2020安田記念


頂点にステイするチャンプ

 ステイゴールド産駒の重賞初制覇は初年度産駒ソリッドプラチナムが3歳の6月に勝ったマーメイドSだった。その年の暮れには2年目の産駒ドリームジャーニーが朝日杯フューチュリティSに勝ち、同馬が5歳を迎えると宝塚記念-G1でG1初制覇を飾り、暮れには有馬記念-G1にも勝った。翌2010年にはナカヤマフェスタが宝塚記念-G1に勝ち、その年の10月にはワークフォースにわずかアタマ差だけ敗れて凱旋門賞-G1に最も近づいた日本調教馬となった。2011年にはオルフェーヴルが登場し、三冠と有馬記念-G1を制覇。翌年はゴールドシップが皐月賞-G1と菊花賞-G1、有馬記念-G1に勝った。オルフェーヴルも宝塚記念-G1に勝ち、秋には凱旋門賞-G1をほぼ手中に収めながらなぜかゴール寸前で内にささってソレミアからクビ差の2着に終わった。2013年はフェノーメノが天皇賞(春)-G1に勝ち、ゴールドシップは宝塚記念-G1に勝った。暮れには阪神ジュベナイルフィリーズ-G1でレッドリヴェールが勝ち、牝馬として初めてG1に勝った。オルフェーヴルは2度目の凱旋門賞挑戦-G1で2着となったあと、有馬記念-G1を8馬身差で圧勝して有終の美を飾った。2014年はフェノーメノによる天皇賞(春)-G1連覇が達成され、ゴールドシップは宝塚記念-G1を連覇してステイゴールド産駒としては3連覇となった。2015年にはゴールドシップが天皇賞(春)-G1に勝ち、2016年は平地G1勝ちがなかった代わりにオジュウチョウサンが障害戦での連勝を始めている。2017年にはアドマイヤリードがヴィクトリアマイル-G1を勝って初めての古牝馬のタイトルを得た。2018年はレインボーラインが天皇賞(春)-G1を制し、2019年はインディチャンプが安田記念-G1とマイルチャンピオンシップ-G1に勝った。ディープインパクト産駒のようにスターが入れ替わり立ち替わり登場するわけではないが、1頭が長く活躍することで、大レースにおけるステイゴールドの存在感が薄れることはなかった。◎インディチャンプはステイゴールド産駒の牡馬としては珍しいマイラーであり、ディープインパクト産駒を凌ぐ瞬発力を示す点でも異色の存在といえる。キングカメハメハ産駒の母ウィルパワーは芝とダートの短距離で4勝を挙げ、インディチャンプの1歳下にシルクロードSのアウィルアウェイを生んだ。メドウレイク産駒の祖母トキオリアリティーUSAは米国産の輸入競走馬で、ダート1400mと芝1200mで合計3勝している。その産駒にはオーシャンSのアイルラヴァゲイン、安田記念-G1とジョージライダーS-G1のリアルインパクト、クイーンエリザベス2世カップ-G1のネオリアリズムがいて、繁殖牝馬としての優秀性を示した。リアルインパクトは3歳で安田記念-G1勝ち、種牡馬としても初年度産駒からNHKマイルC-G1のラウダシオンを送り出すなど競走馬としても種牡馬としてもマイラーとしての優れた資質を示している。インディチャンプについても、この祖母の存在が非常に大きいであろうことは推測できる。そこに父の活躍期間の長さという特質を掛け算すると、まだまだトップに君臨できるという答えが見える。


ステイゴールドG1勝ち産駒
馬名生年毛色母の父祖母の父主なG1勝ち
ドリームジャーニー2004鹿オリエンタルアートメジロマックイーンノーザンテーストCAN2009中山有馬記念-G1
ナカヤマフェスタ2006鹿ディアウィンクタイトスポットUSAデインヒルUSA2010阪神宝塚記念-G1
オルフェーヴル2008オリエンタルアートメジロマックイーンノーザンテーストCAN2011東京東京優駿-G1
ゴールドシップ2009ポイントフラッグメジロマックイーンプルラリズムUSA2012中山有馬記念-G1
フェノーメノ2009青鹿ディラローシェIREデインヒルUSAAverof2014京都天皇賞(春)-G1
レッドリヴェール2011黒鹿ディソサードUSADixieland BandLord Gaylord2013阪神阪神ジュベナイルF-G1
アドマイヤリード2013青鹿ベルアリュールIIIRENumerousKenmare2017東京ヴィクトリアマイル-G1
レインボーライン2013鹿レーゲンボーゲンフレンチデピュティUSAレインボーアンバー2018京都天皇賞(春)-G1
ウインブライト2014サマーエタニティアドマイヤコジーンジェイドロバリーUSA2019沙田香港カップ-G1
インディチャンプ2015鹿ウィルパワーキングカメハメハMeadowlake2019東京安田記念-G1

 ひとつひとつが常識を超えるパフォーマンスを足掛け3年にわたって繰り返してきた○アーモンドアイの長期的なタフさも驚くべきものだ。こういったタフさの源泉のようなものはサンデーサイレンスUSAに求められるのだろうと考えられるが、それがどのように引き出されるかについてはディープインパクト系の全力投入型だったり、ステイゴールド系のときどきサボり型だったり色々なパターンがあるのだろう。大雑把にいうと、サンデーサイレンスUSAの血はどんな形であれ、トレーニングで追い込まれても耐えられる、従来の水準よりも受容能力が高いことによって、日本の調教技術の底上げを果たしてきた面もある。だから、今は驚異の牝馬と呼ぶべきアーモンドアイも、将来的にはそれに肩を並べる存在が出てくるのだろう。母のフサイチパンドラはサンデーサイレンスUSAの最終世代でエリザベス女王杯(繰り上がり)と札幌記念に勝った名牝。3代母セックスアピール、4代母ベストインショウに遡る牝系は英2000ギニー-G1のエルグランセニョールからBCマイル-G1のドームドライヴァー、デューハーストS-G1のザールら多くの名馬を送ったほか、ベルモントS-G1を制したラグズトゥリッチズや愛オークス-G1のピーピングフォーンといった名牝も多く送り出した。そんな名門を代表する存在になったといえる。今回は初めての中2週がどうか。ひとつひとつのパフォーマンスが高水準なだけに、もし死角があるとすればその点。

 ▲アドマイヤマーズはダイワメジャー産駒として初めてのG1・3勝馬となった。マキアヴェリアン系メディチアン産駒の母は1600mのリウレイ賞-G3勝ち馬で、娘のヴィアピサはリディアテシオ賞-G1・3着、同ヴィアフィレンツェはバランシーン-G2・2着と活躍している。シングスピールIRE産駒の祖母もレゼルヴワール賞-G3勝ちの活躍馬。マキアヴェリアンとシングスピールIREはそれぞれ母がクドフォリとグローリアスソングというヘイロー産駒として代表的な名牝なので、ヴィアメディチは高級なヘイロー4×4の近交馬となる。そこへ父から更にヘイローが重なることで、ダイワメジャー産駒の水準を超える瞬発力を得られたのかもしれない。

 △ダノンスマッシュも豊作ロードカナロア初年度産駒。先週の目黒記念-G2に勝ったキングオブコージは4歳になってから4連勝で重賞勝ちに達しており、父の産駒には遅くに急激に伸びるものもいるということになる。本馬は父と同じようなタイミングで同じような重賞勝ちを収めていて、まだG1に届いていない点が父と違うが、これもまだ急速に伸びる可能性は秘めている。ミスタープロスペクター系×ダンチヒ系という今や古典的なマイラー配合には底力あり。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2020.6.7
©Keiba Book