス女王杯-G1ではやっとジェンディルドンナがいなくなったと思ったらレインボーダリアの大駆けにクビ差2着と敗れ、それでもその後は2度ヴィクトリアマイル-G1に勝っている。同じ時代に走るのがもったいないような2頭の娘は同じモーリスを父として同じレースを走ることになった。母の序列が仔にも引き継がれることがあるとすると夢のない話だが、現実はおそらく夢のないことの方が多いので、▲ジェラルディーナ△ディヴィーナが妥当なところなのではないだろうか。

 △サリエラは今回唯一のディープインパクト直仔。その数が減ってきたとはいえ、先週はブリーダーズCターフ-G1のオーギュストロダン、アルゼンチン共和国杯-G2のゼッフィーロと重賞2勝でさすがの力を示した。


競馬ブックG1特集号「血統をよむ」2023.11.12
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