2018東京優駿


衝撃は広く深く

 来週の土曜に行われる英ダービーはディープインパクト産駒の英2000ギニー馬サクソンウォリアーが主要ブックメーカー各社で1番人気に推されていて、4対6というから1.7倍弱の圧倒的な支持を得ていることになる。英ダービー-G1の行われるエプソムは特殊なコースなので、勝ったからといって名馬とは限らないが名馬なら勝つともいえる。ディープインパクト産駒に向くかどうかは分からないが、日本生まれのサラブレッドが本命としてダービー-G1に臨むというだけでも夢ふくらむ話だ。またフランスではグレフュール賞-G2に勝ったアイルランド産のディープインパクト産駒スタディオブマンが英ダービー-G1の翌日に行われるジョッキークラブ賞-G1(仏ダービー)に回れば3番人気となる見込みで、こちらも大きな期待がもてる。このように北半球規模の広さをもってディープインパクトの衝撃が伝わっているのは、例年30頭前後の2歳戦の勝ち馬が、この世代は50頭と突出していて、それだけ優れた能力を持った産駒がこれまでにない順調さで仕上がったためではあるだろう。そのような順調さの頂点に立っていた◎ダノンプレミアムが挫跖によって皐月賞-G1回避を余儀なくされたのは皮肉だが、急上昇型のディープインパクト産駒は長い目で見ればどこかでひと休みした方が良い結果につながる可能性はある。母のインディアナギャルGBは2歳時の7戦を含め5歳まで愛で46戦6勝のタフな牝馬でブルーウィンドS-G3・2着などを含め距離の長短を問わず、芝でもオールウェザーでもよく走った。近親に目立つ活躍馬はいないが、4代母アッシュローンが英国の大富豪ジョエル家の持ち馬で、その子孫には重賞での活躍馬が多くおり、5代母クリスタルパレスの産駒には1967年の英ダービー馬ロイヤルパレス、孫には英セントレジャー-G1のライトキャヴァルリー、英1000ギニー-G1のフェアリーフットステップスなどジョエル家のクラシック馬が名を連ねている。古い名門がデインヒルUSAやサンデーサイレンスUSAの新しい血の導入により覚醒した形で、3代母の父系祖父ハビタット、インティカーブの父系祖父ロベルト、父系曽祖父ヘイローとターントゥ系の3大系統を並べている点も面白い。朝日杯勝ち馬が日本ダービーに勝てばナリタブライアン以来25年ぶりの快挙となるが、それにふさわしい大器であるのは間違いないところ。サンデーサイレンスUSAの代表産駒で4戦無敗のフジキセキとアグネスタキオンがそれぞれ無事にダービーを迎えていればどうだったかという答えのない問いのひとつの答えにもなるかもしれない。


ディープインパクト2015年産の重賞入着馬
馬名母の父賞金
(万円)
主な成績
ケイアイノーテックケイアイガーベラSmarty Jones16997.8NHKマイルC-G1
ダノンプレミアムインディアナギャルIREIntikhab16651.3朝日杯FS-G1
カツジメリッサホワイトマズルGB8099.8ニュージーランドT-G2
マウレアバイザキャットUSAStorm Cat7961.6チューリップ賞-G2 2着
ワグネリアンミスアンコールキングカメハメハ7865.9東スポ杯2歳S-G3
ギベオンコンテスティッドUSAGhostzapper7569.6NHKマイルC-G1 2着
サトノワルキューレヒアトゥウィンBRZRoi Normand7299.9フローラS-G2
サクソンウォリアーメイビーIREGalileo7235.7英2000ギニー-G1
プリモシーンモシーンAUSFastnet Rock5387.4フェアリーS-G3
トーセンブレスブルーミンバーファルブラヴIRE4693.4フラワーC-G3 2着
カンタービレシャンロッサIREGalileo4526.9フラワーC-G3
September(IRE)ピーピングフォーンUSAデインヒルUSA4270.3フィリーズマイル-G1 2着
アンコールプリュオイスターチケットウイニングチケット3878.3フィリーズレビュー-G2 2着
スーパーフェザーオーサムフェザーUSAAwesome of Course3544.0青葉賞-G2 3着
グローリーヴェイズメジロツボネスウェプトオーヴァーボードUSA3426.6きさらぎ賞-G3 2着
レッドベルローズレッドファンタジアUSAUnbridled's Song2614.8フェアリーS-G3 3着
サトノソルタスアイランドファッションUSAPetionville2213.0共同通信杯-G3 2着
フィニフティココシュニッククロフネUSA2116.6クイーンC-G3 2着
アルーシャザズーUSATapit1848.3クイーンC-G3 3着
カーボナードディアマンティナUSASeeking the Gold1619.3サウジアラビアロイヤルC-G3 3着
ラテュロススウィートハースUSATouch Gold1517.6アルテミスS-G3 3着
Study of Man(IRE)セカンドハピネスUSAStorm Cat1398.7グレフュール賞-G2
太字は重賞勝ち馬、外国馬の賞金は本年年頭のレートで換算

