2021チャンピオンズカップ


深く静かに浸透したエーピーインディ

 ダートには1600mから2100mのG1とJpn1が性と年齢の縛りのないもので8レースある。国内にいて大レースだけを走って1年過ごすというアメリカの名馬のような競走生活を送ることができる。フリオーソ、スマートファルコン、トランセンド、エスポワールシチー、ホッコータルマエ、コパノリッキー、ゴールドドリームといった名馬はコンスタントに大レースに出走してそれぞれしのぎを削りながら、手に入れられるタイトルは手に入れて、種牡馬になっていった。それらのような太く長い活躍を示すものが、最近は減っているようで、ルヴァンスレーヴやクリソベリルは短期集中型でタイトルを獲得して引退した。下表に示したように、ダートのトップクラスは長期寡占型から日替わり型へと変わっているようだ。そういった変化の背景には長くキングメーカーの座にあったゴールドアリュールが表舞台から去り、キングカメハメハもそれに続きつつあることがひとつある。このような過渡期には、チュウワウィザードとエアスピネルを擁するキングカメハメハがもう一度押し返す可能性も捨てがたいが、再び下表に戻って今年のこの路線の勝ち馬を見るとサンデーサイレンスUSA系はアルクトス、キングカメハメハ系はレッドルゼルとそれぞれ1勝ずつを挙げるのみ。カジノフォンテン、テーオーケインズ、ミューチャリーの3頭がエーピーインディを経てシアトルスルーに遡る父系で、合わせて4勝を挙げている。


ダート戦線の覇権の変遷
年度川崎記念フェブラリーSG1かしわ記念帝王賞JDダービー南部杯JBCスプリントJBCクラシックチャンピオンズCG1東京大賞典G1
2011フリオーソトランセンドフリオーソスマートファルコングレープブランデートランセンドスーニUSAスマートファルコントランセンドスマートファルコン
2012スマートファルコンテスタマッタUSAエスポワールシチーゴルトブリッツハタノヴァンクールエスポワールシチータイセイレジェンドワンダーアキュートニホンピロアワーズローマンレジェンド
2013ハタノヴァンクールグレープブランデーホッコータルマエホッコータルマエクリソライトエスポワールシチーエスポワールシチーホッコータルマエベルシャザールホッコータルマエ
2014ホッコータルマエコパノリッキーコパノリッキーワンダーアキュートカゼノコベストウォーリアUSAドリームバレンチノコパノリッキーホッコータルマエホッコータルマエ
2015ホッコータルマエコパノリッキーワンダーアキュートホッコータルマエノンコノユメベストウォーリアUSAコーリンベリー fコパノリッキーサンビスタ fサウンドトゥルー
2016ホッコータルマエモーニンUSAコパノリッキーコパノリッキーキョウエイギアコパノリッキーダノンレジェンドUSAアウォーディーUSAサウンドトゥルーアポロケンタッキーUSA
2017オールブラッシュゴールドドリームコパノリッキーケイティブレイブヒガシウィルウィンコパノリッキーニシケンモノノフサウンドトゥルーゴールドドリームコパノリッキー
2018ケイティブレイブノンコノユメゴールドドリームゴールドドリームルヴァンスレーヴルヴァンスレーヴグレイスフルリープケイティブレイブルヴァンスレーヴオメガパフューム
2019ミツバインティゴールドドリームオメガパフュームクリソベリルサンライズノヴァブルドッグボスチュウワウィザードクリソベリルオメガパフューム
2020チュウワウィザードモズアスコットUSAワイドファラオクリソベリルダノンファラオアルクトスサブノジュニアクリソベリルチュウワウィザードオメガパフューム
2021カジノフォンテンカフェファラオUSAカジノフォンテンテーオーケインズキャッスルトップアルクトスレッドルゼルミューチャリー
同一年度にG1/Jpn1・2勝以上は太字。2歳、牝馬限定戦を除く。チャンピオンズカップG1は2013年までジャパンカップダートG1。f は牝馬。

