1969年に米国の名門クレイボーンファームで生まれたスペシャルは米国で1戦未勝利に終わったが、直仔ヌレエフ、孫のサドラーズウェルズとフェアリーキングが種牡馬として大成功したため、特に欧州では現代における最も影響力の大きい牝馬となった。下表はこの名門牝系の抄録だが、今世紀に入ってからは2008年のヴィクトリアマイルでエイジアンウインズがウオッカを破ったり、2010年のブリーダーズCクラシック-G1ではブレイムが名牝ゼニヤッタを破るなどして、ここ一番で大金星を挙げて存在感を示している。エイジアンウインズの配合はサンデーサイレンスUSAとデインヒルUSAという1986年生まれの大種牡馬同士の組み合わせの成功例の初期のもので、その後に天皇賞(春)-G1連覇のフェノーメノや朝日杯フューチュリティS-G1のサトノアレスらが続いた。フジキセキ直仔ではほかにストレイトガールが2015年からこのレースを連覇していて、これは祖母の父がデインヒルUSAだから、サンデーサイレンスUSA×デインヒルUSAの成功例のバリエーションのひとつと見ていいだろう。また、フジキセキは祖母の父がインリアリティなので、配合相手がミスタープロスペクターの血を持っていると好結果につながる例が少なくなかったが、エイジアンウインズも祖母の父フォーティナイナーUSAがミスタープロスペクターの代表産駒だった。その前年にヴィクトリアマイルに勝っていたコイウタやマイルチャンピオンシップ-G1勝ち馬サダムパテックも父がフジキセキ、祖母の父がミスタープロスペクターという組み合わせだった。◎メジェールスーはそのエイジアンウインズにロードカナロアが配合されて生まれた。ロードカナロアの初年度産駒はまずアーモンドアイがダッシュ良く飛び出して頂点まで駆け上がり、それを追って牡馬のステルヴィオも3歳秋にマイルチャンピオンシップ-G1勝ちを果たした。ロードカナロア自身がピークを迎えたのは日本と香港でG1に合計6勝を挙げた4、5歳時だったので、産駒の中にはそのようにゆっくりと仕上がってより高い位置まで上昇するものもいるのではないだろうか。ロードカナロアとエイジアンウインズの配合では、父系のキングマンボと3代母の父フォーティナイナーUSAを経由したミスタープロスペクターの4×5となるほか、ミスタープロスペクターの好パートナーといえるインリアリティも5×5、リボー直仔ヒズマジェスティの5×5となるほか、血統表中にはトライマイベストUSA、ストームバード、ニジンスキーとカナダの大オーナーブリーダーであるE.P.テイラー作品のノーザンダンサー直仔が3頭並んでいる。良血ばかりを集めたスプリンターに近いマイラー配合で、このレースの性質にはよくフィットするのではないかと思う。なお、2008年に母が負かしたウオッカは当時ドバイ帰りだったという偶然の符合もあるにはある。 |
名牝スペシャルのスペシャルな成功 |
SPECIAL スペシャル(牝、鹿、1969年生、父Forli) Fairy Bridge フェアリーブリッジ(牝、鹿、1975、Bold Reason) | SADLER'S WELLS サドラーズウェルズ(牡、鹿、1981、Northern Dancer)愛 | 2000ギニーG1、エクリプスSG1、フィーニクスチャンピオンSG1 | Fairy King フェアリーキング(牡、鹿、1982、Northern Dancer) | TATE GALLERY テイトギャラリー(牡、鹿、1983、Northern Dancer)愛ナショ | ナルSG1 NUREYEV ヌレエフ(牡、鹿、1977、Northern Dancer)トーマスブライアン賞G3 NUMBER ナンバー(牝、鹿、1979、Nijinsky)ヘンプステッドHG2 | ジェイドロバリーUSA JADE ROBBERY(牡、黒鹿、1987、Mr. Prospector)グラ | ンクリテリウムG1 BOUND バウンド(牝、鹿、1984、Nijinsky)[2]アルシバイアディーズSG2 サクラフブキUSA Sakura Fubuki(牝、鹿、1990、フォーティナイナーUSA) | サクラサク2(牝、鹿、1997、デインヒルUSA) | エイジアンウインズ(牝、鹿、2004、フジキセキ)ヴィクトリアマイル | | メジェールスー(牝、鹿、2015、ロードカナロア) | キュートエンブレム(牝、鹿、2005、ウォーエンブレムUSA)[3]フローラS | エバーブロッサム(牝、鹿、2010、ディープインパクト)[2]優駿牝馬G1 Liable ライアブル(牝、鹿、1995、Seeking the Gold) | BLAME ブレイム(牡、鹿、2006、Arch)ブリーダーズCクラシックG1 ARCHIPENKO アーキペンコ(牡、鹿毛、2004、Kingmambo)クイーンエリザベス 2世カップG1 |
○アーモンドアイはヌレエフ5×3の近交なので、スペシャルの影響ではこちらの方がより大きいのかもしれない。母のフサイチパンドラは3歳時にエリザベス女王杯を勝ち(2位入線繰り上がり)、4歳時には札幌記念に勝った。2度目のエリザベス女王杯-G1では2着だったが、ダイワスカーレットから0秒1差なら値千金といえる。祖母ロッタレースUSAがヌレエフの娘で、バックパサー産駒の3代母セックスアピールには直仔にトライマイベストUSA、エルグランセニョールが出たほか、孫や曾孫、玄孫の代にも多くの活躍馬が現れ、一大牝系の起点となった。4代母ベストインショウもそれに勝る名牝で、その末裔にはザール、ハリケーンスカイ、ラグズトゥリッチズ、カジノドライヴUSAら多くの名馬名牝が並んでいる。トライマイベストやエルグランセニョールは良い種牡馬ではあったが、大種牡馬というほどまでは成功しなかったので、女系の名門という面もあるのかもしれない。 ディープインパクト産駒は出走馬の半分を占める9頭。これは2015年天皇賞(秋)-G1に並ぶディープインパクト産駒多頭数出しタイ記録となる。多ければいいのかというとそういうわけでもなくて、当時勝ったのはキングカメハメハ産駒のラブリーデイ。ディープインパクト産駒では最低の10番人気だったステファノスが最先着の2着となった。それはともかく、2歳女王▲ダノンファンタジーがそろそろ本格的に復活するころではないだろうか。このレースでもウオッカ、ブエナビスタ、アパパネが勝っているように阪神ジュベナイルフィリーズ-G1勝ち馬の能力というのはある程度の保証付きと考えて良く、ラッキーライラックでもアーモンドアイという壁にぶつかったあともよく復活した。母のライフフォーセールARGは3歳春にセレクシオンデポトランカス大賞-G1(ダ2000m)、ブエノスアイレス州大賞-G1(ダ2200m)と2つのG1に圧勝しており、ブラジル産の祖母ダウトファイアは同国のG3で2、3着がある。母の父ノットフォーセールはパレードマーシャル、カロを経てフォルティノに遡る今や珍しい血統で、スワップス4×3の近交馬。母の方は力の血統という印象がかなり強く、古馬になっての成長にも期待していい。 △サウンドキアラの母サウンドバリアーはフィリーズレビュー-G2の勝ち馬。その父アグネスデジタルUSAは6歳時の安田記念をレコードで勝った。大物食いの要素を求めるとすればこの母の父となる。祖母はシアトルスルー×セクレタリアトの米国三冠馬配合で、このパターンはカワカミプリンセスの母タカノセクレタリーなどと同じ。3代母レディーズシークレットはG1・11勝の歴史的名牝だ。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2020.5.17
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