2022安田記念


早撃ちキッドよ目を覚ませ

 上半期の総括をするにはまだ早いが、終わってから傾向をつかんでも馬券に生かせないので、取り急ぎ種牡馬別の傾向をまとめると(下表)、20世紀生まれのベテランが気を吐いた一方で、新種牡馬のドレフォンUSAがクラシック勝ち馬を送り、シルバーステート、キタサンブラックもクラシック入着馬を出した。ディープインパクトはG1勝利数でドゥラメンテの後塵を拝した。ガラッと一気に変わることはなくても少しずつ変化していることが分かる。世代交代の波がジワジワと来ている。このレースでもそれが進むとするならば、ディープインパクト、キングカメハメハ、ハーツクライそれぞれの後継種牡馬の産駒が中心となった争いになる。具体的にはキズナ、ルーラーシップ、トゥザグローリー、ロードカナロア、ジャスタウェイらの産駒から上位を窺うものが出るのではないか。中でもジャスタウェイは5歳時にドバイデューティフリー-G1で世界最高レーティングを得たあと、安田記念-G1に勝った。最新の東京優駿-G1勝ち馬ドウデュースはハーツクライ産駒だから、父系の勢いもある。◎ダノンザキッドは2歳時に3連勝でホープフルS-G1まで制覇したあと、停滞の3歳時を送り、4歳を迎えた。ジャスタウェイも世界チャンピオンの地位に上り詰めるまでは期待されながら停滞する時期が長く続いていた。大雑把にいうとハーツクライ系の一流馬には、素質を示し→停滞したあと→飛躍という流れを辿るものが少なくない。母のエピックラヴIREはデインヒルUSA系ダンシリの娘で仏国で活躍し、ヴァントー賞-G3に勝ち、サンタラリ賞-G1、ノネット賞-G2で2着となった。3代母のアルカンドは仏国でプシケ賞-G3に勝ち、米国に渡ってビヴァリーヒルズH-G1に勝った。ハーツクライの祖母ビューパーダンスUSAと、3代母の父アルザオを経由してリファール5×5となる。ここにドウデュースのリファール4×4との類似性を見ることもできるだろう。安田記念-G1父仔制覇で復活というのも、実現すれば出来過ぎた話と思えるが、そのような人を驚かす派手さこそがジャスタウェイらしさではある。


本年5月までの種牡馬別G1成績
順位種牡馬名生年1着2着3着着外主な成績(3着以内)
1ドゥラメンテ20123014天皇賞(春)(タイトルホルダー)、桜花賞(スターズオンアース)、優駿牝馬(スターズオンアース)、3着:大阪杯(アリーヴォ)
2ディープインパクト200221218ドバイシーマクラシック(シャフリヤール)、大阪杯(ポタジェ、2着:レイパパレ)、3着:東京優駿(アスクビクターモア)、3着:ドバイターフ(ヴァンドギャルド)
3ロードカナロア20082118ドバイターフ(パンサラッサ)、NHKマイルC(ダノンスコーピオン)、2着:ドバイゴールデンシャヒーン(レッドルゼル)、3着:高松宮記念(キルロード)
4クロフネUSA19981010ヴィクトリアマイル(ソダシ)、3着:フェブラリーS(ソダシ)
5ドレフォンUSA20131013皐月賞(ジオグリフ)、3着:NHKマイルC(カワキタレブリー)
6ハーツクライ200110114東京優駿(ドウデュース)、3着:皐月賞(ドウデュース)
7American Pharoah20121000フェブラリーS(カフェファラオUSA)
8ゴールドアリュール19991001高松宮記念(ナランフレグ)
9キタサンブラック201202002着:東京優駿(イクイノックス)、2着:皐月賞(イクイノックス)
10キズナ201002082着:天皇賞(春)(ディープボンド)、2着:ヴィクトリアマイル(ファインルージュ)
11ダイワメジャー200101142着:NHKマイルC(マテンロウオリオン)、3着:ヴィクトリアマイル(レシステンシア)
12Point of Entry200801002着:高松宮記念(ロータスランド)
12サウスヴィグラスUSA199601002着:フェブラリーS(テイエムサウスダン)
14シルバーステート201301022着:桜花賞(ウォーターナビレラ)
15キングカメハメハ200101192着:優駿牝馬(スタニングローズ)、3着:ドバイワールドC(チュウワウィザード)
16ミッキーアイル201100133着:桜花賞(ナムラクレア)
16ハービンジャーGB200600133着:優駿牝馬(ナミュール)
18リオンディーズ201300143着:天皇賞(春)(テーオーロイヤル)
19オルフェーヴル2008001103着:ドバイシーマクラシック(オーソリティ)
海外G1での日本調教馬の成績を含む

 安田記念-G1に勝ったディープインパクト産駒4頭のうち、サトノアラジンとダノンキングリーはいずれも母の父がストームキャットだった。ディープインパクト×ストームキャットがマイル部門だけに適性が高いわけではないが、この配合のキズナに高いマイル適性が潜在している理由と考えることはできるだろう。○ソングラインは母の父がシンボリクリスエスUSAで、これは今のところ父の唯一のG1勝ち産駒アカイイトと同じ。祖母ルミナスポイントがアグネスタキオン産駒なので、本馬はサンデーサイレンスUSA3×4となる。3代母ソニンクGBは産駒にエルムS-G3のランフォルセ、アーリントンC-G3のノーザンリバー、孫に東京優駿のロジユニヴァース、ナッソーS-G1のディアドラがいる。4代母ソニックレイディはヌレエフの娘で、ムーランドロンシャン賞-G1、愛1000ギニーに勝った名マイラー。

 ▲シュネルマイスターGERは東京では強い競馬しかしておらず、グランアレグリアがいないここで負けるとは考えにくいが、グランアレグリアのいないドバイでは負けてしまった。キングマンの代表産駒であるパレスピアは3歳時にセントジェイムズパレスS-G1、ジャックルマロワ賞-G1に勝ち、4歳時は更に強くなってロッキンジS-G1、クイーンアンS-G1、ジャックルマロワ賞-G1に勝った。もう1頭の代表産駒といえるパーシャンキングは3歳時に仏2000ギニー-G1に勝ち、4歳時にもイスパーン賞-G1やムーランドロンシャン賞-G1に勝った。そのように4歳を迎えてのもう1段階の成長には期待できるかもしれない。しかも、牝系は底力のあるドイツの名門シュヴァルツゴルト系だ。ただ、ドイツの名門Sラインと紋切り型のいい方をするのには問題があって、3代母が同じサリオスが高い能力を示しながらも勝ち切れないでいるのを見ると、同様の停滞にとらわれる恐れがなきにしもあらず。

 キングカメハメハ後継としてドゥラメンテ、ロードカナロア、リオンディーズの先輩格にあたるのがルーラーシップ。キセキの2017年菊花賞-G1、メールドグラースの2019年のコーフィールドC-G1のあとはG1勝ちから遠ざかっているが、△ソウルラッシュのような急上昇型にはG1まで突き抜ける期待がかけられそうだ。祖母キャットアリUSAの産駒に青葉賞-G2のヒラボクディープがあり、名種牡馬ヘネシーUSAも同じ牝系。

 カフェファラオUSAの父は米三冠馬ながら産駒の米欧でのG1勝ち馬は4頭のうち3頭が芝。母は米国の芝とダートで2勝ずつ挙げているが、重賞2勝はいずれも芝。一発があって驚けない。


競馬ブックG1特集号「血統をよむ」2022.6.5
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