2022秋華賞


秋の色が兆すハービンジャーGB

 1965年の第44回凱旋門賞にはフランス調教の英ダービー馬シーバード、仏ダービー馬レリアンス、イギリス調教の愛ダービー馬メドウコート、アメリカのプリークネスS勝ち馬でケンタッキーダービー3着、ベルモントS2着のトムロルフ、ソ連ダービー馬アニリン、仏オークス馬ブラブラらの大変な強豪が揃っていた。直線で抜け出したのはシーバードで、ゴール前では外へと大きくヨレながらレリアンスに6馬身の差をつけた。今でもシーバードが歴史上最強馬だとする人はそう多く生きてはいないと思われるが、タイムフォームレート145は、フランケルが147を得るまで世界(というか欧州ね)最高だった。米国から初の遠征を敢行したトムロルフは勝ち馬から18馬身近く離された6着に終わった。この結果にダメだこりゃと思ったのかどうかは知らないが、凱旋門賞制覇をめざす米国馬はいなくなってしまった。だからといって、米国の名馬が世界一の評価を受けることがなくなったわけではない。以上のことをもちまして第101回凱旋門賞の個人的感想に替え、本題に入ります。
 ハービンジャーGBは4歳の2010年、キングジョージY世&クイーンエリザベスS-G1で1歳下の英ダービー馬ワークフォースGBと愛ダービー馬ケープブランコIREと対戦し、2着のケープブランコIREに11馬身の差をつけて圧勝した。その後に骨折、引退してしまい、凱旋門賞-G1に出走することはなかったが、その年の同競走では“キングジョージ”で5着に終わったワークフォースGBがナカヤマフェスタにアタマ差で勝っている。この年のワールドサラブレッドランキングではハービンジャーGBが135のレーティングを得てトップの評価を得た。日本で種牡馬となったハービンジャーGBは主に母系のサンデーサイレンスUSAのサポートを受けて成功し、特に2014年生まれと2015年生まれからは下表に示した通り集中的に名馬名牝が生まれた。これらの活躍したタイミングを見ると、太字で示している印象もあろうが、大物は3歳秋に本格化しているケースが多いように思える。表にない部分でペルシアンナイトの皐月賞-G12着やモズカッチャンの優駿牝馬-G12着があるのだが、傾向としては概ね正しいのではないだろうか。◎ナミュールはチューリップ賞-G2に勝ち優駿牝馬-G1で3着の春の成績からもモズカッチャンに似た成長曲線を辿っている。母のサンブルエミューズはサンデーサイレンスUSA系ダイワメジャー産駒で2歳時に芙蓉Sに勝った活躍馬。祖母ヴィートマルシェはダート1000mで1勝したのみだが、産駒に東京スポーツ杯2歳S-G32着のアヴニールマルシェ、そしてブリーダーズCディスタフ-G1勝ち馬マルシュロレーヌを生んだ。3代母キョウエイマーチは1997年の桜花賞に勝ち、産駒トライアンフマーチは皐月賞で2着となった。キョウエイマーチの父ダンシングブレーヴUSAは1986年の凱旋門賞-G1勝ち馬で、インターナショナルクラシフィケーションで得たレーティング141は史上最高(のちに138に引き下げられフランケルに次ぐ2位となった)で、ダンシングブレーヴUSAこそ最強の凱旋門賞馬と考える人はシーバード派よりも多く生き残っていることと思う。ちなみにハービンジャーGBの母の父である仏ダービー馬ベーリングは凱旋門賞-G1でダンシングブレーヴの2着。ベーリングの父系祖父が前述のシーバードだ。


ハービンジャーGBの旬はいつかな?
馬名生年母の父重賞勝ち
ベルーフ2012サンデーサイレンスUSA京成杯-G3(3歳1月)
ドレッドノータス2013サンデーサイレンスUSA京都2歳S-G3(2歳11月)、京都大賞典-G2(6歳10月)
ヒーズインラブ2013Includeダービー卿CT-G3(5歳3月)
プロフェット2013タニノギムレット京成杯-G3(3歳1月)
ディアドラ2014スペシャルウィーク紫苑S-G3(3歳9月)、秋華賞-G1(3歳10月)
クイーンS-G3(4歳7月)、府中牝馬S-G2(4歳10月)、
ナッソーS-G1(5歳8月)
ペルシアンナイト2014サンデーサイレンスUSAアーリントンC-G3(3歳2月)、マイルチャンピオンシッ
プ-G1(3歳11月)
モズカッチャン2014キングカメハメハフローラS-G2(3歳4月)、エリザベス女王杯-G1(3歳
11月)
ノームコア2015クロフネUSA紫苑S-G3(3歳9月)、ヴィクトリアマイル-G1(4歳5
月)、富士S-G3(4歳10月)、札幌記念-G2(5歳8月)、香
港カップ-G1(5歳12月)
ハービンマオ2015ゴールドアリュール関東オークス(3歳6月)
ブラストワンピース2015キングカメハメハ毎日杯-G3(3歳3月)、新潟記念-G3(3歳9月)、有馬
記念-G1(3歳12月)
、札幌記念-G2(4歳8月)、AJCC
-G2(5歳1月)
サマーセント2016サンデーサイレンスUSAマーメイドS-G3(4歳6月)
ニシノデイジー2016アグネスタキオン札幌2歳S-G3(2歳9月)、東スポ杯2歳S-G3(2歳11月)
ハッピーアワー2016ディープインパクトファルコンS-G3(3歳3月)
フィリアプーラ2016サンデーサイレンスUSAフェアリーS-G3(3歳1月)
ナミュール2019ダイワメジャーチューリップ賞-G2(3歳3月)
プレサージュリフト2019ディープインパクトクイーンC-G3(3歳2月)
太字は3歳下半期

 昨年の凱旋門賞-G1を制したドイツ馬トルカータータッソは本年3着に終わったが、1着アルピニスタのカーステン・ラウジング女史、2着ヴァデニのアガ・ハーン殿下はいずれもドイツ式系統繁殖によって所有馬を生産している。簡単にいえないことを簡単にいうと、牝系を厳格に管理することで時間をかけてその質を高める。どんな種をまいても高い成果が期待できるように畑の地力を高めるといえばいいだろうか。○スターズオンアースは祖母スタセリタFRがドイツ血統のフランス産馬で、仏オークス-G1など仏米G16勝の名牝。その産駒に優駿牝馬-G1のソウルスターリングがいる。米芝チャンピオン・スタインレンを生んだ6代母サザンシーズを経て10代母がドイツの歴史的名牝シュヴァルツゴルト。毎日王冠-G2のサリオスもその末裔にあたる。

 ▲スタニングローズはバラ一族として知られる名門ローザネイ系久々の大物で、父がキングカメハメハなので、叔父のローズキングダムを母の父クロフネUSAの血によって女子力をアップした形。

 もう1頭のハービンジャーGB産駒△プレサージュリフトは母がディープインパクトの初年度産駒で産駒初出走を果たしたシュプリームギフト。2歳の緑ゼッケン44番の小柄な馬だったと記憶している。こちらも秋に飛躍がありそう。

 △ライラックはサンデーサイレンスUSA3×4、ノーザンテーストCAN4×4×5でキングマンボを挟んだ現代的配合のオルフェーヴル産駒で一発があるならこれ。


競馬ブックG1特集号「血統をよむ」2022.10.16
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