2022皐月賞


必勝パターンをひとひねり

 エピファネイア産駒の活躍馬はその多くがサンデーサイレンスUSA4×3の近交となっていて、初年度産駒の三冠牝馬デアリングタクト、2年目のG1・3勝馬エフフォーリア、3年目の2歳女王サークルオブライフはいうに及ばず、菊花賞-G12着のアリストテレス、同じくオーソクレース、菊花賞-G13着のディヴァインラヴ、エリザベス女王杯-G13着のクラヴェルといずれもそれに該当し、例外を見つけるのが難しいほどだ。重厚な力の血統となりやすいシンボリクリスエス〜エピファネイアにサンデーサイレンスUSAの軽快さとか瞬発力を補うことによる成功というのはイメージしやすいが、ここまでパターンが固まるのも珍しい。◎サトノヘリオスはそのパターンを崩し、母の父がサンデーサイレンスUSAで同馬の4×2となった。強いインブリードの例としては英ダービー-G1、凱旋門賞-G1のラムタラがノーザンダンサー2×4、G1・11勝の名牝エネイブルがサドラーズウェルズ3×2であったことがよく知られるところ。サンデーサイレンスUSAの4×3が成功したのだから、もう一歩進めてみてもいいのではないかということでもある。母の父としてのサンデーサイレンスUSAの2歳、3歳限定のG1(級)の実績は下表の通りで、26勝とは意外に少ないように思えるかもしれないが、これを超えるのは恐らくサドラーズウェルズやデインヒルUSAくらいのもので、稼働期間の短さを考えればやはり大変な数字だといえる。アーモンドアイという大傑作を送ってピークアウトしたとしても、余勢というか余熱というか、もうひと花咲かすことはあっていい。母のエアマグダラは芝1600m〜2000mで4勝。産駒エアアンセム(父シンボリクリスエスUSA)は函館記念-G3に勝った。祖母エアデジャヴーはクイーンSに勝ち優駿牝馬2着、桜花賞で3着。産駒にアメリカJCCのエアシェイディ、秋華賞のエアメサイア、孫にデイリー杯2歳S-G2のエアスピネル、チャレンジC-G3のエアウィンザーがいる。3代母アイドリームドアドリームUSAの産駒エアシャカールは皐月賞と菊花賞に勝ち、孫のエアソミュールは毎日王冠-G2に勝った。このレースにも縁のある名門牝系で、終わってみればエピファネイア産駒の連覇ではないかということもあり得る。


母の父サンデーサイレンスUSAの世代限定G1級勝利
年度場所レース名距離勝ち馬父馬
2005阪神桜花賞1600ラインクラフトエンドスウィープUSA
2005東京NHKマイルC1600ラインクラフトエンドスウィープUSA
2005中山朝日杯フューチュリティS1600フサイチリシャールクロフネUSA
2006京都菊花賞3000ソングオブウインドエルコンドルパサーUSA
2007京都菊花賞3000アサクサキングスホワイトマズルGB
2007阪神阪神ジュベナイルF1600トールポピージャングルポケット
2008米国ウッドメモリアルS-G19FTale of EkatiTale of the Cat
2008阪神桜花賞1600レジネッタフレンチデピュティUSA
2008東京優駿牝馬2400トールポピージャングルポケット
2008中山朝日杯フューチュリティS1600セイウンワンダーグラスワンダーUSA
2009中山朝日杯フューチュリティS1600ローズキングダムキングカメハメハ
2010京都菊花賞-G13000ビッグウィークバゴFR
2010中山朝日杯フューチュリティS-G11600グランプリボスサクラバクシンオー
2011東京NHKマイルC-G11600グランプリボスサクラバクシンオー
2011京都秋華賞-G12000アヴェンチュラジャングルポケット
2011中山朝日杯フューチュリティS-G11600アルフレードシンボリクリスエスUSA
2012中山朝日杯フューチュリティS-G11600ロゴタイプローエングリン
2013中山皐月賞-G12000ロゴタイプローエングリン
2013仏国ジャンリュックラガルデール賞-G11400Karakontie(JPN)Bernstein
2014仏国プールデッセデプーラン-G11600Karakontie(JPN)Bernstein
2015中山皐月賞-G12000ドゥラメンテキングカメハメハ
2015東京東京優駿-G12400ドゥラメンテキングカメハメハ
2018阪神桜花賞-G11600アーモンドアイロードカナロア
2018東京優駿牝馬-G12400アーモンドアイロードカナロア
2018豪州フライトS-G11600OohoodI Am Imvincible
2018京都秋華賞-G12000アーモンドアイロードカナロア

