2018ホープフルS


咲くのはフローラかフラワーか

 このレースは昨年からG1の格付けを得た。それ以前の3年間、2014年から2016年の上位4頭の年度末の公式レーティングの平均が基準に達したため昇格を認められたことになる。具体的には2歳戦なのでレーティング110。この数値を満たさないと主催者がいくらG1にしたくてもできないので、G1を作ったということではなく、G1になったという表現が正しい。2歳戦の場合、特にこのレースは過去1戦や2戦程度の成績をもとに評価を定めなければならないのが技術的に難しい点。3歳以上なら年に何度も走っていて直接間接に多くの馬と対戦することで力関係も明らかになり評価が自然と定まってくる面もあるが、2歳のわずかな戦績では検証の材料が少ない。そういった難しさを踏まえた上で、G1初年度の昨年を含めた4年間を見直すと、その後G1勝ちを果たしたのは東京優駿-G1と天皇賞(秋)-G1のレイデオロだけ。重賞勝ちはシャイニングレイ(4歳時CBC賞-G3)、ロードクエスト(3歳時京成杯オータムH-G3、5歳時スワンS-G2)、ブラックスピネル(4歳時東京新聞杯-G3)、ステイフーリッシュ(3歳時京都新聞杯-G2)。4年間の上位4頭でレイデオロのほかにクラシックで上位に入ったのは今年の皐月賞-G1で2着となったサンリヴァルだけ。2歳のレーティングは2歳戦でのパフォーマンスの評価であって、翌年以降の活躍を予見したり保証したりするものでは決してないが、それにしてもなかなかもくろみ通りにはいかないものですね。
  それに比べると阪神2000mで行われていたラジオNIKKEI杯2歳Sの時代は掘ればザクザクといった感じでのちのG1勝ち馬が顔を出したり埋もれたりしていた。一番の大物は2009年の勝ち馬ヴィクトワールピサだろう。3歳春には皐月賞-G1に勝ち、凱旋門賞-G1遠征を挟んで暮れに有馬記念-G1制覇。翌年にはドバイワールドC-G1に勝った。海外グレード未勝利に終わった今年、改めてこれ以上が望みうるかと思える成績で、種牡馬としても初年度産駒から桜花賞馬ジュエラー、2年目の産駒からもバファリアンクラシック-G3のウォリングステイツなど3頭の重賞勝ち馬を送り出した。3年目の現3歳世代からは今年のグレード勝ち馬が出ずに終わり、ネオユニヴァース系らしい気まぐれさが種牡馬成績にも現れているが、◎ブレイキングドーンのように現時点で重賞入着級まで上昇してきたものはその底力に期待していい。下表に示したように、今回の出走馬は筋の通った牝系出身馬が揃っていて、本馬はアグネスレディー〜アグネスフローラの直系。18年前のこのレースでレース史上に残る衝撃的な勝利を収めたアグネスタキオンは4代母アグネスフローラの息子で翌年の皐月賞に勝った。アグネスフローラにトニービンが配合された3代母アグネスセレーネーは1戦未勝利、そこにエルコンドルパサーUSAがかかった祖母アグネスパサーは3戦未勝利と数を使えなかったが、ホワイトマズルGB産駒の母アグネスサクラは3歳春に未勝利、特別と連勝し、5歳時にも1勝を挙げて通算32戦3勝で引退した。凱旋門賞馬トニービンIRE、同2着のエルコンドルパサーUSAとホワイトマズルGB、同7着ながらドバイワールドカップ-G1勝ちのヴィクトワールピサという配合はスケールが大きい。父の持つマキアヴェリアンと、エルコンドルパサーUSAの父キングマンボを経由してのミスタープロスペクター4×5も男性的な力強さに満ちている。


