2017スプリンターズS


信ずべきは母の力

 母の父としてのサンデーサイレンスUSAが初めてブルードメアサイアーランキングの首位に立ったのが2007年。以来昨年まで2位にダブルスコアの大差でその座を保ち、今年も収得賞金は45億1509万円に達し、2位フレンチデピュティUSAの19億205万円を大きく引き離している(JBISサーチ、9月26日現在)。出走頭数が1054頭でベストテンの平均の2.25倍、収得賞金も同2.53倍と質量ともに他を圧倒しているだけに、11年連続の王座は間違いのないところ。サンデーサイレンスUSAのラストクロップは2003年生まれなので、最も若い繁殖牝馬も現在14歳に達していて、いつかは王権に終わりがくるとしても、当分は強い影響力を保ち続けることになる。そんな大ブルードメアサイアーをもってしても攻略が遅れたのが父馬としての実績と同様スプリント部門で、昨年のレッドファルクスによるこのレースが初めての1200mのG1制覇だった。父としてのサンデーサイレンスUSAは2000年の高松宮記念でディヴァインライトが2着、2002年の高松宮記念でスティンガーが3着と惜しいレースがあったが、最初に勝ったのはサンデーサイレンスUSAの死の1カ月後のスプリンターズS、ビリーヴだった。その後は同じビリーヴによる翌年の高松宮記念、デュランダルの2003年スプリンターズS、そして2005年から2007年までの高松宮記念はアドマイヤマックス、オレハマッテルゼ、スズカフェニックスによって3連覇を達成した。母の父としても、突破口さえできれば、あとは一気呵成にこの部門を平らげる可能性は十分にありそうだ。

 ◎フィドゥーシアUSAはサンデーサイレンスUSA産駒のスプリント部門最大の功労者ビリーヴの娘。5歳秋にようやく母と同じ舞台に進んできた。母も2歳11月に新馬勝ちを果たしたものの、後の実績から考えると意外に出世に時間を要していて、準オープン勝ちは14戦目の4歳4月、重賞初制覇はその年の秋のセントウルSだった。そしてスプリンターズSを制し、翌2003年の高松宮記念にも勝つことになる。夏の函館スプリントまで10勝すべてを1200mで挙げて、同年のスプリンターズSのハナ差2着を最後に引退すると、すぐにアメリカにわたって繁殖入りした。初仔ファリダットUSAはマーガレットSなど5勝を挙げ、安田記念-G1・3着、阪神C-G2・2着と活躍、本馬が5番仔で、6番仔エリシェヴァUSAは6月の函館で1200m1:07.5のレコード勝ち、7番仔ジャンダルムUSAはこの阪神開催初日に新馬勝ちを収めた。これらきょうだいのうち、牝馬は本馬とエリシェヴァUSAの2頭。快足の系譜を後代に伝える役割は重いが、サンデーサイレンスUSA産駒として頂点を極めた牝馬がよりスケールの大きな配合を実現するためアメリカに渡った以上、競走生活でもそれに見合った成果が望まれるのは当然で、同様にアメリカに渡った同じオーナーのヘヴンリーロマンスは既にアウォーディーUSA、アムールブリエUSA、ラニUSAといった重賞勝ち馬を送り出している。本馬の父はプリークネスS-G1などで牡馬を蹴散らしたレイチェルアレクサンドラ、アラバマS-G1などG19勝のソングバードなどの名牝を送り出すフィリーサイアー。サドラーズウェルズの孫なので、サンデーサイレンスUSAの娘との配合は安田記念-G1のロゴタイプに似る。3代母の産駒にはBCディスタフ-G1などG1・11勝の歴史的名牝レディーズシークレットがおり、父系からも牝系からも大物が出るなら牝馬という傾向がなくはないように思える。


