2023チャンピオンズカップ


王冠に至る長い旅

 広く報じられている通り、来年からはダートグレード競走の体系が大きく変わり、3歳三冠路線が作られるほかにも、短距離路線のテコ入れや開催場、日程の移動なども行われる。3歳三冠だけでなく、さきたま杯のJpn1化など、どさくさ紛れの格付け大盤振る舞いが過ぎないかということは大きな声ではいえないが、率直な感想として数少ない小欄の愛読者の目に触れるよう書き留めておきたいところではある。慣れ親しんだ下表のダートチャンピオンシップ路線も川崎記念の4月への移動により若干変化は起きるはずで、中東方面に向かう一流馬が東海S-G2に集中することになるのだろうか。2023年は序盤に世界最高賞金競走サウジカップ-G1をパンサラッサが、かつての世界最高賞金競走ドバイワールドカップ-G1をウシュバテソーロが、更に秋にはダート界の本家本丸であるブリーダーズカップクラシック-G1においてデルマソトガケが2着となった。ローカル競技扱いされていた日本のダート競馬がじかに世界へとつながっていることが明らかになったという点で画期的だ。
 パンサラッサがロードカナロア産駒、ウシュバテソーロがオルフェーヴル産駒と中東の大レース勝ち馬はいずれも芝の主流父系だった。国内のダートではゴールドアリュールのフェードアウトとともにサンデーサイレンスUSA系の影響力が薄らぎ、エーピーインディ系の勢力が拡大している。アンブライドルドやキングマンボを擁するミスタープロスペクター系もキングカメハメハの穴を埋めるものが現れた。出走馬15頭を父系で見るとサンデーサイレンスUSA系6頭、キングマンボ系4頭、エーピーインディ系3頭、ストームキャット系2頭と、実に日米合作的な色分けとなった。多数派だからどうなるというものでもないが、ここはサンデーサイレンスUSA系の覇権奪還のタイミングではないだろうか。昨年のこのレースの◎クラウンプライドは9割方勝ったと見えたところをジュンライトボルトの強襲に遭った。その後のアジアツアーは中東での掲示板確保、帝王賞2着からのコリアカップ-G3圧勝でまとめて、前年からの地力強化と上昇ぶりを示している。父リーチザクラウンはきさらぎ賞-G3に勝ち、東京優駿2着の活躍馬。母がシアトルスルー×ミスタープロスペクター、牝祖がクリスエヴァートという良血は種牡馬となって真価を発揮した。キングカメハメハ産駒の母エミーズプライドは門別と船橋のダート1200mで9勝。祖母エミーズスマイルはアネモネSに勝ち、産駒ホウオウエミーズは先日の福島記念-G3に勝った。牝系も勢いに乗っている。スペシャルウィークとアグネスタキオンを経由したサンデーサイレンスUSA3×4でミスタープロスペクター4×4を挟み、なおかつその周囲を良血で隙間なく埋めた配合は爆発力を秘める。スペシャルウィーク→リーチザクラウンと続く父系は、ブラックタイド→キタサンブラック→イクイノックスの成功譚の別バージョンというべき趣もある。


