2019秋華賞


緋色に燃える希望の火

 オルフェーヴルの初年度産駒はデビューした2017年9月にロックディスタウンが重賞勝ち、暮れにはラッキーライラックがG1勝ち、翌2018年4月にはエポカドーロがクラシック勝ちを収めた。滑り出しが順調過ぎたのか、2年目の産駒からは3歳秋を迎えた今もまだ重賞勝ち馬が出ていない。その穴埋めをするようにステイゴールド系の後輩ゴールドシップの産駒が札幌2歳S-G3で1、2着を占めているので、ステイゴールド系の捉えどころのなさは後継世代でも発揮されているようだ。第2世代ではその勢力がしぼんでいるオルフェーヴルも、停滞のあとに急上昇を示す可能性はある。3歳馬の場合は古馬を相手に2勝クラスを勝てば世代限定のG1で通用、ときには勝つ例もある。降級が廃止された今年からは強い4歳馬がいないので条件戦のレベルが下がっているため、昨年までと同じ考え方は通用しないかもしれないが、オルフェーヴル産駒の◎エスポワールは7月の時点で古馬相手に圧勝した。母のスカーレットは不出走だが、半兄アドミラブルは青葉賞-G2勝ち馬で、伯父ヴィクトリーは皐月賞馬。祖母グレースアドマイヤは5勝を挙げた活躍馬で府中牝馬Sで2着となった。その兄弟には東京優駿のフサイチコンコルド、皐月賞のアンライバルドがいて、下表の通りその一族には多くの活躍馬がいる。ヴィクトリーは若葉Sからの連勝で皐月賞馬となり、フサイチコンコルドは年明けデビューからの3連勝で日本ダービー馬に、アンライバルドは若駒S、スプリングSと連勝して皐月賞馬となった。このように勢いに乗るとG1レベルまで止まらずに到達する力がこの名門牝系には伝わっている可能性があり、父のオルフェーヴルも新馬勝ちのあとはしばらくモタついたが、スプリングS-G2勝ちできっかけを掴むと三冠から有馬記念-G1まで連勝が止まらなかった。今から20数年前のフサイチコンコルドが当時の常識を破る戦跡で日本ダービー馬となっているのだから、その近親が今の時代に重賞初挑戦でG1勝ちを果たしても驚くことではないだろう。


名門サンプリンセス系の豪華な40年
 SUN PRINCESS サンプリンセス(鹿、牝、1980、イングリッシュプリンスIRE)英オークスG1、英
     セントレジャーG1、ヨークシャーオークスG1、2着=凱旋門賞G1、コロネーションCG1、3着=
     キングジョージY世&クイーンエリザベスSG1
   PRINCE OF DANCE(鹿、牡、1986、Sadler's Wells)デューハーストSG1、シャンペンSG2
   バレークイーンIRE(鹿、1988、Sadler's Wells)
   | フサイチコンコルド(鹿、牡、1993、Caerleon)東京優駿、すみれS、2着カシオペアS、3着
   | |  =菊花賞
   | グレースアドマイヤ(鹿、1994、トニービンIRE)2着=府中牝馬S、3着=4歳牝馬特別(東)
   | | リンカーン(鹿、牡、2000、サンデーサイレンスUSA)阪神大賞典G2、京都大賞典G2、日
   | | |  経賞、若駒S、すみれS、2着=有馬記念、天皇賞(春)、菊花賞、3着=宝塚記念G1、
   | | |  有馬記念、阪神大賞典G2
   | | グローリアスデイズ(栗、牝、2001、サンデーサイレンスUSA)2着フローラS、ローズS
   | | | ジェラシー(栗、牝、2013、ハービンジャーGB)スイートピーS
   | | ヴィクトリー(鹿、牡、2004、ブライアンズタイムUSA)皐月賞、若葉S、2着ラジオNIKKEI
   | | |  杯2歳S、3着=京都記念G2、神戸新聞杯
   | | スカーレット(鹿、牝、シンボリクリスエスUSA)
   | |   アドミラブル(鹿、牡、2014、ディープインパクト)青葉賞G2
   | |   エスポワール(栗、牝、2016、オルフェーヴル)
   | フサイチミニヨン(鹿、牝、1996、サンデーサイレンスUSA)
   | | アンナヴァン(栗、牝、2001、エンドスウィープUSA)
   | | | サトノネプチューン(鹿、牡、2010、シンボリクリスエスUSA)ホープフルS
   | | アンブロワーズ(鹿、牝、2002、フレンチデピュティUSA)函館2歳S、ファイナルS、2着=
   | |    阪神ジュベナイルフィリーズ
   | |   ロシュフォール(黒鹿、牡、2015、キングカメハメハ)3着=新潟大賞典G3
   | ボーンキング(鹿、牡、1998、サンデーサイレンスUSA)京成杯、2着=弥生賞、3着=アメリ
   | |  カジョッキークラブC
   | アンライバルド(鹿、牡、2006、ネオユニヴァース)皐月賞、スプリングS、若駒S
   Ballet Prince(鹿、牡、1990、Sadler's Wells)2着=オレアンダーレネンG3、3着グラディアトゥー
   |   ル賞G3
   Stage Struck(鹿、牝、1992、Sadler's Wells)
   | Drama Class(栗、牝、1997、Caerleon)
   | | Scottish Stage(栗、牝、2003)2着=愛オークスG1、リブルスデイルSG2
   | | エレアノラデュースIRE ELEANORA DUSE(鹿、牝、2007、Azamour)ブランドフォードS
   | |    G2、3着=ヨークシャーオークスG1、ムシドラSG3
   | プレイガールIRE(鹿、牝、1998、Caerleon)
   | | ノーワン(鹿、牝、2016、ハーツクライ)フィリーズレビューG2
   | STAGE GIFT(栗、せん、2003、Cadeaux Genereux)ヨークSG3、ダーレーSG3、2着=スト
   | | レンソールSG3、
   | Moonlight Danceuse(栗、牝、2005、Bering)
   |   Madurai (鹿、せん、2011、Marju)2着=ラティボル公爵レネンG3、バーデンヴュルテンベ
   |      ルクトロフィーG3、3着=ヴィンターファヴォリテン賞G3
   PRINCELY VENTURE(栗、牡、1999、アントレプレナーGB)スコティッシュダービーG2

