2021大阪杯


桜雲を越えて天翔けよ

 種牡馬としてのディープインパクトはこれまで47頭のG1勝ち馬を送り出してきた。その父サンデーサイレンスUSAは種牡馬実績の大半が国際セリ名簿基準書パート2時代なので参考記録として44頭。この点では既に偉大な父を超えたことになる。圧倒的な存在には何か弱点はないかと探すのが人情で、初期にはディープインパクト産駒の牡馬にはG1複数勝利がないといわれた。牝馬は2年目の世代から代表産駒といえるジェンティルドンナが出現して2012年だけでG1・4勝を挙げていたが、牡馬のG1・2勝目はリアルインパクトが7歳時にオーストラリアで挙げた2015年のジョージライダーS-G1まで待たなければならなかったのだった。その後、2016年には3歳時に菊花賞-G1と有馬記念-G1に勝ったサトノダイヤモンドが登場、昨年は天皇賞(春)-G1でフィエールマンがG1・3勝目を挙げて牡馬記録をつくり、秋には父に続く無敗の三冠馬が出現し、通算G1・4勝でそれをあっさり更新した。ディープインパクト産駒のG1複数勝利に関しては、ここにきて下表の通り牡馬と牝馬の間に差はなくなってきたといえるのではないだろうか。頭数の比較では10頭対8頭でむしろ牡馬が優勢だ。


ディープインパクト産駒のG1勝利数ランキング
牡馬チーム牝馬チーム
勝利
馬名生年年度レース距離
(m)
勝利
馬名生年年度レース距離
(m)
4コントレイル20172020菊花賞芝30007ジェンティルドンナ20092014有馬記念芝2500
2020東京優駿芝24002014ドバイシーマクラシック芝2410
2020皐月賞芝20002013ジャパンC芝2400
2019ホープフルS芝20002012ジャパンC芝2400
3Fierce Impact20142020マカイビーディーヴァS芝16002012秋華賞芝2000
2019カンタラS芝16002012優駿牝馬芝2400
2019トゥーラックH芝16002012桜花賞芝1600
3フィエールマン20152020天皇賞(春)芝32004グランアレグリア20162020マイルチャンピオンシップ芝1600
2019天皇賞(春)芝32002020スプリンターズS芝1200
2018菊花賞芝30002020安田記念芝1600
2リアルインパクト20082015ジョージライダーS芝15002019桜花賞芝1600
2011安田記念芝16002ヴィルシーナ20092014ヴィクトリアマイル芝1600
2エイシンヒカリ20112016イスパーン賞芝18002013ヴィクトリアマイル芝1600
2015香港カップ芝20002ショウナンパンドラ20112015ジャパンC芝2400
2トーセンスターダム20112017エミレーツS芝20002014秋華賞芝2000
2017トゥーラックH芝16002マリアライト20112016宝塚記念芝2200
2ミッキーアイル20112016マイルチャンピオンシップ芝16002015エリザベス女王杯芝2200
2014NHKマイルC芝16002ミッキークイーン20122015秋華賞芝2000
2サトノダイヤモンド20132016有馬記念芝25002015優駿牝馬芝2400
2016菊花賞  芝3000  2ヴィブロス20132017ドバイターフ芝1800
2アルアイン20142019大阪杯芝20002016秋華賞芝2000
2017皐月賞芝20002Fancy Blue20172020ナッソーS芝9F197yds
2Saxon Warrior 20152018英2000ギニー芝8F2020ディアヌ賞芝2100
2017レーシングポストT芝8F

 以上、今回の対決における個々の能力比較には何の役にも立たない事実を並べてきたように見えるかもしれないが、ここ一番で全力投入して消耗度が大きいディープインパクトの産駒を、繰り返し高いパフォーマンスを発揮させられるようにするためのノウハウの蓄積が10年かけてできてきたというふうには考えられる。◎コントレイルはディープインパクト産駒の10世代目。サンデーサイレンスUSAの11世代目にディープインパクトが現れたように、先天的な素質とノウハウの確立が噛み合ったことで現れる代表産駒という点では正統な後継者にこれほどふさわしい存在はない。アンブライドルズソング産駒の母ロードクロサイトUSAは米国の名ブリーダー・ルイス夫妻の生産馬で、ノースヒルズの馬としてはキズナと同期にあたる。自身は未勝利に終わっているが、先行力には見どころがあり、ダート短距離の未勝利戦で2度2着がある。祖母のフォークロアはシルバーチャームUSAやカリズマティックUSAでお馴染みルイス夫妻の黄色と緑の勝負服でブリーダーズCジュヴェナイルフィリーズ-G1に勝った快足牝馬。3代母コントライヴの孫エッセンシャルクオリティは昨年のブリーダーズCジュヴェナイル-G1に勝っており、ファミリーの勢いという点でも申し分ない。アンブライドルズソング牝馬とサンデーサイレンスUSA系種牡馬の組み合わせはディープインパクトから朝日杯フューチュリティS-G1のダノンプラチナ、ハーツクライからジャパンC-G1のスワーヴリチャード、スペシャルウィークから菊花賞-G1のトーホウジャッカルが現れており、このパターンのG1勝ち馬が牡馬に偏っているのも興味深い。

 コントレイルにとって怖い怖い騎手が乗る以上、○グランアレグリアの2000mへの挑戦は不安よりワクワク感の方が大きい。タピット産駒の母タピッツフライはジャストアゲイムS-G1の逃げ切り、ファーストレディS-G1の差し切りなど芝8FのG12つを含め米国で7勝を挙げた活躍馬。タピットは2014年トーナリスト、2016年クリエイター2、2017年タップリットと3頭のベルモントS-G1勝ち馬を出しているし、祖母の父マーリンはニジンスキー系で米国の芝G1に4勝、そこには14Fのサンフアンカピストラーノ招待H-G1も含まれるステイヤー。4代母の孫には優駿牝馬2着のベッラレイアもいる。距離克服の下地を備えた血統であるのは間違いない。

 リアルインパクトは3歳時に安田記念-G1を制し、そこから4年もたったジョージライダーS-G1で2度目のG1勝利を果たした。それとの比較では、▲ワグネリアンは停滞期に入ってまだ3年目に過ぎないし、このレースは一昨年がタイム差なしの3着、昨年は0秒4差5着と悪くない成績は残している。祖母ブロードアピールは6歳でシルクロードSと根岸Sに勝ち、7歳時に重賞3勝、8歳でガーネットSに勝ってゴールデンシャヒーン-G1に遠征すると5着になった。何といっても母の名がミスアンコールなので、このまま終わるとも思えない。

 ディープインパクト尽くしをひとひねりしてにヴィルシーナの仔ブラヴァス。叔父にジャパンC-G1のシュヴァルグラン、叔母にヴィブロスがいる。キングカメハメハはドバイで直仔チュウワウィザードが健闘、日本で孫のダノンスマッシュがG1勝ちを果たした。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2021.4.4
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