2020天皇賞・春


長距離走者の専門化

 ステイゴールド産駒がフェノーメノ、フェノーメノ、ゴールドシップと3連覇したあとはブラックタイド産駒のキタサンブラックが連覇。次にステイゴールド産駒のレインボーラインが勝って、昨年はディープインパクト産駒としては初めてフィエールマンが勝利。ブラックタイドを全弟のディープインパクトと同じとみなせば、ここ7年ずっとステイゴールド系とディープインパクト系しか勝っていないことになる。下表に示した通り今年の出走馬もサンデーサイレンスUSA直系がステイゴールド系4頭とディープインパクト系6頭、そしてキングカメハメハ系が3頭いて、1頭だけサドラーズウェルズ系が加わり、シンプルに4系統に分けることができた。


主要4父系統の争い
Hail to Reason(1958年生)
  Halo(1969)
    サンデーサイレンスUSA(1986)
      ステイゴールド(1994)
      | ドリームジャーニー(2004)
      | | ミライヘノツバサ(2013)
      | オルフェーヴル(2008)
      | | メロディーレーン(2016)
      | スティッフェリオ(2014)
      | エタリオウ(2015)
      ディープインパクト(2002)
        ディープブリランテ(2009)
        | モズベッロ(2016)
        トーセンホマレボシ(2009)
        | ミッキースワロー(2014)
        シルヴァンシャー(2015)
        フィエールマン(2015)
        トーセンカンビーナ(2016)
        メイショウテンゲン(2016)
Mr. Prospector(1970)
  Kingmambo(1990)
    キングカメハメハ(2001)
      ルーラーシップ(2007)
      | キセキ(2014)
      | ダンビュライト(2014)
      ユーキャンスマイル(2015)
Sadler's Wells(1981)
  In the Wings(1986)
    シングスピールIRE(1992)
      ローエングリン(1999)
        ハッピーグリン(2015)

 分けると分かるは元が同じ言葉なので、父系に関していえば、きわめて分かりやすいレースといえないだろうか。勝ち抜き制が廃止されたあと、このレースの連覇はメジロマックイーンとテイエムオペラオーが達成しており、10年に1回の周期だった。近年になってその頻度が増した背景としては、今年はともかく、ドバイ、香港、オーストラリアに中距離G1の選択肢が増え、なおかつ大阪杯-G1もG1となったため、このレースは以前に比べると超長距離戦としての専門性が高まったことも挙げられるかもしれない。そのようなここ7年の繰り返しのパターンを今年もなぞるとすると、フィエールマンの連覇の可能性は高い。母のリュヌドールFRは3歳時2004年にイタリアのリディアテシオ賞-G1でG1勝ちを果たし、ジャパンC-G1にも出走(7着)したが、むしろG1より価値があるのは夏のドーヴィルの2500mのポモーヌ賞-G2の勝利で、過去このレースからはレディベリー、ファビュルージェーン、エイプリルランIRE、コロラドダンサー、マジックナイトFR、ホワイトウォーターアフェアGBなど多くの名牝が輩出した。繁殖牝馬選抜競走としての長距離戦の意義を示した点も特筆される。祖母のリュートドールはフィユドレール賞-G3・2着のある活躍馬で、3代母ヴィオレダムールもフィユドレール賞-G3・2着。産駒リュートアンシャンテはジャックルマロワ賞-G1とムーランドロンシャン賞-G1に勝ち、余勢を駆って凱旋門賞-G1でも3着となった名牝。このようにフランス色の強い血統で、リファールとニジンスキーを経由したノーザンダンサーの5×5、更に血統表4代目にはバステッドやラインゴールドIREの名も見える。このような古風な美点は春の天皇賞-G1向きにも見える。ただ、ディープインパクト産駒で3、4、5歳と続けてG1勝ちを収めたのはこれまでジェンティルドンナだけ。牡馬ではまだ例がない。急上昇型かつここ一番にエネルギーを集中して燃焼させてしまうせいか、そこそこの能力を長い期間にわたって保つということはあまり得意ではないのかもしれない。連覇に壁があるとすればそういったことだろう。

 もしフィエールマンの連覇がならないとすれば、次にあり得るのはディープインパクト産駒による連覇。そこで、クラシックでの不振を脱し、ここに来てステイヤーとして上昇してきた◎メイショウテンゲンに期待する。母のメイショウベルーガは日経新春杯-G2、京都大賞典-G2など京都芝外回りで4勝を挙げ、エリザベス女王杯-G1でもスノーフェアリーIREの2着となった(3着はアパパネだ)。母のコース適性の高さが逆転の根拠とまではいかないにしても、母の父フレンチデピュティUSAの万能性は天皇賞(春)-G1でも直仔アドマイヤジュピタの勝利の例があり、祖母の父サドラーズウェルズの存在も長距離適性を下支えしていると考えられる。3代母パサマコディは名馬ダンシングブレーヴUSAの母ナヴァホプリンセスの全妹にあたるので、祖母パパゴはサドラーズウェルズ化したダンシングブレーヴUSAということができる。1980〜90年代欧州の最良のクラシック血統であるわけだ。本馬のレースぶりがディープインパクト×フレンチデピュティUSAの機敏なイメージからやや外れるのは、そういったボトムラインの重さに起因する。これが逆に超長距離戦では武器となる場合もある。

 ディープインパクトの連覇でもないとすると、台頭するのはステイゴールドだ。インディチャンプやオジュウチョウサンの活躍により、晩年の産駒群は別分野への進出に熱心だと見ることもできるが、この個性の強い名種牡馬に関してはそう思わせておいて長距離で本領を発揮する意外性まで予見しておくべきだろう。▲スティッフェリオは香港カップ-G1のウインブライトと同世代のステイゴールド産駒。母は2歳時にデビューから3連勝でチェヴァリーパークS-G1に勝ち、4歳秋にもカナダでニアークティックS-G1に勝った。その父ムトトはキングジョージ6世&クイーンエリザベスS-G1、エクリプスS-G1連覇などG1・3勝の名馬。種牡馬としては英ダービー-G1のシャーミット、ゴールドC-G1のセレリック、そして本馬と3頭のG1勝ち馬を送った。大成功とはいい難いが、バステッド〜クレペロ〜ドナテッロと遡る古色蒼然たる父系を考えれば、大健闘ともいえる。そういった異質な血統だけに、ステイゴールドとの組み合わせによって化学変化を起こす可能性がある。ちょうどステイゴールド×メジロマックイーンのようなものだ。本馬の場合は3代母の父ザノーブルプレイヤーがザミンストレル直仔だから、これはゴールドシップの祖母の父がプルラリズムUSAだった点にも通じるものがある。

 △ミライヘノツバサは阪神ジュベナイルフィリーズ勝ち馬タムロチェリーの孫。早世したタムロチェリーが唯一残した牝駒タムロブライトが母で、その父の米2冠馬シルバーチャームUSAはウォーアドミラル4×5とラトロワンヌを組み合わせて流行血統を排した美しい配合を誇った。1978年のこのレースの勝ち馬グリーングラスと同じ諏訪牧場の生産馬で、勝てば青森産馬としても同馬以来の天皇賞制覇となる。父のドリームジャーニーは全弟オルフェーヴルの陰に隠れてしまいがちだが、ここらで存在感を示したいところ。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2020.5.3
©Keiba Book