2021東京優駿


サンデーサイレンスUSA王家の転換期

 トニービンIRE産駒のウイニングチケットがこのレースを勝った1993年、ブライアンズタイムUSA産駒のナリタブライアンが勝った1994年、これらを前段階として、サンデーサイレンスUSA産駒のタヤスツヨシが勝った1995年が、日本の競馬が大転回を遂げた時期だった。これら3頭の種牡馬はいずれも初年度産駒から日本ダービー馬を出していて、また、これらはかつての日本の成功種牡馬のように、流行が過ぎると比較的早く衰退していくということもなく、子孫が繁栄して父系を伸ばし、母系に入って働き、サンデーサイレンスUSAは3×4などその近交馬がクラシックで成功を収めるようになった。
 日本ダービーの勝ち馬の父系図を1993年から昨年まで切り抜くと、本当に限られた範囲から勝ち馬が集中して出ていることが分かる。これは父系に限った図であって、牝馬は北半球やオセアニアのみならず、南米からもたくさん入ってきて実績を挙げているので、血統の多様性に関して心配する必要はないし、一国を代表する父系が確立されたことは喜ぶべきだろう。サイアーランキングは目下のところディープインパクトが独走していて、2012年から10年連続首位種牡馬に驀進している。母の父馬ランキングでは首位キングカメハメハは変わらず、5月初めの時点で2位だったサンデーサイレンスUSAを抜いて、ディープインパクトが2位に上がった。キングの地位からキングメーカーに移ったという見方もできて、サンデーサイレンスUSA系が日本血統の柱であることに変わりはなくても、その中で役者は少しずつ交代する時期を迎えているようにも見える。直仔が3連覇中のディープインパクトは今回、直仔6頭、父系孫1頭、娘の産駒3頭、計10頭の大勢力で臨む。フルサイズの産駒数が見込まれるのは来年で最後なので、ピークを迎えると同時に変化の岐路に立つことにもなる。


東京優駿勝ち馬父系図
〜1990年生まれ以降〜
Phalaris 1913
 Pharos
 |Nearco
 | Nasrullah
 | |Grey Sovereign
 | | ゼダーンGB
 | |  Kalamoun
 | |   カンパラGB
 | |    トニービンIRE
 | |     ウイニングチケット[60]
 | |     ジャングルポケット[68]
 | Royal Charger
 | |Turn-to
 | | Hail to Reason
 | |  Halo
 | |  |サンデーサイレンスUSA
 | |  | タヤスツヨシ[62]
 | |  | ステイゴールド
 | |  | |オルフェーヴル[78]
 | |  | スペシャルウィーク[65]
 | |  | アドマイヤベガ[66]
 | |  | アグネスフライト[67]
 | |  | アグネスタキオン
 | |  | |ディープスカイ[75]
 | |  | ネオユニヴァース[70]
 | |  | |ロジユニヴァース[76]
 | |  | ハーツクライ 2001
 | |  | |ワンアンドオンリー[81]
 | |  | ディープインパクト[72]
 | |  |  ディープブリランテ[79]
 | |  |  キズナ[80]
 | |  |  マカヒキ[83]
 | |  |  ワグネリアン[85]
 | |  |  ロジャーバローズ[86]
 | |  |  コントレイル[87]
 | |  Roberto
 | |   ブライアンズタイムUSA
 | |    ナリタブライアン[61]
 | |    サニーブライアン[64]
 | |    タニノギムレット[69]
 | |     ウオッカ[74]
 | Nearctic
 |  Northern Dancer
 |   Nijinsky
 |    Caerleon
 |     フサイチコンコルド[63]
 |   Sadler's Wells
 |    オペラハウスGB
 |     メイショウサムソン[73]
 Sickle
  Unbreakable
   Polynesian
    Native Dancer
     Raise a Native
      Mr. Prospector
       Kingmambo
        キングズベストUSA
        |エイシンフラッシュ[77]
        キングカメハメハ[71]
         ドゥラメンテ[82]
         レイデオロ[84]

