|
一昨年のスプリンターズS-G1に勝ったピクシーナイトはグラスワンダーUSA〜スクリーンヒーロー〜モーリスから父系4代連続でのG1級制覇だった。それぞれサイアーランキングでの最高位はグラスワンダーUSAが10位(2008年)、スクリーンヒーローが15位(2022年)、モーリスは9位(2022年)で今年は6位まで上昇しているが、いずれにしてもチャンピオンサイアーというわけではない。何代にもわたる父系の存続は、種牡馬としての量的な成功とはまた別の要素があるようだ。例えばテスコボーイGBは1970年代の日本のチャンピオンサイアーで、キタノカチドキやトウショウボーイをはじめとして多くの名馬・名牝を送り出し、トウショウボーイは種牡馬としても大成功を収めたが、父系としては途絶えてしまった。下表はテスコボーイGBの曾孫の代で重賞勝ちを果たした系統を抜き書きしたものだが、トウショウボーイより9年あとに生まれたサクラユタカオーが主に直仔サクラバクシンオーのお陰により父系を伸ばしている。乱暴な話をすると、サンデーサイレンスUSA系の優れた馬は多くの配合相手を集めて優れた馬をたくさん出したが、そうなると右も左もサンデーサイレンスUSA系が溢れてしまって配合が行き詰まる。父系の存続という観点では、そこそこの成功で細く長く続くのが望ましいが、これはこれで狙ってできるものでもない。◎トウシンマカオはサクラユタカオーから数えて4代目。父ビッグアーサーは2016年のこのレースの勝ち馬で、その母シヤボナUSAはキングマンボ×サドラーズウェルズのいわゆるエルコンドルパサーUSA配合。この母の血は日本的な軽快なスピードを身上としたサクラバクシンオーに欧米標準の力強さを加える効果が大きかったのだと思う。2018年から種牡馬入りしてこの世代が初年度産駒。重賞勝ちはひと世代下のブトンドールが昨夏の函館2歳S-G3でひと足先に果たしており、今のところそこそこの成功を収めているといえそうだ。スペシャルウィーク産駒の母ユキノマーメイドは芝1800m〜2000mで4勝を挙げ、産駒ベステンダンクは米子Sなど7勝を挙げマイラーズC-G2で2着となった。祖母サスペンスクイーンUSAはウッドマン産駒の輸入競走馬。芝1000m〜1200mで3勝を挙げた。ニジンスキー産駒の3代母クリスタルカップの産駒にはスプリントC-G1のイクタマル、アーカンソーダービー-G2のロッカムンド、コンセイユドパリ賞-G2のファーストマグニチュード、孫にはジムクラックS-G2のコンケスト、曾孫にはクラシックトライアルS-G3のアバヴアヴェレイジ、プレスティジS-G3のセントフロムヘヴンら多くの活躍馬が出た。4代母ローズボウルはハビタットの娘で英チャンピオンS-G1、クイーンエリザベス2世S-G2に勝った名牝。5代母ロゼリエールの産駒にはキングジョージ6世&クイーンエリザベスS-G1のイルドブルボンUSAがいる。1970年代からの名門牝系と日本の在来父系の組み合わせを、ミスタープロスペクター4×4とサンデーサイレンスUSAの現代的な血が支える形。まだこれから強くなる余地がたっぷりありそうだ。 |
| テスコボーイGB父系の半世紀 |
|
テスコボーイGB Tesco Boy 1963年生、黒鹿毛 クイーンアンSなど英5勝 トウショウボーイ 1973、鹿 有馬記念、皐月賞、宝塚記念 | ミスターシービー 1980、黒鹿 天皇賞(秋)、東京優駿、菊花賞、皐月賞 | | メイショウビトリア 1987、鹿 ステイヤーズS | | ヤマニングローバル 1987、鹿 デイリー杯3歳S、ア共和国杯、目黒記念 | サクラホクトオー 1986、鹿 朝日杯3歳S、アメリカJCC、セントライト記念 | サクラスピードオー 1993、黒鹿 共同通信杯4歳S、京成杯 サンシャインボーイ 1974、栃栗 | ステートジャガー 1981、鹿 大阪杯 | メルシーステージ 1991、鹿 毎日杯、アーリントンC サクラユタカオー 1982、栗 天皇賞(秋)、大阪杯、毎日王冠、共同通信杯4歳S サクラバクシンオー 1989、鹿 スプリンターズS×2、スワンS | ショウナンカンプ 1998、鹿 高松宮記念、スワンS、阪急杯 | | ショウナンアチーヴ 2011、黒鹿 ニュージーランドT | ビッグアーサー 2011、鹿毛 高松宮記念-G1、セントウルS-G2 | トウシンマカオ 2019、栗 京阪杯-G3 エアジハード 1995、栗 安田記念、マイルチャンピオンシップ、富士S ナナヨーヒマワリ 2001、栗 マーチS-G3 ショウワモダン 2004、鹿 安田記念-G1、ダービー卿チャレンジT-G3 |
| 重賞勝ち鞍は主なもの。牝馬は省略 |
|
ミッキーアイルは2016年のこのレースでビッグアーサーに3/4馬身差されて2着。秋のスプリンターズS-G1でもレッドファルクスにアタマ差敗れて、結局スプリントG1のタイトルは得られずに終わった。そのような因縁があるので、ミッキーアイルの娘2頭が「おのれ、父の仇!」と曽我姉妹的闘志を燃やす可能性がないとはいえない。○ナムラクレアは3代母クドジェニがニアルコス家の名牝。モルニ賞-G1、サラマンドル賞-G1に勝ち、娘のデネボラUSAはマルセルブサック賞-G1に、孫のバゴFRは凱旋門賞-G1に、曾孫のセンガは仏オークス-G1に勝った。4代母クドフォリは主に産駒マキアヴェリアンを通じて現代まで大きな影響力を及ぼす牝馬。6代母がナタルマなので、ナタルマ3×3のデインヒルUSAをはじめとするノーザンダンサーの血と、牝祖が同じアルマームードのヘイローの血を散りばめた上で、ディープインパクト×ストームキャットのニックスと、ヌレエフ×クドジェニのニアルコス家同士の組み合わせでまとめた技巧的な配合。 同じ父の▲メイケイエールは3代母がソダシの祖母という白毛の名門から出た鹿毛。サンデーサイレンスUSA3×4に加え、母の父がハービンジャーGBなのでデインヒルUSA4×4の近交となっている。重賞勝ちの数では同い年のソダシと並んでいるので、あとはG1のタイトルが欲しいところだ。 △ウインマーベルの父アイルハヴアナザーUSAは2012年のケンタッキーダービー-G1とプリークネスS-G1に勝った名馬。三冠のかかったベルモントS-G1の直前に脚部不安が出て出走を取り消し、間もなく日本に輸入された。日本では2013年から2018年まで供用され、初年度産駒がアンタレスS-G3とダイオライト記念に勝ったアナザートゥルースで、輸出後にアナザートゥルースが重賞勝ちを果たしているように、いなくなってから産駒が走る典型ではあり、そういった点からは最後の世代となった本馬が父の種牡馬としてのポテンシャルを示すケースがあるかもしれない。フジキセキ産駒の母は紫苑SやターコイズSといった今はグレード認定されているレースを含め7勝を挙げた活躍馬。3代母シングルブレイドはガゼルH-G1勝ち馬。 △アグリが勝てば、今年から日本で供用されている父カラバッジオUSAにとってはこれ以上ない親孝行となる。 |
競馬ブックG1特集号「血統をよむ」2023.3.26
©Keiba Book