母の父としてのサンデーサイレンスUSAの実績
馬名生年主な勝ち鞍(GT級のみ)
ヴァーミリアン2002エルコンドルパサーUSA2010川崎記念、2009JBCクラシック、2009帝王賞、2008JBCクラシック、
2008フェブラリーS、2007東京大賞典、2007JCダート、2007JBCクラシッ
ク、2007川崎記念
シャドウゲイト2002ホワイトマズルGB2007シンガポール国際C
ラインクラフト2002エンドスウィープUSA2005NHKマイルC、2005桜花賞
アドマイヤムーン2003エンドスウィープUSA2007ジャパンC、2007ドバイデューティフリー、2007宝塚記念
ソングオブウインド2003エルコンドルパサーUSA2006菊花賞
フサイチリシャール2003クロフネUSA2005朝日杯フューチュリティS
アサクサキングス2004ホワイトマズルGB2007菊花賞
ジャガーメイル2004ジャングルポケット2010天皇賞(春)
スクリーンヒーロー2004グラスワンダーUSA2008ジャパンC
Tale of Ekati2005Tale of the Cat2008シガーマイル、2008ウッドメモリアルS
サクセスブロッケン2005シンボリクリスエスUSA2009フェブラリーS、2008JDダービー
トールポピー2005ジャングルポケット2008優駿牝馬、2007阪神ジュベナイルF
レジネッタ2005フレンチデピュティUSA2008桜花賞
More Joyous2006More Than Ready2012クイーンエリザベスS、2012ドンカスターマイル、2012クイーンオブ
ザターフS、2011クイーンオブザターフS、2011フューチュリティS、2010
トゥーラックH、2010ジョージメインS、2009フライトS
セイウンワンダー2006グラスワンダーUSA2008朝日杯フューチュリティS
ビッグウィーク2007バゴFR2010菊花賞
ローズキングダム2007キングカメハメハ2010ジャパンC、2009朝日杯FS
アヴェンチュラ2008ジャングルポケット2011秋華賞
グランプリボス2008サクラバクシンオー2011NHKマイルC、2010朝日杯FS
ベルシャザール2008キングカメハメハ2013ジャパンCダート
ホエールキャプチャ2008クロフネUSA2012ヴィクトリアマイル
アルフレード2009シンボリクリスエスUSA2011朝日杯フューチュリティS
アウォーディーUSA2010ジャングルポケット2016JBCクラシック
ロゴタイプ2010ローエングリン2016安田記念、2013皐月賞、2012朝日杯FS
Karakontie2011Bernstein2014BCマイル、2014仏2000ギニー、2013ジャンリュックラガルデール賞
レッドファルクス2011スウェプトオーヴァーボードUSA2016スプリンターズS
ドゥラメンテ2012キングカメハメハ2015東京優駿、2015皐月賞

 ○レッドファルクスはもともと芝ダート兼用だったようにエンドスウィープUSA系らしい融通が利くところが長所。安田記念-G1での惜しい3着によって懐の深さと強さが本物であることを印象付けた。母ベルモットは前述のスティンガーのひとつ下の全妹だから、サンデーサイレンスUSAのスプリント開拓史の一章を占める存在にきわめて近いことになる。早熟さが長所のひとつである父スウェプトオーヴァーボードUSAだが、パドトロワのように6歳で重賞勝ちをしている者もいて、加齢による能力減衰の割合は意外に小さいのだろう。

 ▲ダンスディレクターはレッドファルクスと同じミスタープロスペクター×サンデーサイレンスUSAのパターン。祖母スカラシップから3代続く太田家の所有馬で、スカラシップの兄には同じ勝負服の日本ダービー馬ウイニングチケット、菊花賞2着のロイヤルタッチがいる。藤原牧場が誇る名門スターロッチ系にテスコボーイGB、マルゼンスキー、トニービンIRE、サンデーサイレンスUSAと配合された母マザーリーフは日本名種牡馬列伝ともいえる良血の塊。メトロポリタンHなど米G1・3勝の父アルデバランIIUSAは今や貴重なミスタープロスペクター直仔の現役種牡馬。日米のレガシー的名血の化学反応にはまだ続きがあると見たい。

 レッツゴードンキも大まかにいえば同じミスタープロスペクター×サンデーサイレンスUSA。大まかにいえばその力と切れの融合が生かされやすいのが1200mであるのかもしれない。4代目にヌレエフとナンバーのスペシャル産駒兄妹が並ぶ点が配合上の美点。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2017.10.1
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