有馬記念の最多勝種牡馬はサンデーサイレンスUSAで、マンハッタンカフェ、ゼンノロブロイ、ハーツクライ、ディープインパクト、マツリダゴッホにより5勝を挙げた。それに続くのがステイゴールドで、こちらは下表の通りドリームジャーニー、オルフェーヴル、ゴールドシップの3頭で4勝を挙げた。3勝しているのはブライアンズタイムUSAとヒンドスタンGB。2勝組もディープインパクトなど9頭しかいない。サンデーサイレンスUSAとステイゴールドの比較では、前者が延べ55回の出走で(5.5.9.36)に対し、後者は19回出走して(4.1.2.12)と率ではかなり上回っている。ただし、ステイゴールド産駒の勝利はすべて母の父メジロマックイーンであり、ほかには母の父ダッシングブレイドのオーシャンブルーが1回2着に来て大穴をあけたことがあるだけ。特定の血統が特定の条件で特異な強さを発揮したと捉えるのが正しく、ステイゴールド産駒というだけで飛びつくのは間違っている可能性も高い。しかも、2014年にゴールドシップが3着となったのを最後に、翌年の天皇賞(春)-G1に勝つレインボーラインのような馬でも8着に完敗している。もう、有馬記念-G1=ステイゴールドの時代は去ったのかもしれない。しかし、安田記念-G1で実際にアーモンドアイを負かしたインディチャンプはステイゴールド産駒ではなかったか。アーモンドアイが出走する予定だった香港カップ-G1に勝ったウインブライトもステイゴールド産駒ではなかったか。そういった事実を踏まえると、女王の隙を突くことができるものがいるとすれば、やはりステイゴールド産駒しかいないではないか。◎クロコスミアはエリザベス女王杯-G1・3年連続2着、ヴィクトリアマイル-G1・3着などG1での2、3着を重ねており、この蹄跡は引退戦の香港ヴァーズ-G1で初めてのG1制覇を飾った父ステイゴールドの縮小再現版といえる。オルフェーヴルやゴールドシップのようにG1を次々と勝つようなのは正統な後継者とはいえないという考え方だ。母の父がボストンハーバーUSAなので、早熟なスピードに傾く嫌いはあるが、シアトルスルーとヴァイスリージェントの組み合わせなので、母の父として優れているだけでなく、父の持つノーザンテーストCANの血がより生きてくると見ることもできる。祖母ショウエイミズキは持ち込み馬でナシュワン×サドラーズウェルズの欧州ステイヤー血統。3代母アルヴォラGBの仔には名スプリンター・ディクタットGBがおり、4代母パークアピールは2歳時にモイグレアスタッドS-G1とチェヴァリーパークS-G1の2つのG1に勝った名牝。産駒のケープクロスはロッキンジS-G1に勝った名マイラーで、種牡馬としては万能の活躍を示した。5代母バリダレスの子孫には、愛オークス-G1のアリダレス、チェヴァリーパークS-G1のディザイラブル、英1000ギニー-G1のシャダイード、同ラシアンリズムなど英愛で多くの名牝が出た。欧州、米国、日本の血をノーザンダンサー5×5×5とナスルーラでつなぎ、サンデーサイレンスUSAで仕上げた形には、これまでの実績以上の爆発力が秘められていて驚けない。 |
有馬記念におけるステイゴールド産駒の浮沈 | |||||||
年度 | 着順 | 馬名 | 性齢 | 母の父 | 祖母の父 | 人気 | 単勝 オッズ |
2008 | 4 | ドリームジャーニー | 牡4 | メジロマックイーン | ノーザンテーストCAN | 7 | 24.1 |
2009 | 1 | ドリームジャーニー | 牡5 | メジロマックイーン | ノーザンテーストCAN | 2 | 4.0 |
2010 | 13 | ドリームジャーニー | 牡6 | メジロマックイーン | ノーザンテーストCAN | 4 | 12.1 |
15 | ジャミール | 牡4 | Sadler's Wells | Levmoss | 15 | 91.8 | |
2011 | 1 | オルフェーヴル | 牡3 | メジロマックイーン | ノーザンテーストCAN | 1 | 2.2 |
2012 | 1 | ゴールドシップ | 牡3 | メジロマックイーン | プルラリズムUSA | 1 | 2.7 |
2 | オーシャンブルー | 牡4 | Dashing Blade | ダンシングブレーヴUSA | 10 | 27.6 | |
7 | ナカヤマナイト | 牡4 | カコイーシーズUSA | マルゼンスキー | 5 | 13.9 | |
