2017宝塚記念


ノーザンテースト血脈の伏流

 1998年にステイゴールドが2着となったのを契機として、このレースはステイゴールドとその伯父にあたるサッカーボーイにゆかりの馬が活躍するようになった。2002年と2003年に2着となったツルマルボーイはサッカーボーイの娘の仔であり、2003年の勝ち馬ヒシミラクルはサッカーボーイ直仔、2006年に3着となったバランスオブゲームは祖母ベルベットサッシュがサッカーボーイの全妹だった。そして下表に示した時代に入ると、ステイゴールド直仔は2009年から2014年までの6年で5勝という独占的な地位を築いた。オルフェーヴルやゴールドシップといったスーパースターが引退したあとのステイゴールド産駒は、障害でオジュウチョウサンがおよそ2年にわたって君臨し、それが骨折休養に入るとアドマイヤリードがヴィクトリアマイル-G1を制した。そのようにここ2年はステイゴールド産駒の目指す方向が変わって、その穴をディープインパクトとキングカメハメハが埋めるという傾向にはなってきたのかもしれない。
 ここでいったん時間を遡ると1993年2着のイクノディクタスFRはサッカーボーイと同じディクタスFR×ノーザンテーストCANの組み合わせだった。サッカーボーイとステイゴールドの同族による活躍が注目される遥か前に、サッカーボーイ、イクノディクタス、ムービースター、ディクターランド、ディクターガール、クールハートといったディクタスFR×ノーザンテーストCAN、いわゆるノーザンディクタス配合の大成功があった。それはまた母の父としてのノーザンテーストCANのニックスとしてのパターン確立の最初の例でもあった。それを踏まえると、サッカーボーイ≒ステイゴールドから1代奥にいるノーザンテーストCANが実は黒幕的な存在なのではないかという見方ができなくもない。不思議なことにノーザンテーストCAN直仔ではグローバルダイナが1984年に3着、直系ではアンバーシャダイ産駒のカミノクレッセが1992年2着と、馬券圏内に入った例は一世を風靡したリーディングサイアーとは思えないほど乏しいのに、血統表の奥に下がるにしたがって逆に存在感が増してきているようにも見える。サッカーボーイ関連以外のノーザンテーストCANの血を持つ者は、1998年3着エアグルーヴ、2000年3着のジョービッグバン、2006年2着のナリタセンチュリー(いずれも母の父)らがおり、過去10年の1〜3着馬30頭の内では、インティライミ、ドリームジャーニー、サクラメガワンダー、ナカヤマフェスタ、アーネストリー(2回)、オルフェーヴル、ルーラーシップ、ゴールドシップ(2回)、ラブリーデイ、ショウナンパンドラ、ドゥラメンテ、キタサンブラックと延べ14頭にのぼる。これはかなりの高率といえるのではないだろうか。
 今回の出走馬でノーザンテーストCANの血を持つのは以下の4頭。キタサンブラック(母の父の母の父)、ゴールドアクター(父の祖母の父)、ヒットザターゲット(3代母の父)、レインボーライン(父の祖母の父と祖母の父の祖父で4×5)。とても手ごろな頭数といえるのではないだろうか。にはレインボーライン。1)実績あるステイゴールドの3年ぶりの覇権奪還があるのではないか。2)フレンチデピュティUSAは直仔エイシンデピュティが勝ち、娘の仔ショウナンパンドラが3着となった。3)祖母の父がレインボーアンバーなら道悪適性はより高まる。4)半姉アニメイトバイオはローズSでアパパネを破ったことのある大物喰い。以上のような理由から大駆けの期待を寄せるなら本馬がふさわしい。3代母の産駒セキテイリュウオーが天皇賞(秋)で2度2着となったときはそれぞれ6番人気、8番人気だった。

 キタサンブラックの強さと成長力を母の父サクラバクシンオーの母の父ノーザンテーストCANだけに求めるのは無理があるが、父ブラックタイドが全弟ディープインパクトと違う部分を補強して良い方に向ける役割を果たしているのは確かだろう。この春はサクラバクシンオーの娘の産駒ウォリングステイツがドイツでG3バヴァーリアンクラシック(2000m)に勝っており、テスコボーイGBとノーザンテーストCANを組み合わせたその血の意味が変化の過程にあるということもあるのかもしれない。