 この世代のハーツクライ産駒は2歳チャンピオンが出現して、3歳を迎えて2月に重賞を2勝。皐月賞-G14頭出しは2017年と昨年の3頭を超える自己新記録となった。もっとも、2020年サリオスの2着が最高であとは4着以下なので、多く出せばいいというものでもないが、この世代がこれまでとは一線を画すのは間違いのないところだろう。○ダノンベルーガは母コーステッドUSAがブリーダーズCジュヴェナイルフィリーズターフ-G1の2着馬。その父ティズウェイは阪神で行われた2009年ジャパンCダート-G1で12着に惨敗したが、その後出世を遂げ、2011年にはメトロポリタンH-G1とホイットニーH-G1に勝って種牡馬となった。名馬ティズナウからリローンチへと遡る系統なので母の父としていい可能性があり、米国血統好みのハーツクライには合うのだろう。祖母マリブピアはサンタアナS-G2、サンタバーバラH-G2、ビヴァリーヒルズH-G3など米国の芝で3つの重賞に勝った。6代母の産駒にダンディルートFRが出ているのでわが国にもなじみのあるファミリーだ。

 ハーツクライ産駒初の2歳王者▲ドウデュースは母ダストアンドダイヤモンズUSAがギャラントブルームH-G2、シュガースワールS-G3に勝ち、ブリーダーズCフィリー&メアスプリント-G1で2着となったスプリンター。産駒マッチベターは米国の3歳戦ベイショアS-G3で2着となった。4代母の孫にダイアナS-G1のサンドスプリングスがいる牝系で、5代母オルメクの孫に名馬ダンシングブレーヴUSAがいる。先週の阪神牝馬S-G2に勝ったメイショウミモザは5代母の玄孫にあたる。母の父ヴィンディケイションはシアトルスルー直仔のブリーダーズCジュヴェナイル-G1勝ち馬で、種牡馬としてはこの母が代表産駒。エーピーインディ系以外のシアトルスルー系にありがちな残念な成績に終わったが、この系統は母系に入っての良さに期待がかけられる。祖母の父ゴーンウエスト経由のミスタープロスペクターとセットになればより効果が上がる。

 キタサンブラックの初年度産駒△イクイノックスは母の父が昨年来の躍進著しいキングヘイロー。先週の桜花賞-G12着馬ウォーターナビレラは父系祖父が全兄弟、母の父が同じだから似た構成となる。母のシャトーブランシュはマーメイドS-G3勝ち馬で、産駒ヴァイスメテオールはラジオNIKKEI賞-G3に勝った。5代母ベルガの産駒に輸入種牡馬ベリファIRE、ベルマンFRがいる。

 △オニャンコポンの父エイシンフラッシュは2010年の東京優駿-G1勝ち馬で、皐月賞-G1では3着だった。当時の勝ち馬ヴィクトワールピサが母の父だから、ライバル関係を姻戚関係に転換したことになる。両者の組み合わせで興味深いのは、父の父系祖父がキングマンボ、母の父の母の父がマキアヴェリアンと、ともにミスタープロスペクター直仔のニアルコス家の名馬が並ぶ点。祖母サプレザUSAはサンチャリオットS-G13連覇の名牝。


競馬ブックG1特集号「血統をよむ」2022.4.17
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