2021マイルチャンピオンシップ


マイルの王座へ駆け上がれ

 今年1月12日にサウジアラビアのハリド・アブドゥラ殿下が、3月24日にはアラブ首長国連邦ドバイのハムダン・ビン・ラシッド・アル・マクトゥーム殿下が死去した。アブドゥラ殿下はダンシングブレーヴからエネイブルまで、ハムダン殿下はナシュワンをはじめ、それぞれ枚挙に暇のないほど多くの名馬名牝のオーナーとして知られた。ひとつの時代が終わったのだなあ。アブドゥラ殿下のオーナーブリーディング馬の近年で最強のマイラーといえばまずキングマンが挙げられるだろう。2011年生まれのキングマンは2歳6月にデビューすると未勝利とソラリオS-G3を連勝。3歳時は2戦目の英2000ギニー-G1でナイトオブサンダーの不思議な大駆けの前に2着に敗れたが、その後は愛2000ギニー-G1、セントジェイムズパレスS-G1、サセックスS-G1、ジャックルマロワ賞-G1とG1を4連勝し、ワールドベストレースホースランキングでは127のレーティングで3歳Mコラム首位、カルティエ賞欧州年度代表馬に選ばれている。種牡馬としても下表の通り初年度産駒からはムーランドロンシャン賞-G1のパーシャンキング、2年目は欧州マイル王パレスピアらの活躍馬を送り出し、今のところ3年目の産駒の代表といえるのが◎シュネルマイスターということになる。ノーザンファームの生産馬としてドイツのヴィッテキンツホフ牧場で生まれた本馬は、母セリエンホルデが同牧場のオーナーブリーディング馬でディアナ賞-G1(独オークス)の勝ち馬。その父ソルジャーホロウはインザウィングスを経てサドラーズウェルズに遡る父系で2000mのバイエリシェスツフトレネン-G1などドイツ馬としてはやや短い距離で活躍した。祖母ザルデネーレはゼダーン系のハイエストオナーの娘で、3代母ザルデの娘ザルデンティゲリンはバーデンヴュルテンベルクトロフィー-G3に勝ち、オイロパ賞-G1で2着となり、産駒にディアナ賞-G1勝ち馬サロミナを生んだ。サロミナは日本に輸入されエルフィンSのサロニカ、府中牝馬S-G2勝ち馬で有馬記念-G12着のサラキア、朝日杯フューチュリティS-G1のサリオスを生んだ。7代母ズライカの曾孫には菊花賞馬マンハッタンカフェ、玄孫にはジャパンカップ-G1のブエナビスタがいる。9代母シュヴァルツゴルトは1940年のキサソニーレネン(独1000ギニー)、ディアナ賞(独オークス)、オレアンダーレネン、帝国首都大賞(現ベルリン大賞)に勝ったドイツの歴史的名牝。優駿牝馬-G1のソウルスターリングもこの牝系から出ており、日本にも多くの活躍馬を送り込んでいることになる。ドイツの名門にサドラーズウェルズ、ダンシングブレーヴ、ミスタープロスペクター系ゴーンウエスト、ダンチヒ系グリーンデザートと現代的な血統を重ねて爆発的なスピードを得た形で、父の代表産駒の息の長い活躍を考えても、まだこれから成長を続ける奥の深さがある。


毎年スターが現れるキングマン産駒〜3年目までの重賞勝ち馬一覧
馬名産地生年毛色母の父重賞勝ち
Persian Kingパーシャンキング2016鹿Dylan Thomas(IRE)ムーランドロンシャン賞-G1(1600m)、イスパーン賞-G1(1800m)、
仏2000ギニー-G1(1600m)
、ミュゲ賞-G2(1600m)、オータムS-G3
(8F)、フォンテンブロー賞-G3(1600m)
Calyxケイリクス2016鹿Observatory(USA)コヴェントリーS-G2(6F)、パヴィリオンS-G3(6F)
Headmanヘッドマン2016鹿King's Best(USA)ユジェーヌアダム賞-G2(2000m)、ギヨームドルナーノ賞-G2(2000m)
Naushaノーシャ2016鹿Galileo(IRE)ムシドラS-G3(10F56yds.)
Sangariusサンガリアス2016鹿エンパイアメーカーUSAハンプトンコートS-G3(9F212yds.)
Palace Pierパレスピア2017鹿Nayef(USA)ジャックルマロワ賞-G1(1600m)×2、セントジェイムズパレスS-G1
(7F213yds.)、クイーンアンS-G1(8F)、ロッキンジS-G1(8F)、

