2022天皇賞・春


専門性が高い超長距離走者たち

 1984年から秋の天皇賞の距離が2000mに短縮されたことで、3000m超級の平地重賞は天皇賞(春)、菊花賞、阪神大賞典、ステイヤーズS、ダイヤモンドSの5つに固定された。それぞれの間に超長距離適性によっても越えられない格の壁が存在することは昔から変わらないが、菊花賞で好成績を残すダンスインザダーク産駒が天皇賞(春)ではさっぱりだったり、不思議なことも多い。そこで下表にそれぞれの競走における種牡馬別成績を示してみた。上から下までまんべんなく活躍しているものは少なく、格が下の方が懐かしい名前が多いなど読み取れることは少なくないが、なぜそうなのかは分からない。ただ、天皇賞(春)-G1に関していえば、ステイゴールドの4勝、ディープインパクトの3勝、ブラックタイドの2勝はすべてこの10年でのことで、ブラックタイド=ディープインパクト(全兄弟)なので、サンデーサイレンスUSA系の2種類の系統しか勝ち馬を出していないことになる。そして、この表に載り切らないこととして、天皇賞(春)-G1におけるハーツクライ産駒が(0.5.3.16)と勝てないまでも好成績を挙げている一方、キングカメハメハ産駒は阪神大賞典-G2、ダイヤモンドS-G3では計3勝を挙げているのに、天皇賞(春)-G1では17戦して3着以内が1度もない。
 こういったことを踏まえると、ディープインパクトとステイゴールドの後継種牡馬産駒を重んじて、キングカメハメハ系は敬遠するというスタンスがいいのではないだろうか。◎ディープボンドは5代母クリヒデが1962年の秋の天皇賞馬。その全兄クリペロは1960年春の天皇賞に勝った。6代母ケンタッキーを経て、7代母で1941年の優駿牝馬勝ち馬英月(競走名テツバンザイ)、英国産のセレタへと遡る栗林家の大東牧場、ユートピア牧場の名門牝系で、クリヒデの全妹の孫には1981年宝塚記念のカツアールがいる。本馬のイトコにあたるローレルゲレイロは2009年の高松宮記念-G1とスプリンターズS-G1に勝っており、近年までその活力に衰えがない。祖母の父カコイーシーズは3歳時にキングジョージ6世&クイーンエリザベスS-G1で名馬ナシュワンのクビ差2着、4歳時は米国でターフクラシック-G1に勝ったステイヤー。母の父キングヘイローの父ダンシングブレーヴは“キングジョージ”や凱旋門賞-G1に勝った名馬で、昨年のブリーダーズCディスタフ-G1勝ち馬の祖母の父でもある。2代目に並ぶディープインパクトとキングヘイローが相似形(ともにヘイローとリファールの組み合わせ)で、3代目に並ぶストームキャットとモガミポイントもまた相似形(ストームバード≒ニジンスキー、セクレタリアト≒ボールドラッドUSA)であるのも配合の整合性を高めているように思う。


