2017大阪杯


ノーザンダンサーへの回帰

 賞金世界2大レースであるペガサスワールドカップ招待Sとドバイワールドカップはともに2000m戦であり、ワールドベストレースホースランキングでおなじみのIFHA(国際競馬統括機関連盟)が発表した「2016トップ100G1レース」の上位5レースはブリーダーズカップクラシック-G1(最終レーティング125.25)、愛チャンピオンS-G1(124.75)、パシフィッククラシック-G1(124.75)、コックスプレート-G1(124.75)、英チャンピオンS-G1(124.00)とすべて2000m(あるいは大体2000m)戦が並んだ。日本でも、一番長い距離のG1からもっとも短い距離のG1を引くと3200−1200=2000となるのでこれが距離体系の中央にあるわけだが、2000mの古馬G1となると長く天皇賞(秋)-G1しかなかった。何はともあれ待望の昇格といえる。
 今回は5頭がディープインパクト産駒、1頭がその全兄ブラックタイド産駒、4頭がキングカメハメハ産駒。14頭中10頭の父が金子真人さんの勝負服ということになる。ディープインパクトとキングカメハメハはこれまでも今年もサイアーランキング上での2強であり、芝2000m重賞の勝利数ランキング(下表)でもディープインパクトがずば抜けた1位。差のある2位がキングカメハメハで、そこから3位までの差も大きい。こういった種牡馬勢力図がより分かりやすく反映されるのが2000m部門ということでもあるだろう。また、過去3年のこのレースでディープインパクト産駒は3勝2着1回3着1回4着1回と、G1昇格にも直接貢献している。一方でキングカメハメハ産駒は昨年ラブリーデイが4着(これもレーティング上は昇格に貢献度大)したほか、2012年までさかのぼってローズキングダムの4着があるのみ。普通の年ならキングカメハメハがあっさりディープインパクトの軍門に下ると見るべきだが、今年はサイアーランキングで両者がずっとドッグファイトを続けている。エアスピネルの京都金杯-G3勝ちにより好ダッシュを見せたキングカメハメハは2月2週目まで首位を守り、3週目に逆転されたがすかさず2月末には逆転、3月1週目はディープインパクトが首位に立ったが2週目には逆転、その後、3月3週目以降に再逆転されているが、3月28日現在で1位ディープインパクトと2位キングカメハメハの差は1億円を切っている。層の厚さで最終的には首位ディープインパクトに落ち着くとしても、冬の名残のある阪神開催のうちは、まだまだ抵抗できる。
 ヤマカツエースは昨年の有馬記念。守備範囲を超えると思われる距離で健闘し、これまでの壁をひとつ乗り越えた。キングカメハメハ産駒は全体としては万能だが、個々はスペシャリストが多く、そのぶん融通が利きそうで意外に利かないのだが、安田記念-G1にも勝った名スプリンター・ロードカナロアのように、異分野での活躍が専門領域における飛躍につながることがある。グラスワンダーUSA産駒の母ヤマカツマリリンは中央未勝利でいったん園田に転出して1230mで2勝。中央再入厩後は芝1200mばかりで3勝を挙げた。デピュティミニスター系テジャボ産駒の祖母イクセプトフォーワンダは母国カナダでダンススマートリーH-G3(芝9F)など7勝を挙げた。産駒に北海道2歳優駿3着のワンダフルクエストがいる。キングカメハメハとグラスワンダーUSAの配合はミスタープロスペクターとロベルトのニックスであり、4代目には才気に富むヌレエフとダンチヒ、堅実なトライマイベストとデピュティミニスターという4本のノーザンダンサー血脈が並ぶ。このうちトライマイベストとデピュティミニスターの父ヴァイスリージェントはカナダの実業家で大生産者E.P.テイラーの手になるノーザンダンサー系種牡馬で、これらの組み合わせは生まれる機会が多いにせよ、近年は重賞の活躍馬の血統表に頻出するようになった。これはテイラーの描いた設計図が40年先、あるいは更に先まで見越したものであったということなのかもしれない。ノーザンダンサー4本の配合は今では珍しいものでもないが、ノーザンダンサーがケンタッキーダービーを当時のレースレコード2分ジャストで駆けたことを思えば、2000mで強いことがもっともノーザンダンサーらしいということにはなろう。


芝2000mの重賞勝ちランキング (2010.1.5〜2017.3.26)
順位種牡馬名生年1着2着3着着外勝率連対率3着率
1ディープインパクト20023829241880.1360.2400.326
2キングカメハメハ20012010181270.1140.1710.274
3ステイゴールド19941011101100.0700.1480.219
4マンハッタンカフェ199881271120.0570.1430.194
5ハーツクライ2001789830.0650.1400.224
5ジャングルポケット1998747680.0810.1270.209
7ゼンノロブロイ2000677700.0660.1440.222
8ネオユニヴァース2000551530.0780.1560.171
8シンボリクリスエスUSA1999535640.0640.1030.168
10スペシャルウィーク1995404380.0860.0860.173
11フジキセキ1992333380.0630.1270.191
12ハービンジャーGB2006320200.1200.2000.200
13ゴールドヘイロー199730080.2720.2720.272
14アグネスタキオン1998274510.0310.1400.203
15ダンスインザダーク1993261470.0350.1420.160
16タニノギムレット1999222360.0470.0950.142
17グラスワンダー1995214320.0510.0760.179
18Stephen Got Even1996211100.1420.2140.285
19キングズベストUSA199720430.2220.2220.666
20ファルブラヴIRE1998200130.1330.1330.133

 マルジュは英2000ギニー-G1で大敗したあと英ダービー-G1でジェネラスIREの2着(5馬身差)となり、中1週で臨んだマイルのセントジェームズパレスS-G1に勝った。そのままマイル路線を進んでいればといっても20数年前のことでは仕方がないが、10F路線のエクリプスS-G1、英チャンピオンS-G1と連敗して引退してしまった。産駒は名マイラー牝馬ソヴィエトソングのほか、インディジェナスIREやヴィヴァパタカ、そしてサトノクラウンとなぜか香港の名馬を多く出している。サトノクラウンの母ジョコンダ2IREはスプリンター・ロッシーニの産駒で、2歳時に愛で1マイルの準重賞に勝ち、7FのキラヴーランS-G3で3着となった。娘でサトノクラウンの全姉にあたるライトニングパールも6Fの2歳戦、チェヴァリーパークS-G1勝ち馬だが、3代母パトとマルジュの間に生まれたマイエマはヴェルメイユ賞-G1、ヨークシャーオークス-G1のG1に2勝を挙げたステイヤー。

 ▲キタサンブラックはブラックタイドとディープインパクトという全兄弟の違いが、タフさという点で良い方に出た。大穴ならドリームジャーニーとオルフェーヴルが勝っているステイゴールド産駒のアングライフェン。叔父トランセンドは6年前の今頃ドバイワールドC-G1・2着の偉業をなした。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2017.4.2
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