2017安田記念


ストームキャットは目覚めるか

 このレースに勝ったサンデーサイレンスUSA直仔はダイワメジャーのみで、直系の孫ではダンスインザダーク産駒のツルマルボーイ、ディープインパクト産駒のリアルインパクト、ハーツクライ産駒のジャスタウェイの3頭。マイルチャンピオンシップはサンデーサイレンスUSA直仔が5連覇を含む6勝、ディープインパクト産駒も近4年で3勝を挙げているのとは対照的な成績となっている。これはサンデーサイレンスUSA→ディープインパクトと受け継がれてきた鋭い切れ味、軽い瞬発力が武器となるかどうかの違いだろう。今回のディープインパクト産駒は5頭出し。これは昨年のこのレースと同数で、最近の芝G1ではありふれた多頭数出走となる。今年のディープインパクト産駒は1頭出しのドバイターフ-G1をヴィブロスが勝ち、4頭出しの皐月賞-G1はそのうちもっとも人気のないアルアインが勝った。とすると、今年のG1でのディープインパクト産駒との付き合い方は、いかに裏をかかれないようにするかということに尽きる。ここで思い出したいのが、ディープインパクト×ストームキャットの成功パターン。これはエイシンヒカリの香港カップ-G1とイスパーン賞-G1、リアルスティールのドバイターフ-G1と一昨年から昨年にかけて海外で大きな実績を築いたが、国内G1ではラキシスの2014年エリザベス女王杯-G1以来勝っていない。ディープインパクト×ストームキャットに限らず、ストームキャット牝馬の仔がそのラキシス以降勝っていない。大種牡馬ストームキャットは2008年5月に死んでいて、実質的なラストクロップは2007年種付けの2008年生まれ世代。日本にはこの世代の繁殖牝馬が8頭登録されているが、世界的に貴重な血だけに新規の輸入もそうはないだろうし、先細りは避けられないところだが、そこはさすが大種牡馬。この春の英2000ギニー-G1と愛2000ギニー-G1を連勝したチャーチルはストームキャット牝馬にガリレオの配合。ここぞというところで存在感を示してみせた。ディープインパクトといい、ストームキャットといい、今回の安田記念あたりが人気の盲点から飛び出すにはいいタイミングではないだろうか。サトノアラジンはラキシスの全弟。昨年のこのレースはスローペースをよく追い込んで2着モーリスからはハナ+クビの4着。モーリスがいないなら躍進があっていい。


成功を続ける母の父としてのストームキャット
馬名生年レース(距離)
ファレノプシス1994ブライアンズタイムUSAエリザベス女王杯(芝2200)、桜花賞(芝1600)、秋華賞(芝2000)、ローズS(芝2000)
ブラックタキシード1995サンデーサイレンスUSAセントライ記念(芝2200)
グラスワールド1996Rahyダービー卿CT(芝1600)
ベルグチケット1996ウイニングチケットフェアリーS(芝1200)
シンコールビー2000サクラローレルフローラS(芝2000)
ハリーズコメット2001スターオブコジーンUSA北海道スプリントC(ダ1000)
メイショウボーラー2001タイキシャトルUSAフェブラリーS(ダ1600)、デイリー杯2歳S(芝1600)、根岸S(ダ1400)、ガーネットS(ダ1200)、小倉2歳S(芝1200)
オースミダイドウ2004スペシャルウィークデイリー杯2歳S(芝1600)
レッドスパーダ2006タイキシャトルUSA京王スプリングCG2(芝1400)、東京新聞杯G3(芝1600)、関屋記念G3(芝1600)
タガノエリザベート2007スペシャルウィークファンタジーS(芝1400)
メテオロロジスト2007Golden Missile佐賀記念(ダ2000)
ショウナンマイティ2008マンハッタンカフェ大阪杯G2(芝2000)
ロードカナロア2008キングカメハメハ安田記念G1(芝1600)、香港スプリントG1(芝1200)×2、スプリンターズSG1(芝1200)×2、高松宮記念G1(芝1200)、阪急杯G3(芝1400)、シルクロードSG3(芝1200)、京阪杯G3(芝1200)
アユサン2010ディープインパクト桜花賞G1(芝1600)
キズナ2010ディープインパクト東京優駿G1(芝2400)、大阪杯G2(芝2000)、ニエル賞G2(芝2400)、京都新聞杯G2(芝2200)、毎日杯G3(芝1800)
ダノンレジェンド2010Macho UnoJBCスプリント(ダ1400)、東京盃(ダ1200)、カペラSG3(ダ1200)、黒船賞(ダ1400)×2、東京スプリント(ダ1200)、クラスターC(ダ1200)×2、北海道スプリントC(ダ1200)
ヒラボクディープ2010ディープインパクト青葉賞G2(芝2400)
ラキシス2010ディープインパクトエリザベス女王杯G1(芝2200)、大阪杯G2(芝2000)
エイシンヒカリ2011ディープインパクト香港カップG1(芝2000)、イスパーン賞G1(芝1800)、毎日王冠G2(芝1800)、エプソムCG3(芝1800)
サトノアラジン2011ディープインパクトスワンSG2(芝1400)、京王スプリングCG2(芝1400)
キャットコイン2012ステイゴールドクイーンCG3(芝1600)
リアルスティール2012ディープインパクトドバイターフG1(芝1800)、共同通信杯G3(芝1800)

