2021皐月賞


甦るトウショウ血統の魔法

 今回のディープインパクトは直仔が4頭、娘の仔が2頭、計6頭の出走となった。2011年以降、毎年直仔を多頭数出しして昨年までで延べ35頭が出走、1着3回2着3回3着4回の成績を残してきた。2016年には自身最多の6頭出しとなり、ディーマジェスティ、マカヒキ、サトノダイヤモンドで1着から3着までを占めた。2019年には直仔3頭、娘の仔3頭を送り込んでいるので、そのころから様相は変化してきたといえるだろう。ディープインパクト産駒は2019年に種付けされた24頭が最終世代で、現3歳は最後から3番目。数的にフルの戦力がある世代としては2番目となる。ディープインパクト自身がサンデーサイレンスUSAの最後から2番目の世代だったので、この世代からも大物が出る可能性はある。一方、下表に示した通り、サイアーランキング争いでは、スタートでロードカナロアに先手を取られており、その数的劣勢を主に産駒の重賞勝ちによって何とか逆転している様子が見える。このまま突き放す可能性もあるし、ロードカナロア産駒にダノンスマッシュに続くクラスが現れるようだと、勝負はもつれるかもしれない。当分は目が離せないリーディングサイアー争いだが、いずれにしても世代交代へ向けての過渡期に入ったのは間違いない。
 ◎アドマイヤハダルは父がロードカナロアで母の父がディープインパクト。キングカメハメハ×サンデーサイレンスUSAはローズキングダムからドゥラメンテまで多くの活躍馬を送ったパターンだが、それを1世代進めた様式となる。今のところこの組み合わせからは京王杯2歳S-G2のファンタジスト、阪神牝馬S-G23着のドナウデルタが出るだけだが、ブルードメアサイアーとしてのディープインパクトは2018年に14位、2019年11位、2020年に6位と初めてベストテン入りを果たした。今年は4月13日現在で4位につけていて、本格的な稼働に入るのはこれから。ロードカナロア×ディープインパクトの重賞勝ち馬もそれにつれて増えてくるのではないだろうか。母のスウェアトウショウは1戦未勝利。6番仔の本馬が産駒として初めてのブラックタイプ勝ち馬となる。祖母のタバサトウショウは凱旋門賞-G1、英2000ギニー-G1などに勝った名馬ダンシングブレーヴUSAの娘で、その娘スイープトウショウは宝塚記念-G1など重賞6勝の名牝。同トウショウフリークはダイオライト記念2着などダートで活躍し、ピンクカメハメハはグレード外ながらサウジダービーに勝ち海外で実績を残した。3代母サマンサトウショウは皐月賞馬トウショウボーイの娘で、エプソムCなど7勝を挙げ、マイルチャンピオンシップで3着となった。孫のトウショウドラフタはファルコンS-G3の勝ち馬。4代母マーブルトウショウは桜花賞で3着となった。1921年に米国で生まれたセヴァインUSAに遡る古い牝系だが、日本に来て100年以上たったフロリースカップGB系から大阪杯-G1のレイパパレが出たように、古い牝系に新しい血を重ねていく手法はまだまだ有効だということもできる。特に3代母サマンサトウショウはチャイナトウショウ系とソシアルバターフライUSA系の融合という点でトウショウ牧場血統の結晶ともいえる存在だけに、この系統が長く活力を保っているのは喜ばしいことだと思う。


2021新旧リーディングサイアー争覇
ディープインパクト ロードカナロア
出走
頭数
勝利
頭数
勝利
回数
G勝
利数
賞金
(千円)
2021年
月日
賞金
(千円)
G勝
利数
勝利
回数
勝利
頭数
出走
頭数
261140,758 1/5114,3801101034
7344112,041 1/12220,8941171784
113881213,904 1/19305,01812727141
14911111281,976 1/26351,32613332169
17721211393,556 2/2446,63023937198
20929291526,0292/9518,008 24542234
24238383742,8282/16573,007 24943259
26444443786,8442/23717,970 35751278
28649503863,3763/2834,983 36861294
29554564967,9503/9866,820 37062300
312606361,164,6333/16936,789 37567322
324636661,234,8483/231,049,592 38774334
348697371,412,8523/301,282,912 49784349
359737991,690,0814/61,340,302 410187361
3678088101,910,9554/131,444,714 411292367
JBISサーチの年度別サイアーランキング「サラ総合」をもとに作成。数値は累計。太字は上位の数値

 ハーツクライ産駒はこのレースで2017年のスワーヴリチャードを含む3頭出しが最多。これまで未勝利に終わっているのは成長曲線がこのレースと時期的距離的コース形態的に合わないためと考えられるが、今年は直仔3頭、直系の孫1頭、娘の仔1頭というハーツクライなりの大攻勢をかけてきた。○ダノンザキッドは直系の孫にあたる。ジャスタウェイ産駒は一昨年にヴェロックスが2着しているので、1例だけとはいえ単純にハーツクライよりこのレースに対する適性が高まっているといえなくもない。母エピックラヴIREは愛国産で仏2勝。ちょうど今ごろ行われる1850mのヴァントー賞-G3に勝ち、サンタラリ賞-G1で2着となった。ダイイシス産駒の祖母レパードハントは英米2勝、リステッドでの3着がある。3代母アルカンドは欧州で活躍したあと米国に渡りビヴァリーヒルズH-G1に勝った。母の父ダンシリはデインヒルUSA直仔の万能の種牡馬で、ブルードメアサイアーとしても2歳6FのミドルパークS-G1から英セントレジャー-G1勝ち馬までを送り出してやはり万能ぶりを示している。これもサンデーサイレンスUSA系とデインヒルUSA系の新世代同士の組み合わせといえる。

 それに対してハーツクライ直仔で母の父ガリレオの▲ヴィクティファルスはやや古風な配合といえるが、サンデーサイレンスUSA×サドラーズウェルズの配合で天皇賞(秋)に勝ったヘヴンリーロマンスの発展型と見ることもできる。今年ハーツクライ直仔は3歳重賞を本馬とグラティアスで2勝、古馬重賞もヒシイグアスが2勝しており、例年より立ち上がりが早い。その勢いでこれまで間に合わなかった皐月賞-G1に間に合う可能性もあるわけだ。母のヴィルジニアは芝1600m〜1800mで3勝を挙げ、チューリップ賞-G3で4着となった。ロベルト系シルヴァーホーク産駒の祖母シルヴァースカヤUSAはロワイヨモン賞-G3など仏重賞2勝で、産駒セヴィルは豪メトロポリタンH-G1に勝った。3代母ブブスカイアの孫シックスセンスは京都記念に勝ち、皐月賞ではディープインパクトの2着となった。

 △ラーゴムは父オルフェーヴルが3着だったきさらぎ賞-G3に勝っているので、現時点では父より優秀といえる。母はファピアノ4×4と祖母の父ディストーティドヒューマー経由でフォーティナイナーUSAが入り、ミスタープロスペクターの血が濃い。特にフォーティナイナーUSAはオルフェーヴル産駒の能力の底上げには有効なようだ。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2021.4.12
©Keiba Book