2023天皇賞(秋)


穴血統と呼んでは失礼ながら

 ディープインパクト産駒はそのラストクロップである2020年生まれ、現3歳世代のオーギュストロダンの英ダービー-G1勝利によってパート1G1・100勝に達した。オーギュストロダンはその後愛ダービー-G1、愛チャンピオンS-G1にも勝って59頭が通算102のG1に勝ったことになる。さすがにもうこの先は新勢力の台頭もなさそうなので、今ある戦力でどこまで記録を伸ばしていけるかということになる。下表のうち、日本の芝2000mにおけるG1勝ちは秋華賞-G1・5、皐月賞-G1・3、大阪杯-G1・3、ホープフルS-G1・2、天皇賞(秋)-G1・1の計14。天皇賞(秋)-G1は意外にも2014年スピルバーグの1勝があるのみで、実は2着が大変に多い。時系列順にたどると、2013年ジェンティルドンナ(1番人気)、2014年ジェンティルドンナ(2番人気)、2015年ステファノス(10番人気)、2016年リアルスティール(7番人気)、2018年サングレーザー(4番人気)、2019年ダノンプレミアム(3番人気)、2020年フィエールマン(5番人気)、2021年コントレイル(1番人気)と8回あり、そのほとんどが人気薄だったということに注目しておきたい。ロンジン・ワールドベストレースホースランキングの首位と昨年の東京優駿-G1でそれを破った馬が揃っているだけに2頭のディープインパクト産駒にとっては走りごろ、狙ってお値打ちなのではないだろうか。ディープインパクト産駒として4度目の天皇賞(春)-G1に勝った◎ジャスティンパレスはベルモントS-G1勝ち馬パレスマリスの半弟。兄がベルモントS-G1に勝っていて、もう1頭の半兄アイアンバローズが阪神大賞典-G2やステイヤーズS-G2の2着馬、そして自身が天皇賞(春)-G1の勝ち馬なのだからステイヤーということで間違いはないが、パレスマリスはその後4歳時にメトロポリタンH-G1で強豪マイラー・ゴールデンセンツを破っているので、より短い距離でより高い能力を発揮できるという面もある。事実、本馬の宝塚記念-G1もイクイノックスからクビ差のスルーセブンシーズから1馬身差。ずっと長距離・超長距離を走ってきた身であれば、上等といえる内容だったのではないだろうか。母の父ロイヤルアンセムはシアトリカル直仔のステイヤーで、母の父としてはほとんどこの母パレスルーマーUSAを通じてのみ成功しているといえる程度だが、祖母の父レッドランサムの存在は、ダノンプレミアムの母の父がその直仔インティカブだったことを考えると何かしらのニックス的な関係があるのかもしれない。レッドランサムは母の父がダマスカスなので、このあたりキズナ(祖母の父がダマスカス)を思い出させないでもない。