 香港マイル-G1でサトノアラジンに完勝しているのがビューティーオンリー。今回の出走馬で血統表中にサンデーサイレンスUSAの名がないのは香港の2頭だけ。サンデーサイレンスUSAに厳しい安田記念という過去から続く縦糸。優駿牝馬-G1のソウルスターリング、東京優駿-G1のレイデオロともにサンデーサイレンスUSAを持たなかったという今年の横糸。これらが今回重なるとするなら、利はこちらにある。父のホーリーローマンエンペラーはデインヒルUSA直仔で2歳時にフィーニクスS-G1とジャンリュックラガルデール賞-G1に勝った。産駒には英1000ギニー-G1のホームカミングクイーンもいるが、なぜか香港と相性が良く、香港カップ-G1のデザインズオンローム、名スプリンター・リッチタペストリー、そして本馬と、短距離から中距離まで名馬を送り出している。香港からの遠征馬のこのレースの成績は(2.2.2.29)と決して良くはないのだが、タイキシャトルUSAの2着となって強い印象を残したオリエンタルエクスプレスIREはダンチヒ系グリーンデザート産駒、2000年の勝ち馬フェアリーキングプローンAUSはデインヒルUSA産駒、2006年の勝ち馬ブリッシュラックはロイヤルアカデミー2USA産駒と、過去の香港馬の成功事例をかき集めて構成した血統のようでもある。

 ▲ブラックスピネルは2008年、2009年にこのレースを連覇したウオッカと同じタニノギムレット産駒。ウオッカが初年度産駒だったのに対してこちらは10年目の産駒。東京新聞杯勝-G3ちも父にとっては2014年ハギノハイブリッドの京都新聞杯-G2以来のことだったが、ブライアンズタイムUSA系だけに長い時間を経過しての復活もまたありそうだ。母の父アグネスデジタルUSAは長い体調不良から復活して2003年にこのレースを制している。ロベルト系×ミスタープロスペクター系の今や古典的ともいえるニックスで、祖母の父としてスパイス的にサンデーサイレンスUSAの血が入っている。ジャパンCダートのアロンダイトやジャパンダートダービーのクリソライト、宝塚記念-G1のマリアライトが出る牝系だけに、G1初挑戦でも対応できる底力がある。

 エアスピネルは母が秋華賞馬エアメサイアで、祖母エアデジャヴーは優駿牝馬2着、桜花賞3着。3代母の産駒に菊花賞馬エアシャカール。本気さえ出せばすぐG1を勝てるファミリー。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2017.6.4
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