1981年に行われた第1回ジャパンカップ勝ち馬メアジードーツUSAは1976年に米国で生まれた牝馬で父ノーダブルはスターキングダム系の1965年生まれ、母の父ティーヴィーラークは1957年生まれでナスルーラの孫だった。1994年にはマーベラスクラウンがミスタープロスペクター直系として初めて勝ち、1999年にはスペシャルウィークがサンデーサイレンスUSA産駒として最初の勝利を収めた。これらの画期を経て、このレースにおける活躍馬の血統は回を追って洗練されていったように見える。雑木林が40年をかけて整然とした人工林に姿を変えたようでもあり、逆に40年後には再び雑木林に戻る可能性もある。雑木林が悪いとか人工林がいいとか、そんな意味は含まない。さて、性と年齢に縛りのない東京芝2400mのこのレースが強い馬を選ぶのに最もふさわしいとするならば、下表に示した通り、最も強い馬は、最も洗練された血統はサンデーサイレンスUSAとミスタープロスペクターの組み合わせのバリエーションから現れる可能性が高い。英愛にはガリレオとデインヒルUSA、北米にはストームキャットとエーピーインディとミスタープロスペクターと、現代の定番といえる地域の代表的な配合様式があって、日本のサンデーサイレンスUSAとミスタープロスペクターの組み合わせもそれらに並ぶ位置まで来たのかもしれない。 |
サンデーサイレンスUSA系とミスタープロスペクター系の組み合わせ | ||||||
年度 | 着順 | 馬名 | 性齢 | 父 | 母の父 | 人気 |
2003 | 2 | ザッツザプレンティ | 牡3 | ダンスインザダーク[SS] | Miswaki[MP] | 5 |
2004 | 1 | ゼンノロブロイ | 牡4 | サンデーサイレンスUSA | マイニングUSA[MP] | 1 |
2005 | 3 | ゼンノロブロイ | 牡5 | サンデーサイレンスUSA | マイニングUSA[MP] | 1 |
2007 | 1 | アドマイヤムーン | 牡4 | エンドスウィープUSA[MP] | サンデーサイレンスUSA | 5 |
2010 | 1 | ローズキングダム | 牡3 | キングカメハメハ[MP] | サンデーサイレンスUSA | 4 |
3 | ヴィクトワールピサ | 牡3 | ネオユニヴァース[SS] | Machiavellian[MP] | 8 | |
2013 | 2 | デニムアンドルビー | 牝3 | ディープインパクト[SS] | キングカメハメハ[MP] | 7 |
2014 | 3 | スピルバーグ | 牡5 | ディープインパクト[SS] | Lycius[MP] | 6 |
2015 | 2 | ラストインパクト | 牡5 | ディープインパクト[SS] | ティンバーカントリーUSA[MP] | 7 |
3 | ラブリーデイ | 牡5 | キングカメハメハ[MP] | ダンスインザダーク[SS] | 1 | |
2016 | 3 | シュヴァルグラン | 牡4 | ハーツクライ[SS] | Machiavellian[MP] | 6 |
2017 | 1 | シュヴァルグラン | 牡5 | ハーツクライ[SS] | Machiavellian[MP] | 5 |
2018 | 1 | アーモンドアイ | 牝3 | ロードカナロア[MP] | サンデーサイレンスUSA | 1 | 2 | キセキ | 牡4 | ルーラーシップ[MP] | ディープインパクト[SS] | 4 |
3 | スワーヴリチャード | 牡4 | ハーツクライ[SS] | Unbridled's Song[MP] | 2 | |
2019 | 1 | スワーヴリチャード | 牡5 | ハーツクライ[SS] | Unbridled's Song[MP] | 3 | 2 | カレンブーケドール | 牝3 | ディープインパクト[SS] | 母がMP5×3×4 | 5 |
3 | ワグネリアン | 牡4 | ディープインパクト[SS] | キングカメハメハ[MP] | 2 | |
※[SS]はサンデーサイレンスUSA系、[MP]はミスタープロスペクター系 |
今が洗練のピークにあるのかもしれない日本馬の血統は、今年ついにサンデーサイレンスUSAの近交(4×3)によるクラシック馬の出現を見た。三冠牝馬○デアリングタクトだ。その父系はシンボリクリスエスUSAからクリスエスを経てロベルトに遡り、母デアリングバードの父キングカメハメハはわが国で最も成功したミスタープロスペクター系といえる。祖母デアリングハートはサンデーサイレンスUSA産駒としてはディープインパクトと同期、桜花賞ではラインクラフト、シーザリオに続く3着となった。シーザリオはその後、優駿牝馬とアメリカンオークス-G1に勝ち、本馬の父エピファネイアやリオンディーズ、サートゥルナーリアを生んだ。3代母デアリングダンジグの産駒にはスーパーダービー-G1のエクトンパーク、武蔵野Sのピットファイター、4代母インペチュアスギャルの産駒にはレディーズH-G1などG1・3勝のバンカーズレディがいる。活躍馬が続く牝系の上に、サンデーサイレンスUSAの近交とロベルト系×ミスタープロスペクター系のニックスを重ねていて、その米国色の濃さが、米国の名牝によくある連戦連勝型として出たといえなくもない。 ロードカナロア産駒の▲アーモンドアイはキングカメハメハ×サンデーサイレンスUSAにストームキャットが加わる最先端様式であり、祖母からヌレエフが入り、3代母セックスアピール、4代母ベストインショウと遡る牝系は米国屈指の国際的名門。ジャパンカップ-G1ではアーモンドアイ自身が驚異的なレコード勝ちがあるだけでなく、母フサイチパンドラも3歳時にはエリザベス女王杯を勝利したあと、ディープインパクトから0秒8差の5着に入り、同期の2冠馬メイショウサムソンにはハナ差先着している。3歳時のような破天荒な強さを示すことは少なくなってきたが、年を重ねて経済的に勝つことを覚えたともいえる。 洗練された日本血統の中でも特に整った高級なものが揃う芝の中長距離部門で雑木林にあるような血統を見つけるのはもはや至難の業だが、少し他と違う面白みという意味では△ミッキースワローに期待したい。3代目にノーザンテーストCANとトニービンIREの名がみえるあたり、10年ほど過去に戻ったプチ懐古趣味の良さがある。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2020.11.29
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