2019天皇賞(秋)


威厳を示すカメハメハ大王

 天皇賞(秋)における牡牝の対決というとあくまで個人的な記憶としてはニッポーテイオーとダイナアクトレスの1987年が一番盛り上がったと思うのだが、レースではニッポーテイオーが一方的に逃げ切り、ダイナアクトレスは伸びそうで伸びず8着に終わって明暗を分けた。それら2頭は同世代で何度も戦って勝ったり負けたりを繰り返してのもので、初対決の緊張感がみなぎる今回とは随分様相が違うが、それだけ競馬のあり方、一流馬の競走生活のあり方が変わってきたのだろう。
 ロードカナロアが初年度産駒からアーモンドアイを出し、2年目にはサートゥルナーリアが現れ、ステルヴィオのマイルチャンピオンシップ-G1を加えると3頭で既にG1は8勝。オーストラリアではルーラーシップ産駒のメールドグラースがコーフィールドカップ-G1を圧勝と、キングカメハメハ後継種牡馬の産駒が大活躍しているのを見れば、今更ながら今年死んだ2004年の日本ダービー馬の偉大さを思い知らされる。菊花賞-G1ではワールドプレミア、サトノルークスとディープインパクト直仔が1、2着を占めたのを見ても、死んだ種牡馬の仔は走るという言葉に真実が含まれている可能性は否定できない。そこで、キングカメハメハ直仔のユーキャンスマイルに据えた。下表の通りキングカメハメハ産駒のG1勝ち25のうちコースで最多は東京の8。天皇賞(秋)-G1では2015年と昨年の2勝を挙げており、特に2015年の勝ち馬ラブリーデイは母の父がダンスインザダークで本馬と同じパターン。ちなみに勝負服も同じだった。ユーキャンスマイルの母ムードインディゴは府中牝馬S-G3と忘れな草賞に勝ち、秋華賞-G1で2着となった活躍馬で、祖母のリープフォージョイGBはシャーポ産駒らしく1000mのオメノニ賞-G3を連覇したスプリンター。スプリンターではあったが、母として優駿牝馬2着のチャペルコンサートを送っている。ノウンファクト産駒の3代母ハンブルパイの孫にはニュージーランド2000ギニー-G1のキングズチャペルがいる。ソーブレスドGB産駒の4代母スケアスリーブレシドはキングジョージS-G3勝ち馬であり、その産駒にはモーリスドギース賞-G2のカレッジチャペルが出ているので、スプリンター寄りの傾向が強い牝系ながら、ときどき長距離走者も出すといったところで、その極端な例が母の父ダンスインザダークの影響が強いのかダイヤモンドS-G3も制した本馬ということにはなるだろう。ここはこの牝系の長短どちらにも転びうる柔軟性に期待しておきたい。父系曽祖父のミスタープロスペクターと相性の良いインリアリティが3代母の父系祖父の位置にあり、4代目にはトライマイベストIREとニジンスキーというカナダの大オーナーブリーダー、E.P.テイラー作品のノーザンダンサー直仔が並んでいる。これは近年の活躍馬の血統表でよく見るパターンだが、それだけE.P.テイラー・ブランドのノーザンダンサー直仔の血をひく馬の絶対数が多いということかもしれない。


キングカメハメハ産駒のG1勝利   太字は東京
馬名生年母の父レース距離斤量人気単勝
オッズ
馬体
アパパネ2007Salt Lake2010 桜花賞G1芝16005512.8480
2010 優駿牝馬G1芝24005512.1470
2010 秋華賞G1芝20005512.3490
2011 ヴィクトリアマイルG1芝16005524.1490
ローズキングダム2007サンデーサイレンスUSA2010 ジャパンCG1芝24005548.8462
ルーラーシップ2007トニービンIRE2012 QエリザベスU世CG1芝20005725.5498
ロードカナロア2008Storm Cat2012 スプリンターズSG1芝12005724.4494
2012 香港スプリントG1芝12005734.0494
2013 高松宮記念G1芝12005711.3498
2013 安田記念G1芝16005814.0500
2013 スプリンターズSG1芝12005711.3494
2013 香港スプリントG1芝12005711.8491
ベルシャザール2008サンデーサイレンスUSA2013 JCダートG1ダ18005738.4538
ホッコータルマエ2009Cherokee Run2013 東京大賞典G1ダ20005711.6501
2014 チャンピオンズCG1ダ18005725.9508
2014 東京大賞典G1ダ20005711.7501
レッツゴードンキ2012マーベラスサンデー2015 桜花賞G1芝160055510.2464
ドゥラメンテ2012サンデーサイレンスUSA2015 皐月賞G1芝20005734.6486
2015 東京優駿G1芝24005711.9484
ラブリーデイ2010ダンスインザダーク2015 宝塚記念G1芝220058614.2488
2015 天皇賞(秋)G1芝20005813.4486
リオンディーズ2013スペシャルウィーク2015 朝日杯FSG1芝16005525.9496
レイデオロ2014シンボリクリスエスUSA2017 東京優駿G1芝24005725.3480
2018 天皇賞(秋)G1芝20005823.1482
ミッキーロケット2013Pivotal2018 宝塚記念G1芝220058713.1476

 アーモンドアイとサートゥルナーリアの比較は血統的にはそれぞれの母であるフサイチパンドラとシーザリオの比較となる。タイトルの比較では優駿牝馬とアメリカンオークス-G1に勝ったシーザリオが勝り、産駒成績でもエピファネイア、リオンディーズと既に3頭のG1勝ち馬を送り出して圧倒している。○サートゥルナーリアの血統表には父系曽祖父のキングマンボ、祖母の父としてサドラーズウェルズが潜んでおり、これらエルコンドルパサー的な要素でスペシャルウィークを挟んでいる物語性がこの配合の見どころのひとつ。これは恐らく東京コースへの適性にもつながるだろう。ここにも4代目にストームバード、5代目にニジンスキーとテイラー・ブランドのノーザンダンサー直仔の名前が見える。

 ▲アーモンドアイの母フサイチパンドラは大レース勝ちこそカワカミプリンセスの降着で得たエリザベス女王杯のひとつだけだが、続くジャパンC-G1で同世代の2冠馬メイショウサムソンに先着して5着になったり札幌記念に勝ったり、秘めた力はタイトル以上のものがあった。3代母のセックスアピールは直仔にデューハーストS-G1のトライマイベストIRE、英2000ギニー-G1のエルグランセニョールを出すほか、ブリーダーズCマイル-G1に勝った曾孫のドームドライヴァーまで子孫は大繁栄しており、4代母ベストインショウの子孫にもデューハーストS-G1のザール、ベルモントS-G1のラグズトゥリッチズ、そしてカジノドライヴUSAなど多くの名馬名牝が出た。日本が誇る名牝は名血の塊でもあるのだ。

 ディープインパクト産駒の5頭のG1勝ち馬があまり人気がないのは不気味だが、ステイゴールド産駒ウインブライト。父は天皇賞(秋)に4回出走して(2)(2)(7)(7)着。2度の2着は1998年のオフサイドトラップから0秒2、1999年はスペシャルウィークからクビの僅差だった。母の父アドマイヤコジーンは1998年に朝日杯3歳Sに勝ち、その4年後に安田記念に勝った。父コジーンの血と母の父ノーザンテーストCANの血はこのレースでも物をいうはずで、父がステイゴールドなのでノーザンテーストCANは4×4の近交になる。牝系は1980年代の名門ゲラン〜ミスブゼンNZ系。大敗後でも軽視不可。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2019.10.27
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