ベット365マイル-G2(8F)
Domestic Spendingドメスティックスペンディング2017鹿センStreet Cry(IRE)マンハッタンS-G1(10F)、OFターフクラシックS-G1(9F)、ハリ
ウッドダービー-G1(9F)
Fearless Kingフィアレスキング2017鹿マクフィGB独2000ギニー-G2(1600m)
Kinrossキンロス2017鹿センSelkirk(USA)レノックスS-G2(7F)、ジョンオブゴーントS-G3(7F37yds.)
Summer Romanceサマーロマンス2017スタチューオブリバティUSAバランシーン-G2(1800m)、プリンセスエリザベスS-G3(8F113yds.)
Boomerブーマー2017鹿シングスピールIREプレスティジS-G3(7F)
Chachnakシャシュナック2017鹿Danehill Dancer(IRE)ギシュ賞-G3(1800m)、プランスドランジュ賞-G3(2000m)
Cormorantコーモラント2017センDansili(GB)愛ダービートライアルS-G3(10F)
Parent's Prayerペアレンツプレアー2017鹿Exceed and Excel(AUS)プリンセスエリザベスS-G3(8F113yds.)
Sinawannシナワン2017鹿Anabaa(USA)アメジストS-G3(8F)
Waldkonigヴァルトケーニッヒ2017鹿Monsun(GER)ゴードンリチャーズS-G3(9F209yds.)
シュネルマイスターGERSchnell Meister2018鹿Soldier Hollow(GB)NHKマイルC-G1(1600m)、毎日王冠-G2(1800m)
Public Sectorパブリックセクター2018鹿モンジューIRE競馬博物館名誉の殿堂S-G2(8F)、ヒルプリンスS-G2(9F)、サラ
ナクS-G3(8.5F)
Technical Analysisテクニカルアナリシス2018鹿Sea the Stars(IRE)レイクプラシッドS-G2(8.5F)、レイクジョージS-G3(8F)
エリザベスタワーGBElizabeth Tower2018黒鹿Doyen(IRE)チューリップ賞-G2(1600m)
Megallanメギャラン2018鹿Champs Elysees(GB)ソヴリンS-G3(8F)
Reina Madreレイナマドレ2018鹿ファルブラヴIREアンプルダンス賞-G3(1400m)

 シュネルマイスターと同じ頭文字Sの○サリオスは母同士がイトコで同じディアナ賞-G1勝ち馬。こちらは母がロミタス×タイガーヒルだから、よりドイツ的ステイヤー色が強い。そこにハーツクライ経由でサンデーサイレンスの血を導入して、マンハッタンカフェの令和型最新バリエーションと見ることもできる。キングマンが3歳Mコラム首位となったときのワールドランキング首位はM130のドバイデューティフリー-G1勝ち馬ジャスタウェイ。これがハーツクライ産駒だった。

 ▲グランアレグリアは依然として強いことは強いけれど、アーモンドアイを倒した昨年のような末脚の炸裂は見られないのも事実。ただ、ディープインパクト産駒も牝馬の場合は退潮と思われたところから倍返し的に巻き返す例がジェンティルドンナを典型として見られるわけで、昨年と同じ舞台なら劇的復活があって驚けない。

 フランケルはキングマンの3歳上で、キングマンがアブドゥラ殿下の近年の最強マイラーとすれば、こちらは歴代最強馬。△グレナディアガーズはその5年目の産駒。欧州では英ダービー-G1のアダイヤー、英セントレジャー-G1のハリケーンレーンを出してステイヤー志向を示しつつ、産駒デビュー以来の豊作世代との印象も残している。力勝負で巻き返し可能。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2021.11.21
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