 立ちはだかるとすればこの世代の牝馬限定G1を全部違う産駒で制してきたディープインパクト。今回も5頭出しの厚い陣容となった。○サトノダムゼルは母ダリシアがドイツの2000mのシュパルカッセンフィナンツグルッペ賞-G3の勝ち馬で、半兄アニマルキングダムがケンタッキーダービー馬。それを見る限り2000mが最適であるのかもしれない。ドイツ血統の力は先週の凱旋門賞-G1で大本命エネイブルを差し切ったヴァルトガイストが示した通り。こちらは母の父がドイツダービー馬アカテナンゴ、祖母の父はそれを凱旋門賞-G1で並ぶ間もなく差し切った名馬ダンシングブレーヴUSA。欧州的な底力を十分に備えた血統で、なおかつ米国競馬の象徴ともいえるケンタッキーダービー-G1でも結果を出している点が強み。ディープインパクトとの配合ではウインドインハーヘアIREの持つステイヤー属性が強調されつつ、アルザオとダンシングブレーヴUSAを経由したリファールがここ一番の瞬発力につながるようにも見える。5代母ディウが1972年の独オークス馬。

 ▲カレンブーケドールは母の父スキャットダディがヨハネスブルグUSA、ヘネシーUSA、ストームキャットと遡る米国的快足血統だが、母自身はチリの芝2400mで行われるエルダービー-G1などに勝った同国の年度代表馬。スキャットダディは2015年に死んでしまったが、最後から2番目の世代の産駒に米三冠馬ジャスティファイがおり、ある父系が快足のピークに達して万能へと転換する地点にあった種牡馬だったのかもしれない。そして、ディープインパクトとの組み合わせでは最も成功例の多いニックスであるストームキャット系との組み合わせの最新バリエーションということにもなる。南米血統とディープインパクトの組み合わせもマカヒキ、サトノダイヤモンドからダノンファンタジーまで、多くのG1レベルの成功例を積み上げてきた。

 △クロノジェネシスは凱旋門賞馬バゴFR産駒としては久しぶりの重賞勝ち馬。2月のクイーンC-G3勝ちは父にとって2017年のコマノインパルスによる京成杯-G3以来2年ぶりのG3勝ちだった。もしG1勝ちがかなえばビッグウィークの菊花賞-G1以来9年ぶりとなる。バゴFR自身はマキアヴェリアンなどと同じニアルコス家の主要牝系クドフォリーから出ていて、サンデーサイレンスUSA系牝馬との配合には最適と思えるのだが、ナシュワン、ブラッシンググルームと遡る父系に少しアテにしづらい部分があるのかもしれない。ただし、ツボに嵌まれば初年度産駒が示したようにクラシックで勝負になる。クロノジェネシスはヴィクトリアマイル-G1に勝ったノームコアの半妹で、フサイチエアデールの母ラスティックベルが3代母。ローズS-G2・2着のビーチサンバは近親にあたる。ヘイロー4×5から瞬発力も期待できる。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2019.10.13
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