2023天皇賞・春


京都を待っていたのは誰だ

 天皇賞(春)を連覇した馬は過去にメジロマックイーン(1991、1992)、テイエムオペラオー(2000、2001)、フェノーメノ(2013、2014)、キタサンブラック(2016、2017)、フィエールマン(2019、2020)の5頭。近年に集中しているのは1980年以前の天皇賞は勝ち抜け制で、1度勝った馬が出走できなかったため。前年の菊花賞馬が天皇賞(春)に勝ったのはハクリョウ(1954)、メイヂヒカリ(1956)、キタノオー(1957)、タケホープ(1974)、シンボリルドルフ(1985)、メジロマックイーン(1991)、ライスシャワー(1993)、ビワハヤヒデ(1994)、マンハッタンカフェ(2002)、ヒシミラクル(2003)、ディープインパクト(2006)、キタサンブラック(2016)、フィエールマン(2019)、タイトルホルダー(2022)の14例がある。このうちメジロマックイーンとキタサンブラック、フィエールマンの3頭は菊花賞・天皇賞(春)ダブルの翌年に天皇賞(春)連覇を達成している。メジロマックイーンの3連覇は前年の菊花賞馬ライスシャワーに阻止されたが、テイエムオペラオーは前年の菊花賞馬エアシャカールを、キタサンブラックは同じくサトノダイヤモンドの挑戦を斥けて連覇を達成している。前年の天皇賞馬対菊花賞馬という構図のほかに、3年ぶりに京都に戻ったことを重視するなら、2013年からフェノーメノ、フェノーメノ、ゴールドシップとステイゴールド産駒が3連覇して、2016年、2017年はキタサンブラックが連覇、ステイゴールド産駒レインボーラインを挟んで2019年、2020年はディープインパクト産駒フィエールマンが連覇と、この間はステイゴールド、ディープインパクト=ブラックタイドしか勝っていない点は気に留めておく必要がある。ステイゴールド直仔が8歳馬アフリカンゴールドしかいないこと、下表に示した通り後継種牡馬の産駒のこのレースにおける成績が現時点ではパッとしないことを考えると、ディープインパクトを重視するのが正しいようだ。
 連覇か、菊花賞馬かという二者択一にとらわれてしまうと第三の勢力が台頭するもので、◎ジャスティンパレスに期待してみたい。母のパレスルーマーUSAは米5勝。重賞勝ちはないが、3歳8月にブラックタイプ競走のオーデュボンオークスに勝った。この牝馬が真価を発揮したのは繁殖入りしてからで、カーリンを父に持つ産駒パレスマリスはベルモントS-G1、メトロポリタンH-G1など米重賞6勝、オルフェーヴルを父に持つアイアンバローズは阪神大賞典-G2とステイヤーズS-G2で2着となった。ミスタープロスペクター系のカーリン、オルフェーヴル、そして本馬の父がディープインパクトと、どのような系統の種牡馬でも優れた長距離適性を持った産駒が出る要因は、スウェインやチーフベアハートCAN、ダイラミといった優れた芝馬の多い時代にキングエドワード7世S-G2、カナディアン国際S-G1、英インターナショナルS-G1、ガルフストリームパークBCH-G1と4つの重賞勝ちを重ねた母の父ロイヤルアンセムに求められそうだが、母の父としてのロイヤルアンセムの成功例はほぼこの兄弟に限られているので、母自体が秘伝の長距離適性的な何かを持っているのかもしれない。3代母の孫にハリウッドゴールドカップ-G1のレイルトリップがいる程度の比較的地味な牝系で、それだけに母の有能さが突出して見える。ちなみにディープインパクト産駒は正規のG1勝利100まであと2と迫っている。


春の天皇賞2大種牡馬の成績対照表
ディープインパクト(3.2.2.20)ステイゴールド(4.1.2.16)
年度着順産駒人気前走着順年度着順産駒人気前走着順
2019[1]フィエールマン1AJCCG222013[1]フェノーメノ2日経賞G21
2020[1]フィエールマン1有馬記念G142014[1]フェノーメノ4日経賞G25
2021[1]ワールドプレミア3日経賞G232015[1]ゴールドシップ2阪神大賞典G21
2013[2]トーセンラー3京都記念G212018[1]レインボーライン2阪神大賞典G21
2019[2]グローリーヴェイズ6日経新春杯G212020[2]スティッフェリオ11日経賞G23
2017[3]サトノダイヤモンド2阪神大賞典G212009[3]ドリームジャーニー5大阪杯G21
2021[3]カレンブーケドール4日経賞G222019[3]パフォーマプロミス8京都記念G24
直仔の種牡馬成績:トーセンホマレボシ(2020[3]ミッキースワロー)、ディープブリランテ(2020[7]モズベッロ、2021[10]ナムラドノヴァン)直仔の種牡馬成績:ナカヤマフェスタ(2018[14]ガンコ、2019止ヴォージュ)、ドリームジャーニー(2020[12]ミライヘノツバサ)、オルフェーヴル(2020[11]、2021[11]、2022[9]メロディーレーン、2021[10]オーソリティ、2021[13]オセアグレイト、2022[5]アイアンバローズ、2022[17]タガノディアマンテ、2022止シルヴァーソニック)、ゴールドシップ(2022[11]マカオンドール)

 現役最強ステイヤーとの肩書を保持しているところの○タイトルホルダーにとっては初の京都コースとなる。コース替わりがどう影響するのかは分からないが、ドゥラメンテ自身は京都で走ったことがなく、産駒も初年度産駒がデビューした2020年の秋に走っただけで、当時はアスコルターレがもみじSに勝ち、ジュンブルースカイが萩Sで2着となっている。母の父がモティヴェイター、モンジューIRE、サドラーズウェルズと遡り、祖母の父がシャーリーハイツという構成は欧州型で重い。無理に死角を探すとすれば、そのあたりをディープインパクト的な瞬発力に突かれた場合ということになる。

 菊花賞馬▲アスクビクターモアはディープインパクトが晩年に送り出した正統派欧州型ステイヤーといえる。母の父レインボウクウェストはサドラーズウェルズ、エルグランセニョールらと同じ1981年生まれで、欧州血統のひとつの画期となった世代。サドラーズウェルズとの戦いに敗れてというわけでもないが、エルグランセニョールとともに今では血統表で見ることもまれになったが、それでも残っているのは優れた個体である証拠ということもできる。母カルティカGBはフィユドレール賞-G33着で、本馬の半姉にあたるケマーはコロネーションS-G1、ロートシルト賞-G1など英仏のマイル重賞で4勝を挙げた名牝。祖母ケイマンサンセットはカナディアンH-G2で3着となり、孫のプリティゴージャスはフィリーズマイル-G1に勝ち全欧2歳女王となった。

 オルフェーヴル自身は2012年のこのレースで1番人気11着となり、産駒もこれまでのところパッとしない。それでも娘のマルシュロレーヌがブリーダーズCディスタフ-G1を勝ったり、息子のウシュバテソーロがドバイワールドC-G1を勝ったり、容易に乗り越えられない壁を容易に越えて歴史的快挙を続けている。△シルヴァーソニックは前年の競走中止から立ち直り国内外で重賞連勝中。母エアトゥーレも祖母スキーパラダイスUSAも国境を越えて活躍した名牝。G1も壁にはならないだろう。

 △ボルドグフーシュはレーティングでは今回出走の4歳世代で首位。あえて20世紀的感覚でいうと、ここ一番で怖いロベルト。


競馬ブックG1特集号「血統をよむ」2023.4.30
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