ダート戦線の覇権の変遷
年度川崎記念フェブラリーSG1かしわ記念帝王賞JDダービー南部杯JBCクラシックチャンピオンズCG1東京大賞典G1
2014ホッコータルマエKMコパノリッキーSSコパノリッキーSSワンダーアキュートSBカゼノコMPベストウォーリアUSAAPコパノリッキーSSホッコータルマエKMホッコータルマエKM
2015ホッコータルマエKMコパノリッキーSSワンダーアキュートSBホッコータルマエKMノンコノユメFNベストウォーリアUSAAPコパノリッキーSSサンビスタ fSSサウンドトゥルーDM
2016ホッコータルマエKMモーニンUSASCコパノリッキーSSコパノリッキーSSキョウエイギアSSコパノリッキーSSアウォーディーUSAGSサウンドトゥルーDMアポロケンタッキーUSADz
2017オールブラッシュMPゴールドドリームSSコパノリッキーSSケイティブレイブSSヒガシウィルウィンFNコパノリッキーSSサウンドトゥルーDMゴールドドリームSSコパノリッキーSS
2018ケイティブレイブSSノンコノユメFNゴールドドリームSSゴールドドリームSSルヴァンスレーヴRbルヴァンスレーヴRbケイティブレイブSSルヴァンスレーヴRbオメガパフュームFN
2019ミツバSSインティMPゴールドドリームSSオメガパフュームFNクリソベリルSSサンライズノヴァSSチュウワウィザードKMクリソベリルSSオメガパフュームFN
2020チュウワウィザードKMモズアスコットUSASWワイドファラオSCクリソベリルSSダノンファラオUbアルクトスSSクリソベリルSSチュウワウィザードKMオメガパフュームFN
2021カジノフォンテンAPカフェファラオUSAUbカジノフォンテンAPテーオーケインズAPキャッスルトップMPアルクトスSSミューチャリーAPテーオーケインズAPオメガパフュームFN
2022チュウワウィザードKMカフェファラオUSAUbショウナンナデシコ fSSメイショウハリオAPノットゥルノSSカフェファラオUSAUbテーオーケインズAPジュンライトボルトKMウシュバテソーロSS
2023ウシュバテソーロSSレモンポップUSAKMメイショウハリオAPメイショウハリオAPミックファイアAPレモンポップUSAKMキングズソードAP
同一年度にG1/Jpn1を2勝以上した馬は太字。2歳、牝馬限定戦、スプリント戦を除く。 は牝馬。
馬名の右のコラムは父系。AP=エーピーインディ、DM=デピュティミニスター、Dz=ダンチヒ、FN=フォーティナイナーUSA、GS=グレイソヴリン、KM=キングマンボ、MP=ミスタープロスペクター、Rb=ロベルト、SB=ストームバード、SC=ストームキャット、SS=サンデーサイレンスUSA、SW=サドラーズウェルズ、Ub=アンブライドルド

 ○レモンポップUSAは南部杯を大差勝ち。着差2秒を1馬身=0.16秒として割り算すると12馬身半の差になり、プレレーティングの120は過小評価とはいわないまでもやや控えめかなという印象はある。力で圧倒する勝ち方はいかにもキングマンボ系らしいもの。祖母は大種牡馬デインヒルの全妹でシャーリージョーンズH-G3勝ち馬。5代母ナタルマはやはり大種牡馬ノーザンダンサーの母で、血統表の3代目は歴史的な名馬と名牝だけが埋めている。レモンドロップキッド産駒なら距離が問題となることはないように思う。

 表に現れる今年の「AP」はメイショウハリオがパイロ産駒で、最後の南関東三冠馬ミックファイアと重賞初勝利がJpn1だったキングズソードがいずれもシニスターミニスター産駒。シニスターミニスターには既成勢力をひっくり返す力もあるということになる。▲メイクアリープは母の父が昨年の勝ち馬と同じスペシャルウィーク。5代母がソシアルバターフライUSAという古い名門ながら、近いところの活躍馬は4代母ブルートウショウの産駒に中京記念など重賞4勝のトウショウレオがいる程度だが、血統表5代目にヴァイスリージェント、ニジンスキー、ノーザンテーストCANとE.P.テイラー・ブランドのノーザンダンサー直仔が並ぶあたりは現代的。

 ストームキャット系はこの表に見る限りではモーニンUSAとワイドファラオが登場するのみで、範囲をストームバード系に広げてもワンダーアキュートが加わるくらい。逆の見方をすればそろそろ反撃のタイミングではあるのかもしれない。△セラフィックコールはストームキャット系×サンデーサイレンスUSA系の正統派で、牝系はヴィルシーナやシュヴァルグラン、ヴィブロスらがいる名門。

 ダートでも強いドゥラメンテは2頭出し。アイコンテーラーは伯父にトウショウナイトがいて3代母ノーザネットはカナダのチャンピオン牝馬。


競馬ブックG1特集号「血統をよむ」2023.12.3
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