2017桜花賞


SはサクラのS

 1869年に創設されたシュレンダーハン牧場はドイツで最古の民間牧場で、その生産馬のうち最良の牝馬とされるシュヴァルツゴルトは第二次世界大戦中の1940年、ドイツがフランスに侵攻したそのころにクラシックを戦い、独2000ギニーで2着となったあと、独1000ギニーを6馬身差、ディアナ賞(独オークス)を大差勝ち、続く独ダービーも10馬身差で楽勝した。わずか2頭の産駒を残して13歳で死んでしまうが、そのうちシュヴァルツブラウロートの子孫は大活躍して「シュレンダーハンのSライン」と呼ばれるこの牝系を発展させた。下表は牝系図をG1級とドイツのクラシック勝ち馬だけが残るように削り込んだものだが、それでもこれだけの大きさになってしまう。1985年の英ダービー馬スリップアンカーが出現したのを皮切りに、その活躍の場はドイツから西ヨーロッパ、北米、そして日本へと拡大した。
 この牝系の日本での代表的な活躍馬ブエナビスタと同い年のフランスの名牝にスタセリタFRがいて、こちらは2歳10月のデビューから3歳春のサンタラリ賞-G1、ディアヌ賞-G1(仏オークス)、ヴェルメイユ賞-G1の3つのG1を含む6連勝を記録していた。4、5歳時に仏米で3つのG1勝ちを加えたスタセリタが2番仔として生んだのがソウルスターリングで、怪物フランケルの世界最初のG1勝ち産駒となった。好位につけてラチ沿いからでも外からでも鮮やかに抜け出して勝つあたりは母の主戦でもあったルメール騎手のこの血統への信頼に支えられている面も大きいだろう。フランケルは2010年にデビューして2歳時はロイヤルロッジS-G2、デューハーストS-G1まで4戦4勝。3歳時はグリーナムS-G3のあと英2000ギニー-G1、セントジェームズパレスS-G1、サセックスS-G1、クイーンエリザベスS-G1と4つのマイルG1を含め5戦5勝。4歳時にはロッキンジS-G1、クイーンアンS-G1、サセックスS-G1とマイルG1を3連勝したあと、10F路線に転じて英インターナショナルS-G1、英チャンピオンS-G1と連勝。生涯14戦14勝、2着につけた着差の合計は76馬身1/4にもなった。ソウルスターリングは4戦で5馬身と少々だから父ほど破天荒なことはしないようだが、産駒のクラシック第一号の称号も手に入れそうだ。しかし、フランケルのスケールの大きさは分かっても、初年度産駒だけに未知の部分が残るのも確かなのでに。こと桜花賞に関しての実績ではディープインパクトに一日の長がある。今年、シュヴァルツゴルト系からもう1頭出走するサロニカは母が2012年のディアナ賞-G1(独オークス)を直線内から一瞬で抜け出して勝ったサロミナGER。祖母ザルデンティゲリンも下表では細字だが、バーデンヴュルテンベルクトロフィー-G3に勝ち、オイロパ賞-G1 2着、ディアナ賞-G1 3着となった活躍馬。3代母の孫ゼリエンホルデは昨年のディアナ賞-G1勝ち馬と、この分枝は近年急速に勢いを増しても来ている。母の父ロミタスはバーデン大賞-G1など独G1・3勝の名馬で、祖母の父タイガーヒルIREもバーデン大賞-G1など独G13勝、エルコンドルパサーUSAとの対戦やジャパンC-G1への来日(1999年10着)でもおなじみの名馬。ドイツ血統にデインヒルUSAやニジンスキーを混ぜ込んだ形のこの母なら、コントラストの大きなディープインパクトとの配合で爆発的な力を得る可能性あり。 ※サロニカは取り消しました