 このような流れに逆らわず、ここはエーピーインディ系の決め打ちとしたい。シアトルスルーはタイキブリザードUSA、エーピーインディはシンボリインディUSAを出しているので、決定的に日本に不向きというわけではないものの、米国での人気と実力から見ると大成功とはいいがたいのも事実だった。それでもタピット産駒にテスタマッタUSAやラニUSAが現れたり、牝駒タピッツフライUSAはグランアレグリアを生んだりと、深く静かに浸透しつつある。これまでの主流がひと息ついているタイミングで一気に台頭する可能性もあるだろう。◎サンライズホープは父がホープフルS-G1の勝ち馬マジェスティックウォリアーUSA。2007年の本家ホープフルS-G1はわずかに4頭立てで、そのポツンと離れた最後方から直線で追い込んで更に2馬身1/4の差を付けて勝ったのがマジェスティックウォリアーUSAだった。その後は3歳夏まで5戦して1度も勝てていないホープレスな現役時代を送ったが、米国で人気のあるエーピーインディ系だけに種牡馬入りすると多くの繁殖牝馬を集め、初年度産駒119頭のうちからアラバマS-G1などG14勝の名牝プリンセスオブシルマーを送り出し、日本でもベストウォーリアUSAが南部杯2連覇などの活躍を見せた。日本では2016年から供用され、サンライズホープは国内初年度産駒の1頭となる。スペシャルウィーク産駒の母オーパスクイーンはダート1700mで3勝。シアトリカル産駒の祖母オーパスワンは芝とダートで3勝を挙げ、産駒サンライズベガは小倉大賞典-G3に勝った。3代母ティルティングUSAの産駒ドーンキホーテはパームビーチS-G3に勝ち、同バスマはチェヴァリーパークS-G13着、同シアトルモーンはイリノイダービー-G22着。父系曽祖父と3代母の父として、シアトルスルー3×4の近交となるほか、父はセクレタリアト3×4、バックパサー4×4の近交馬で、同じボールドルーラー系の米三冠馬セクレタリアトとシアトルスルーの協同に期待できるほか、バックパサーは特にシアトルスルーと結びつくことで名牝ラトロワンヌの血が生きる。母の父スペシャルウィークを通じて、マルゼンスキー経由のバックパサーが入る点にも注目しておきたい。

 カジノドライヴUSAは今から13年前にピーターパンS-G2に勝ち、その年にブリーダーズCクラシック-G1にも挑んだ。マインシャフト経由でエーピーインディに遡る。○カジノフォンテンは種付け頭数が漸減していった4年目の産駒だが、今年上半期の活躍で亡き父の名誉を回復した。母はエンプレス杯とスパーキングレディーCに勝ったジーナフォンテン。アンバーシャダイ直仔ベストタイアップの唯一の重賞勝ち馬だから、レアな血をつないで成功してきたことになる。父の母の父はデピュティミニスターで、その父はヴァイスリージェント。アンバーシャダイの父はノーザンテーストCAN。祖母の父パークリージェントはヴァイスリージェント直仔。したがって、血統表4代目にはヴァイスリージェント4×4とノーザンテーストCANが並ぶ。両者はいずれもカナダの大オーナー・ブリーダー、E.P.テイラーが手掛けたノーザンダンサー直仔であり、これらが血統表に並ぶ重賞勝ち馬は最近よく目にする。

 ▲テーオーケインズはブルーグラスS-G1勝ち馬の父シニスターミニスターUSAからオールドトリエステを経てエーピーインディに遡る。母マキシムカフェはマンハッタンカフェ×ジェイドロバリーUSAだから、父とは異質の日本的な血だが、ミスタープロスペクターやセクレタリアトが共通するほか、5代目にヴァイスリージェントとニジンスキー、ストームバードのテイラー血統が並ぶ端正な配合。

 △メイショウハリオはプルピット経由のエーピーインディ系。4代母コートリーディーはアメリカンファミリー屈指の名牝。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2021.12.5
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