2013 | 1 | オルフェーヴル | 牡5 | メジロマックイーン | ノーザンテーストCAN | 1 | 1.6 |
3 | ゴールドシップ | 牡4 | メジロマックイーン | プルラリズムUSA | 2 | 4.4 | |
13 | ナカヤマナイト | 牡5 | カコイーシーズUSA | マルゼンスキー | 10 | 47.5 | |
2014 | 3 | ゴールドシップ | 牡5 | メジロマックイーン | プルラリズムUSA | 1 | 3.5 |
10 | フェノーメノ | 牡5 | デインヒルUSA | Averof | 6 | 15.3 | |
16 | オーシャンブルー | 牡6 | Dashing Blade | ダンシングブレーヴUSA | 15 | 87.1 | |
2015 | 8 | ゴールドシップ | 牡6 | メジロマックイーン | プルラリズムUSA | 1 | 4.1 |
15 | オーシャンブルー | 牡7 | Dashing Blade | ダンシングブレーヴUSA | 15 | 122.8 | |
2017 | 8 | レインボーライン | 牡4 | フレンチデピュティUSA | レインボーアンバー | 9 | 44.7 |
2018 | 9 | オジュウチョウサン | 牡7 | シンボリクリスエスUSA | ミルジョージUSA | 5 | 9.2 |
14 | パフォーマプロミス | 牡6 | タニノギムレット | Northern Dancer | 7 | 20.6 |
○アーモンドアイは祖母の父にヌレエフが潜んでいる点が有馬記念-G1ではプラスに働く。3代母セックスアピール、4代母ベストインショウと遡る牝系は、トライマイベストUSA、エルグランセニョールから(相当端折って)ラグズトゥリッチズ、カジノドライヴUSAまで世界中で多くの名馬名牝を送り出してきた名門だが、その頂点に立つ名牝が今この日本にいるのである。母のフサイチパンドラは3歳時に繰り上がりでエリザベス女王杯に優勝し、4歳時には札幌記念に勝った名牝。その年は引退レースとして有馬記念-G1に向かったが、左寛跛行で出走取消となってしまった。そういった意味では12年前の母の無念を晴らす場でもある。 ハーツクライは2005年のこのレースでディープインパクトを破る金星を挙げ、翌年にはドバイシーマクラシック-G1に勝った。産駒のジャスタウェイはドバイデューティフリー-G1の圧勝で日本最初のレーティングによる世界チャンピオンとなり、シュヴァルグランはジャパンカップ-G1でキタサンブラックを破った。大仕事をやってのける力があるところに、今年後半はここまでリスグラシューのコックスプレート-G1、スワーヴリチャードのジャパンカップ-G1、サリオスの朝日杯フューチュリティS-G1と非常にいい流れできている。▲リスグラシューは宝塚記念-G1でキセキに0秒5差をつけた。昨年のジャパンカップでのアーモンドアイとキセキの差は0秒3なので、単純に考えると0秒2勝っている可能性がある。父の大物食い属性を発揮するとすれば、ここは最初で最後の最大のチャンスとなる。 △キセキの父ルーラーシップは2010年の有馬記念-G1で6着、2011年4着、2012年3着と年を追って出遅れがひどくなりつつ着順は上げてきた。その母エアグルーヴは1997年に大接戦でシルクジャスティス、マーベラスサンデーに続く3着に敗れ、引退戦となった翌年は若いグラスワンダーUSAの前に5着に終わった。エアグルーヴの母ダイナカールも3歳時に果敢にこのレースに挑んで0秒3差の4着となり、翌年はシンボリルドルフの7着だった。1980年代前半にあっては、牡馬相手の大健闘といえた。このように、父の牝系には30年越しの有馬記念惜敗史が刻み込まれているわけだが、それを母の父ディープインパクトが払拭できるかどうかということになる。 エタリオウは母ホットチャチャがクイーンエリザベス2世チャレンジカップS-G1勝ち馬。牝系もフィップス家の名門クリアシーリングに遡る。覚醒が父より更に遅いとは相当な大物なのかもしれない。 |
競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2019.12.22
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