いずれ劣らぬ豪華な牝系
馬名牝系の強調点
アドマイヤジャスタ母アドマイヤテレサの産駒に豪G1コーフィールドC(2400m)勝ち馬アドマイヤラクティ(父ハーツクライ)
ヴァンドギャルドスキアFRは仏G3フィユドレール賞(2100m)勝ち馬。母の産駒に英2000ギニー馬ドントフォゲットミー
キングリスティア祖母エリモシューテングの産駒にエリザベス女王杯のエリモシック、孫にリディル、クラレント、レッドアリオン
コスモカレンドゥラ祖母ミルレーサーUSAの産駒に朝日杯3歳Sのフジキセキ、マーメイドSのシャイニンレーサー
サートゥルナーリアシーザリオは米G1アメリカンオークス(芝10F)、優駿牝馬勝ち馬。産駒にエピファネイア、リオンディーズ
ジャストアジゴロ祖母セトフローリアンIIAUSは豪GVエイドリアンノックスS(2000m)に勝ち豪G1AJCオークス2着
タニノドラマ3代母ファンシーダイナの娘にダイナフェアリー、玄孫にルヴァンスレーヴチュウワウィザード
ニシノデイジー3代母ニシノフラワーは阪神3歳牝馬S、桜花賞、スプリンターズSの勝ち馬。一族に米三冠馬セクレタリアト
ハクサンタイヨウ3代母カプリッチョーサIREは英G1チェヴァリーパークS(6F)、愛G1モイグレアスタッドS(6F)勝ち馬
ヒルノダカール母はフラワーC、3代母ダンシングファイタは中山牝馬S、4代母の全姉キシュウローレルは阪神3歳S勝ち馬
ブレイキングドーン4代母アグネスフローラは桜花賞に勝ち優駿牝馬2着、産駒にアグネスフライト、アグネスタキオン
マードレヴォイス3代母ダイナアクトレスは最優秀古牝馬2回、毎日王冠、京王杯SCなど重賞5勝。孫にスクリーンヒーロー
ミッキーブラックマラコスタムブラダARGは亜G1フィルベルトレレナ大賞典(3歳上牝、芝2200m)勝ち馬

 アグネスフローラの2年後の桜花賞馬がニシノフラワー。繁殖成績ではアグネスフローラにかなわなくでも、3歳の暮れに鮮やかな差し脚でスプリンターズSを制した才気は劣るものではない。○ニシノデイジーはその名牝の子孫としてようやく現れた大物。凱旋門賞関係を重ねたブレイキングドーンとは対照的に、こちらは同じ勝負服の皐月賞馬セイウンスカイ、アグネスタキオンと配合されて、仕上げがキングジョージ6世&クイーンエリザベスS-G1圧勝のハービンジャーGB。ハービンジャーGB産駒は昨秋立て続けにG1を3勝したことで目が覚めたか、今年は先週のブラストワンピースによる有馬記念-G1まで重賞10勝を挙げており、サイアーランキングも自己最高の6位まで上昇してきた(JBISサーチ、12月24日現在)。セイウンスカイ×ニシノフラワーのテイエムオペラドン的配合が10数年を経て成果をもたらしたことのほかに、ベーリングとマジェスティックライトというミスタープロスペクター系以外のネイティヴダンサーを父母から受けている点、そして、アグネスレディーの父リマンドGBのほかハービンジャーGBにもドナテロの血が2本流れる古風な隠し味が、デインヒルUSAとサンデーサイレンスUSAという現代的な柱を影で支えているようにも見える。

 優駿牝馬とアメリカンオークス-G1に勝ったシーザリオは日本の名牝のレベルを一段階引き上げた画期的な存在。産駒エピファネイアはラジオNIKKEI杯2歳S-G3に、リオンディーズは朝日杯フューチュリティS-G1に勝った。現時点でそれらを超える可能性を持つ▲サートゥルナーリアなら当然のように勝つのかもしれない。父のロードカナロアは種牡馬としてあるときはスーパースプリンター、あるときはキングカメハメハといくつもの顔を持つことになりそうだが、キングカメハメハは中山2000mのこの舞台で行われていた旧ホープフルS時代からベルシャザール、アドマイヤブルーなど好走例が多い。

 2歳産駒収得賞金が自己ベストの7億2818万円を更新しそうなディープインパクト。自己新まであと4500万円。唯一の出走馬△ヴァンドギャルドも怖い。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2018.12.29
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