 ○キタノコマンドールはジャパンC-G1・2着のデニムアンドルビーの全弟。伯母トゥザヴィクトリーはエリザベス女王杯に勝ちドバイワールドカップ-G1と優駿牝馬で2着となった。そのほか祖母の子孫にはシンザン記念のサイレントディール、クイーン賞のビーポジティブ、京都記念-G2のトゥザグローリー、弥生賞-G2のトゥザワールド、中山牝馬S-G3のトーセンビクトリーなど多くの活躍馬が出る活気に満ちたファミリー。3代母ドリームディールはモンマスオークス-G1勝ち馬で、その産駒クリアマンデイトはスピンスターS-G1など米G1・3勝。4代母ライクリーイクスチェンジはデラウェアH-G1に勝ち、産駒クレムフレシュは1985年のベルモントS-G1に勝った。母の父としてのキングカメハメハは昨年のモズカッチャンによるエリザベス女王杯-G1が最初のG1勝ちで、これからこの分野の開拓も本格的になるはずで、既にデニムアンドルビーがG1の舞台で結果を残しているこの配合パターンもひとつの定番となっていくだろう。

 同じディープインパクト×キングカメハメハの▲ワグネリアンは祖母が精密高速ピッチ走法で高いスプリント能力を発揮したブロードアピールUSA。アメリカ血脈の塊としてのアイデンティティをスピードとして発揮した個性的名牝だが、孫の代になると万葉S3着、ステイヤーズS-G2・4着のプロレタリアトなどが出ていて、先鋭的なスピードがいかに保存困難かということが分かるが、逆にいえばそのように活躍の場を広げているということでもある。ワグネリアンの5代アウトとなる配合は全体としてはキタノコマンドールと随分印象が違うものに仕上がっており、ここで急上昇を見せる可能性も、ずっとあとになって成長する可能性もどちらもあるとは思う。いずれにせよ父、母、母の父、祖母がすべて金子さんの勝負服であって、どこかで大きな恩返しがあるのではないだろうか。

 東京に強いトニービンIREの血はハーツクライにもオウケンブルースリにも潜んでいるが、今回はエアグルーヴ経由でその血を持つルーラーシップの産駒△サンリヴァルに期待したい。ルーラーシップは香港のクイーンエリザベス2世カップ-G1に勝ち、日本のG1では宝塚記念-G1で2着、天皇賞(秋)-G1、ジャパンC-G1、有馬記念-G1でいずれも3着だった。母のアンフィルージュは中央芝1200mで3勝の条件馬。しかし、祖父母の代に日本ダービー馬キングカメハメハ、優駿牝馬のエアグルーヴ、皐月賞馬アグネスタキオン、優駿牝馬ウメノファイバーと4頭すべてがクラシック馬。うち3頭が東京2400mで栄冠を得た。小岩井農場が輸入した1900年生まれの牝祖フラストレートGBの子孫には1940年の勝ち馬イエリュウ、1948年ミハルオー、1950年クモノハナ、1955年オートキツと4頭の日本ダービー馬が出ている。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2018.5.27
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