 ▲ゴールドアクターは父がジャパンC勝ち馬で、その父グラスワンダーUSAは有馬記念2勝、宝塚記念1勝。グラスワンダーUSAの名は下表にも3回登場しているように、グランプリ血統ということができるし、本馬が一昨年の有馬記念に勝ったのもその裏づけではあるだろう。ステイゴールド時代よりも前、グラスワンダーUSAやマヤノトップガンが活躍したロベルト時代が戻ってくるかもしれない。

 5度目の挑戦となるヒットザターゲットは母の父タマモクロスが1988年の勝ち馬で、父キングカメハメハの産駒はラブリーデイで1勝、ルーラーシップとドゥラメンテで2着2回。自身2014年には4着に入っているので、チャンスがないわけではない。

 とはいえ、ノーザンテーストCAN尽くしというわけにもいかないだろう。今回唯一トニービンIREの血を受けたシュヴァルグランに大勢逆転の可能性もある。


過去10年の1〜3着馬の血統
年月日
馬場

馬名性齢
母の父祖母の父
2007
6.24
1アドマイヤムーン牡43エンドスウィープUSAサンデーサイレンスUSAKris
2メイショウサムソン牡42オペラハウスGBダンシングブレーヴUSAサンプリンスIRE
3ポップロック牡64エリシオFRサンデーサイレンスUSASecretariat
2008
6.29
1エイシンデピュティ牡65フレンチデピュティUSAWoodmanGreen Dancer
2メイショウサムソン牡51オペラハウスGBダンシングブレーヴUSAサンプリンスIRE
3インティライミ牡611スペシャルウィークノーザンテーストCANガーサントFR
2009
6.28
1ドリームジャーニー牡52ステイゴールドメジロマックイーンノーザンテーストCAN
2サクラメガワンダー牡63グラスワンダーUSAサンデーサイレンスUSAノーザンテーストCAN
3ディープスカイ牡41アグネスタキオンChief's CrownKey to the Mint
2010
6.27
1ナカヤマフェスタ牡48ステイゴールドタイトスポットUSAデインヒルUSA
2ブエナビスタ牝41スペシャルウィークCaerleonLord Gayle
3アーネストリー牡53グラスワンダーUSAトニービンIREノーザンテーストCAN
2011
6.26
1アーネストリー牡66グラスワンダーUSAトニービンIREノーザンテーストCAN
2ブエナビスタ牝51スペシャルウィークCaerleonLord Gayle
3エイシンフラッシュ牡43キングズベストUSAプラティニGERSure Blade
2012
6.24
1オルフェーヴル牡41ステイゴールドメジロマックイーンノーザンテーストCAN
2ルーラーシップ牡52キングカメハメハトニービンIREノーザンテーストCAN
3ショウナンマイティ牡46マンハッタンカフェStorm CatAlleged
2013
6.23
1ゴールドシップ牡42ステイゴールドメジロマックイーンプルラリズムUSA
2ダノンバラード牡55ディープインパクトUnbridledHalo
3ジェンティルドンナ牝41ディープインパクトBertoliniリファーズスペシャルUSA
2014
6.29
1ゴールドシップ牡51ステイゴールドメジロマックイーンプルラリズムUSA
2カレンミロティックセ69ハーツクライA.P. IndyCaerleon
3ヴィルシーナ牝58ディープインパクトMachiavellianNureyev
2015
6.28
1ラブリーデイ牡56キングカメハメハダンスインザダークトニービンIRE
2デニムアンドルビー牝510ディープインパクトキングカメハメハNureyev
3ショウナンパンドラ牝411ディープインパクトフレンチデピュティUSAディクタスFR
2016
6.26
1マリアライト牝58ディープインパクトエルコンドルパサーUSARiverman
2ドゥラメンテ牡41キングカメハメハサンデーサイレンスUSAトニービンIRE
3キタサンブラック牡42ブラックタイドサクラバクシンオージャッジアンジェルーチUSA

競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2017.6.25
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