 東京優駿勝ち馬父系図フルバージョン

 ディープインパクト産駒が日本ダービーを迎えるまでに世代限定重賞を勝った数は初年度産駒が3勝、2年目の2009年生11勝、2010年生6勝、2011年生7勝、2012年生6勝、2013年生11勝、2014年生7勝、2015年生9勝、2016年生11勝、2017年生10勝だった。今年は4勝だから、平年並みを大きく下回る。個別の能力は別だとしても、世代レベルとしては疑問の生じる余地がある。
 先週はディープインパクト産駒アカイトリノムスメをゴールドシップ産駒ユーバーレーベンが差し切った。ステイゴールド系は瞬発力でディープインパクト系に劣るが、距離が伸びたり馬場が渋ったり、条件が変わると逆転の芽が出る。◎ラーゴムはステイゴールド系オルフェーヴル産駒。母のシュガーショックUSAは米でクラシック前哨戦のひとつファンタジーS-G3に勝ち、3代母アンブライドルドホープがレディーズH-G2に勝った。母の父キャンディライドがライドザトレイルズ、クリプトクリアランスを経てファピアノに遡り、祖母の父ディストーティドヒューマーはフォーティナイナーUSA直仔で、3代母はその名の通りアンブライドルドを経てファピアノに至る。母はファピアノ4×4、ミスタープロスペクター5×4×5の近交馬となる。オルフェーヴルは産駒のラッキーライラック、エポカドーロなどが示すように、ミスタープロスペクターを持つ牝馬との配合で成功しており、本馬はそれを更に極端に進めた形になる。これがプラスと出るか否かは今のところ何ともいえないが、父の持つエキセントリックな面を考えれば、このようなユニークな配合によって爆発力が増す可能性はある。

 ○エフフォーリアは三冠牝馬デアリングタクトによって成功したサンデーサイレンスUSAの近交となるエピファネイア産駒。エピファネイアはキズナに敗れてダービーを逃がしているだけに、アンチ・ディープインパクトを代表する面もあるかもしれないし、そんなことは気にしていないかもしれない。ともあれ、ディープインパクトとは異質の力の血統は、転換期にふさわしいものではある。祖母のケイティーズファーストUSAは短距離のリステッド勝ちがあり、孫にドバイデューティフリー-G1、ジャパンカップ-G1、宝塚記念-G1に勝ったアドマイヤムーンが出た。3代母のケイティーズは愛1000ギニー-G1に勝ち、続くコロネーションS-G2では英1000ギニー-G1勝ち馬でその後ブリーダーズCターフ-G1などを勝つ名牝ペブルスを差し切っている。産駒にはエリザベス女王杯のヒシアマゾンUSA、ローズSのヒシピナクルUSA、フェアリーSのヒシナイルUSA、孫にスプリンターズS-G1のスリープレスナイトがおり、日本競馬に大きな影響を与えた一族だ。

 キングカメハメハ系の有利な点はサンデーサイレンスUSA系の力を利用できること。ルーラーシップ産駒▲ワンダフルタウンは母の父がディープインパクトだから菊花賞馬キセキと同じパターン。血統表2代目に日本ダービー馬キングカメハメハとディープインパクト、優駿牝馬のエアグルーヴが並び、祖母の父は独ダービー馬アカテナンゴ、3代母の父は仏ダービー馬ベーリングというダービー志向の強い血統構成。

 ディープインパクト直仔では△シャフリヤールの瞬発力に逆転の可能性がある。母はブリーダーズCフィリー&メアスプリント-G1に勝ったほかG2・1勝、G3・2勝のある活躍馬で、全兄アルアインは皐月賞馬。祖母の父が異系の米血グレイトアバヴで、3代母の父がリボー直仔ヒズマジェスティと大レース向きの底力が期待できる。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2021.5.30
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