ドイツの名門シュレンダーハン牧場のSライン
SCHWARZGOLD シュヴァルツゴルト(牝、1937−1950、鹿毛、父Alchimist)12戦9勝、独
   ダービー、ディアナ賞(独オークス)
  Schwarzblaurot(1947、黒鹿、Magnat)
   Scheherazade(1952、黒鹿、Ticino)
   |SCHONBRUN(1966、鹿、Pantheon)ディアナ賞、ドーヴィル大賞
   | Seneca(1973、鹿、Chaparral)
   | |SAGACE(牡、1980、鹿、Luthier)凱旋門賞-G1、ガネー賞-G1、イスパーン賞-G1
   | |スターリフトGB STAR LIFT(牡、1984、栗、Mill Reef)ロイヤルオーク賞-G1
   | Southern Seas(1975、鹿、ジムフレンチUSA)
   |  Sea Symphony(1980、鹿、Faraway Son)
   |  |Suivez(1990、鹿、Fioravanti)
   |  | Soignee(2002、鹿、Dashing Blade)
   |  |  スタセリタFR STACELITA(2006、青鹿、Monsun)ディアヌ賞-G1、ヴェルメ
   |  |    イユ賞-G1、サンタラリ賞-G1、ジャンロマネ賞-G1、ビヴァリーDS-G1、フ
   |  |    ラワーボウル招待S-G1
   |  |   ソウルスターリング(2014、青鹿、Frankel)阪神ジュベナイルフィリーズ-G1
   |  Sophonisbe(1981、鹿、ウォローIRE)
   |  |ザグレブUSA ZAGREB(牡、1993、黒鹿、Theatrical)愛ダービー-G1
   |  STEINLEN(牡、1983、鹿、Habitat)BCマイル-G1、アーリントンミリオン-G1、ハリ
   |   ウッドターフH-G1、バーナードバルークH-G1
   Suleika(1954、黒鹿、Ticino)
    SABERA(1961、鹿、Fast Fox)ディアナ賞
    |スタイヴァザントGER STUYVESANT(牡、1973、黒鹿、Priamos)独ダービー-G1、
    |  ミラノ大賞-G1、独セントレジャー-G2
    Senitza(1963、鹿、Waldcanter)
    |Salesiana(1973、鹿、Alpenkonig)
    | Saite(1978、鹿、Marduk)
    |  Salde(1992、鹿、Alkalde)
    |   Saldenehre(2000、黒鹿、Highest Honor)
    |   |SERIENHOLDE(2013、鹿、Soldier Hollow)ディアナ賞-G1
    |   Saldentigerin(2001、鹿、タイガーヒルIRE)
    |    サロミナGER SALOMINA(2009、鹿、Lomitas)ディアナ賞-G1
    |     サロニカ(2014、黒鹿、ディープインパクト)
    Sayonara(1965、鹿、Birkhahn)
    |SWAZI(牡、1973 Herero)ヘンケルレネン(独2000ギニー)-G2
    |SLIP ANCHOR(牡、1982、鹿、Shirley Heights)ダービー-G1
    Saxifraga(1966、鹿、Alizier)
    |SLENDERELLA(1981、鹿毛、Alpenkonig)ディアナ賞-G2、シュヴァルツゴルトレネン
    | (独1000ギニー)-G3
    |Scilla(1983、鹿、Alpenkonig)
    | SOLON(牡、1992 Local Suitor)オイロパ賞-G1
    Santa Luciana(1973、黒鹿、Luciano)
     アグサンIRE Aghsan(1985、青、Lord Gayle)
     |ビワハイジ(1993、青鹿、Caerleon)阪神3歳牝馬S
     | ブエナビスタ(2006、黒鹿、スペシャルウィーク)ジャパンC-G1、天皇賞(秋)-G1、
     |  桜花賞、優駿牝馬、ヴィクトリアマイル-G1、阪神JF
     | ジョワドヴィーヴル(2009、鹿、ディープインパクト)阪神JF-G1
     サトルチェンジIRE Subtle Change(1988、黒鹿、Law Society)
      マンハッタンカフェ(牡、1998、青鹿、サンデーサイレンスUSA)有馬記念、天皇賞
       (春)、菊花賞

 ディープインパクト牝系の活躍も今年のクラシックの特色で、桜花賞-G1にはウインドインハーヘアIREの曾孫アドマイヤミヤビと同じバーグクレア系アロンザモナが出走し、皐月賞にもウインドインハーヘアIREの曾孫レイデオロとプラチナヴォイスが出走を予定している。このようなファミリーの勢いは侮るべからずで、父ハーツクライ、母の父クロフネUSAの▲アドマイヤミヤビはサンデーサイレンスUSA+フレンチデピュティUSA+ウインドインハーヘアIREとなるから、マカヒキやショウナンパンドラといったディープインパクトの一流馬の再現といえる面もある。

 ジューヌエコールとディアドラも祖母ソニンクGBが共通。3代母ソニックレディは愛1000ギニー-G1のほか牡馬相手のサセックスS-G1やムーランドロンシャン賞-G1などG1・3勝の名牝。祖母の孫に極悪馬場の東京優駿に勝ったロジユニヴァースがいるから雨の降り方次第では大抜擢も可能。2頭の比較では牝馬がよく走るクロフネUSA産駒のジューヌエコール上位。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2017.4.9
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