超長距離重賞個別リーディングサイアー
順位種牡馬名1着2着3着着外 勝率 連対率代表馬
天皇賞(春)
1サンデーサイレンスUSA433280.1050.184ディープインパクト
2ステイゴールド412140.1900.238フェノーメノ 2回
3ディープインパクト322190.1150.192フィエールマン 2回
4オペラハウスGB31070.2730.364テイエムオペラオー 2回
5リアルシャダイUSA224160.0830.167ライスシャワー 2回
6メジロティターン21000.6671.000メジロマックイーン 2回
7ブラックタイド20001.0001.000キタサンブラック 2回
菊花賞
1サンデーサイレンスUSA443420.0750.151ダンスインザダーク
2ディープインパクト433290.1030.179フィエールマン
3ダンスインザダーク32060.2730.455デルタブルース
4ブライアンズタイムUSA221110.1250.250マヤノトップガン
5ステイゴールド220160.1000.200オルフェーヴル
6サッカーボーイ20030.4000.400ヒシミラクル
阪神大賞典
1ステイゴールド42040.4000.600ゴールドシップ 3回
2ブライアンズタイムUSA33120.3330.667ナリタブライアン 2回
3サッカーボーイ32120.3750.625ナリタトップロード 2回
4サンデーサイレンスUSA31190.2140.286ディープインパクト
5ハーツクライ240130.1050.316シュヴァルグラン
6リアルシャダイUSA22060.2000.400ムッシュシェクル
7キズナ20001.0001.000ディープボンド 2回
7メジロティターン20001.0001.000メジロマックイーン 2回
ステイヤーズS
1ノーザンテーストCAN320110.1880.313スルーオダイナ 2回
2ダンスインザダーク320130.1670.278デルタブルース
3アドマイヤドン31010.6000.800アルバート 3回
4エルコンドルパサーUSA21250.2000.300トウカイトリック
5ネオユニヴァース21130.2860.429デスペラード 2回
6ハンティングホークIRE20010.6670.667ホットシークレット 2回
7シンボリルドルフ20020.5000.500アイルトンシンボリ 2回
ダイヤモンドS
1ハーツクライ422100.2220.333フェイムゲーム 3回
2ダンスインザダーク32390.1760.294フォゲッタブル
3ノーザンテーストCAN320110.1880.313スルーオダイナ 2回
4ミルジョージUSA30040.4290.429ユーセイトップラン 2回
5キングカメハメハ220110.1330.267ユーキャンスマイル
6ラグビーボール20020.5000.500ユウセンショウ 2回
1984年から2022年阪神大賞典-G2までを集計(2勝以上、勝利度数順)

 ステイゴールド系は7頭出走し、そのうちオルフェーヴル産駒は4頭出しの最大勢力となった。3歳以降のオルフェーヴルが11着と唯一大敗したのがこのレースだが、阪神大賞典-G2逸走の直後のことだから仕方のない面もある。○シルヴァーソニックは母が阪神牝馬Sに勝ち、モーリスドギース賞-G1で2着となったエアトゥーレで、兄キャプテントゥーレは皐月賞馬、姉アルティマトゥーレはセントウルS-G2に、兄クランモンタナは小倉記念-G3に勝ち、姉コンテッサトゥーレは桜花賞-G1で3着となった。祖母スキーパラダイスはムーランドロンシャン賞-G1勝ち馬で、3代母スキーゴーグルはエイコーンS-G1に勝ち、産駒に5月25日大賞-G1のスキーゴーグル、プティクヴェール賞-G3のスキーチーフ、きさらぎ賞のスキーキャプテンがいる。多国籍型G1ファミリーにブリーダーズカップ・サイアーの組み合わせなら一発が期待できる。

 2015年の勝ち馬ゴールドシップの産駒▲マカオンドールはニアルコス家のオーナーブリーディングによる一族で母は仏国の1200〜1400mで3勝を挙げた。ヌレエフ産駒の祖母ムーンライツボックスは凱旋門賞馬バゴ、ムーランドロンシャン賞-G1のマクシオスを生み、3代母クドジェニはモルニ賞-G1勝ち馬、4代母クドフォリはオマール賞-G1勝ち馬で、大種牡馬マキアヴェリアンを生んだ。世界的名門牝系に母の父として欧州型ステイヤー・ダルシャーン、父として日本的ステイヤー・ゴールドシップを組み合わせた配合は魅力的。

 △マイネルファンロンはステイゴールド直仔だけに7歳でも侮れない。しかも、半妹ユーバーレーベンは優駿牝馬-G1勝ち馬。祖母マイネヌーヴェルはフラワーC勝ち馬で活躍馬の多い一族。タイトルホルダーはこのレースでのキングカメハメハ系の呪縛を解くか。


競馬ブックG1特集号「血統をよむ」2022.5.1
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