2021NHKマイルC


17年越しの父仔制覇

 ここ10年ほどのこのレースは、ダイワメジャー、ディープインパクト、クロフネUSAが種牡馬3強というべき成績を残していた。下表に示した通り、この3頭で7勝を挙げている。昨年ようやく違う種牡馬の産駒が勝ったが、ラウダシオンの父はディープインパクト直仔リアルインパクトだった。常連の世襲という流れになるのかとも思われたが、今年は2年目のキズナや初年度のモーリスやリオンディーズといった新鮮な名前も加わっているので、今後はまた違った展開となっていくのかもしれない。エルコンドルパサーUSAやクロフネUSAら優れた輸入競走馬の能力発揮の場として創設された1990年代をある意味象徴するこのレースは、当初なかなか内国産馬が上位に入ることさえできないほどで、当然、血統的な多様性にも富んでいた。サンデーサイレンスUSA直仔が勝ったことがないという点もその一側面だが、これは同馬の産駒がクラシックをめざすことが多いため。過去6頭が出走したのみで、最高着順は2005年のデアリングハートの2着だった。今年は海外繋養種牡馬の産駒が3頭出走しており、1990年代の海外血統ショウケース的な性格が戻ってきたような印象も少しある。その一方、3強支配が終わったことで、馬券的な焦点は絞りにくくなったともいえる。
 未来を展望するために、過去を振り返ってみると、下表に登場する種牡馬の名前が血統表中に3つ登場するものがいる。◎ホウオウアマゾンは2004年の勝ち馬キングカメハメハ産駒。その父キングマンボ、母の父アグネスタキオン、祖母の父エーピーインディと3代にわたってNHKマイルC適性の高い種牡馬が配合された。母のヒカルアマランサスは京都牝馬Sなど4勝を挙げ、2010年のヴィクトリアマイルではブエナビスタからクビ差の2着に入った。祖母スターミーは芝1200mで2勝を挙げた小柄な短距離馬だったが、産駒には金鯱賞-G2に勝ち、天皇賞(春)-G1と宝塚記念-G1で2着となったカレンミロティックが出た。3代母カーリーナはカーリアンの娘でディアヌ賞-G1(仏オークス)に勝ち、産駒ラニュイロゼは愛1000ギニー-G13着、孫のアルウケアはジャックルマロワ賞-G1に勝った。5代母シャヒナーズの孫にはリディアテシオ賞-G1のハリイダ、ガネー賞-G1のカータジャーナ、中山グランドジャンプ3連覇のカラジが出ている。前段で新鮮な名前やら違った展開といいながら、過去の実績ばかりにとらわれた狙いとなってしまったのは心苦しいが、変化は一直線に訪れるものではなく、3歩進んで2歩下がったりしながらまた進んでいくものだ。


NHKマイルカップ過去25回の種牡馬別成績
順位種牡馬名1着2着3着着外勝ち馬(産駒)
1ダイワメジャー31210カレンブラックヒル(2012)、メジャーエンブ
レム(2016)、アドマイヤマーズ(2019)
2ディープインパクト22113ミッキーアイル(2014)、
ケイアイノーテック(2018)
3クロフネUSA2208クラリティスカイ(2015)、アエロリット(2017)
4フレンチデピュティUSA2104クロフネUSA(2001)、ピンクカメオ(2007)
5アグネスタキオン2013ロジック(2006)、ディープスカイ(2008)
6Kingmambo2002エルコンドルパサーUSA(1998)、
キングカメハメハ(2004)
7タイキシャトルUSA1115ウインクリューガー(2003)
8フジキセキ1118ダノンシャンティ(2010)
9Gulch1101イーグルカフェUSA(2000)
10マンハッタンカフェ1104ジョーカプチーノ(2009)
11サクラバクシンオー11016グランプリボス(2011)
12シアトルダンサーUUSA1011タイキフォーチュンUSA(1996)
13リアルインパクト1001ラウダシオン(2020)
13スズカフェニックス1001マイネルホウオウ(2013)
13エンドスウィープUSA1001ラインクラフト(2005)
13トニービンIRE1001テレグノシス(2002)
17A.P. Indy1002シンボリインディUSA(1999)
18Seeking the Gold1003シーキングザパールUSA(1997)
太字は今回の出走馬の血統表中に出現するもの

 昨年のラウダシオンはディープインパクトの直系の孫として最初のG1勝ち馬となったわけだが、今後ディープインパクト系が発展するとして、その方向が東京1600mでの瞬発力勝負に収れんしていく可能性を示したのかもしれない。なかなか産駒がG1に勝てないキズナだが、産駒のこのレースへの出走は2年目の今年が初めて。○ソングラインは良馬場の東京芝1600mで勝った出走馬中唯一の存在。シンボリクリスエス産駒の母は芝1400mでデビュー勝ちしたあと、ダートの短距離で3勝を加えた。祖母はアグネスタキオンの産駒で、芝1勝、ダート短距離で4勝を挙げた。産駒ジューヌエコールはデイリー杯2歳S-G2、函館スプリントS-G3に勝っている。マキアヴェリアン産駒の3代母ソニンクからは直仔にダイオライト記念のランフォルセ、東京盃のノーザンリバー、孫に東京優駿のロジユニヴァース、ナッソーS-G1のディアドラが出ている。特にロジユニヴァースは皐月賞で1秒9差14着と大敗しながら東京優駿では大変身を遂げたことを思い出す必要がある。4代母ソニックレディは愛1000ギニー-G1、サセックスS-G1、ムーランドロンシャン賞-G1とマイルG1に3勝し、ヌレエフの代表産駒の1頭となっている。サンデーサイレンスUSAの近交にシンボリクリスエスの血が加わるのはデアリングタクトに通じる部分でもある。

 もう1頭のキズナ産駒▲バスラットレオンはニュージーランドT-G2の内容が圧倒的。英ダービー馬ニューアプローチ産駒の母バスラットアマルは英未勝利。ケープクロス産駒の祖母ザミリアの産駒シリアスアティテュードはチェヴァリーパークS-G1に勝ち、その息子スティッフェリオはオールカマー-G2に勝った。母はパークイクスプレスとパークアピールというアイルランドのロッジパークスタッド(ニューアプローチも生産)経営者バーンズ父子が所有した2頭の名牝を経由したアホヌーラ3×4が配合の要点。パークイクスプレスの母マッチャーはカナダのE.P.テイラーの生産馬なので、父の母の父ストームキャットの父ストームバード(これもテイラー生産馬)ともリンクする。

 △シュネルマイスターの父キングマンはインヴィンシブルスピリットからグリーンデザートへと遡る父系。キングマンボとは関係がない。サセックスS-G1など8戦7勝の名馬で、2000ギニーだけナイトオブサンダーの不思議な大駆けに屈した。母セリエンホルデはディアナ賞-G1(独オークス)勝ち馬で、3代母ザルデの孫にディアナ賞-G1のサロミナ、その産駒に朝日杯フューチュリティS-G1のサリオス、有馬記念-G12着のサラキアがいる。7代母ズライカの子孫にはマンハッタンカフェやブエナビスタがいる我が国で最も有名なドイツの名牝系だ。そこへダンシングブレーヴ×サドラーズウェルズの1980年代英愛血統を潜ませた復古調配合は底力に富む。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2021.5.9
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