ディープインパクト産駒のG1勝利102
ダノンシャーク(2008、牡、マイルチャンピオンシップ)
トーセンラー(2008、牡、マイルチャンピオンシップ)
マルセリーナ(2008、牝、桜花賞)
リアルインパクト(2008、牡、安田記念、ジョージライダーS・豪)
Beauty Parlour(2009、牝、プールデッセデプーリッシュ・仏)
ヴィルシーナ(2009、牝、ヴィクトリアマイル×2)
ジェンティルドンナ(2009、牝、桜花賞、優駿牝馬、秋華賞、ジャパンカップ×2、ドバイシ
 ーマクラシック・首、有馬記念)
ジョワドヴィーヴル(2009、牝、阪神ジュベナイルフィリーズ)
スピルバーグ(2009、牡、天皇賞・秋)
ディープブリランテ(2009、牡、東京優駿)
アユサン(2010、牝、桜花賞)
キズナ(2010、牡、東京優駿)
ラキシス(2010、牝、エリザベス女王杯)
エイシンヒカリ(2011、牡、香港カップ、イスパーン賞・仏)
サトノアラジン(2011、牡、安田記念)
ショウナンパンドラ(2011、牝、秋華賞、ジャパンカップ)
トーセンスターダム(2011、牡、トゥーラクH・豪、エミレーツS・豪)
ハープスター(2011、牝、桜花賞)
マリアライト(2011、牝、エリザベス女王杯、宝塚記念)
ミッキーアイル(2011、牡、NHKマイルカップ、マイルチャンピオンシップ)
ショウナンアデラ(2012、牝、阪神ジュベナイルフィリーズ)
ダノンプラチナ(2012、牡、朝日杯フューチュリティS)
ミッキークイーン(2012、牝、優駿牝馬、秋華賞)
リアルスティール(2012、牡、ドバイターフ・首)
ヴィブロス(2013、牝、秋華賞、ドバイターフ・首)
サトノダイヤモンド(2013、牡、菊花賞、有馬記念)
ジュールポレール(2013、牝、ヴィクトリアマイル)
シンハライト(2013、牝、優駿牝馬)
ディーマジェスティ(2013、牡、皐月賞)
マカヒキ(2013、牡、東京優駿)
Fierce Impact(2014、牡、トゥーラクH・豪、カンタラS・豪、マカイビーディーヴァS・豪)
アルアイン(2014、牡、皐月賞、大阪杯)
サトノアレス(2014、牡、朝日杯フューチュリティS)
Saxon Warrior(2015、牡、レーシングポストトロフィー・英、英2000ギニー)
Study of Man(2015、牡、ジョッキークラブ賞・仏)
グローリーヴェイズ(2015、牡、香港ヴァーズ×2)
ケイアイノーテック(2015、牡、NHKマイルカップ)
ダノンプレミアム(2015、牡、朝日杯フューチュリティS)
フィエールマン(2015、牡、菊花賞、天皇賞・春×2)
ワグネリアン(2015、牡、東京優駿)
グランアレグリア(2016、牝、桜花賞、安田記念、スプリンターズS、マイルチャンピオンシ
 ップ×2、ヴィクトリアマイル)
ダノンキングリー(2016、牡、安田記念)
ダノンファンタジー(2016、牝、阪神ジュベナイルフィリーズ)
ラヴズオンリーユー(2016、牝、優駿牝馬、クイーンエリザベスII世カップ・港、BCフィリー
 &メアターフ・米、香港カップ)
ロジャーバローズ(2016、牡、東京優駿)
ワールドプレミア(2016、牡、菊花賞、天皇賞・春)
Fancy Blue(2017、牝、ディアヌ賞・仏、ナッソーS・英)
コントレイル(2017、牡、ホープフルS、皐月賞、東京優駿、菊花賞、ジャパンカップ)
ポタジェ(2017、牡、大阪杯)
レイパパレ(2017、牝、大阪杯)
Glint of Hope(2018、牝、オーストラレイシアンオークス・豪)
Profondo(2018、牡、スプリングチャンピオンS・豪)
Snowfall(2018、牝、英オークス、愛オークス、ヨークシャーオークス・英)
アカイトリノムスメ(2018、牝、秋華賞)
シャフリヤール(2018、牡、東京優駿、ドバイシーマクラシック・首)
アスクビクターモア(2019、牡、菊花賞)
キラーアビリティ(2019、牡、ホープフルS)
ジャスティンパレス(2019、牡、天皇賞・春)
Auguste Rodin(2020、牡、フューチュリティトロフィーS・英、英ダービー、愛ダービー、
 愛チャンピオンS)

 ○プログノーシスは4月のクイーンエリザベス2世C-G1で世界ランキング入り寸前のパフォーマンス。勝った香港のロマンチックウォリアーはレーティング123で同ランキング11位タイ、そこから2馬身だからあと少しのところだった。そこから測ると札幌記念-G2圧勝も当然といえるもので、5歳とはいえ今回が2度目のG1挑戦という点に大きな伸びしろと可能性を見出せる。母系は3代にわたって英愛で生まれイタリアで出走してきた。本馬の半姉ヴォルダはフランス産で2歳時にロベールパパン賞-G2まで3連勝。モルニ賞-G1で牡馬のノーネイネヴァーの2着に敗れたが、英国に遠征してチェヴァリーパークS-G1に勝った。母の父オブザーヴァトリ、その父ディスタントヴューともにアブドゥラ殿下(ジャドモント)の勝負服で走った名マイラー、祖母の父マークオブエスティームはゴドルフィンの名マイラーだから、欧州型の底力に富んでいる。

 ひと昔前のこのレースでは血統表中にトニービンIREだったりノーザンテーストCANだったりを見つけることが勝利につながったこともある。▲イクイノックスは父の母の父サクラバクシンオー経由でノーザンテーストCANを、また、祖母を経由してトニービンIREも導入済みだから、その点でも隙がない。秋の天皇賞の連覇はシンボリクリスエスUSAとアーモンドアイの2例しかなく、両方東京となるとアーモンドアイのみ。天皇賞は1980年まで一度勝った馬が出走できない勝ち抜け制だったので、そもそも昔は仕組みとして連覇がないが、なぜか秋は時代を下ってもその難易度が高い。

 ハーツクライ産駒には高い素質を示して、その後一時停滞し、再び成長して高みに至るという成長曲線があるが、△ドウデュースはドバイの無念の取消で停滞期の厄落としが済んだと見ることができるのかもしれない。もどかしいレースが続く△ダノンベルーガもそろそろ上昇に転じるか。


競馬ブックG1特集号「血統をよむ」2023.10.29
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