2017菊花賞


超長距離に刻む年代記

 今年の欧州競馬の地味ながら重要なトピックはグッドウッドカップ(8月、3歳上、16F)のG1昇格やクイーンズヴァーズ(6月、3歳、13F211y)のG2昇格をはじめとする超長距離路線の整備だった。これによりロイヤルアスコット開催のゴールドC-G1(6月)、夏のグッドウッドカップ-G1、秋の愛セントレジャー-G1やカドラン賞-G1、あるいはメルボルンC-G1などG1が適当な間隔で連続することになり、一流のステイヤーが育ちやすい環境が整えられた。実際に今年はシーザスターズ産駒の3歳馬ストラディヴァリウスが6月のクイーンズヴァーズ-G2で重賞初制覇を飾ると、続くグッドウッドカップ-G1で古豪ビッグオレンジを撃破、9月のセントレジャー-G1は勝ったカプリから1/2馬身差の3着に敗れたが、この路線のトップクラスの仲間入りを果たした。グループ制の手続きとしては少々強引な昇格ではあったかもしれないが、舞台がなければ適性のあるものが活躍できないし、逆に埋もれてしまいかねない才能も舞台さえあれば日の目を見ることもある。競争の激しい1600mから2000mに強い馬がいるのはもちろん大切なことだが、短距離から長距離まで幅広い分野に優れた才能が育つことはその国の競馬の豊かさの指標とみなる。近年は求められてオーストラリアに渡ってG1に勝つといったことも現実になっているのだから、超長距離馬にも飛躍のチャンスが増えた。菊花賞や春の天皇賞が今と同じかそれ以上のG1にふさわしい内容を維持していく意義はそこにある。
 ハーツクライ産駒にはジャスタウェイやアドマイヤラクティらの堂々たる海外G1勝ち馬、ワンアンドオンリーやヌーヴォレコルトといったクラシック馬がいるが、もうひとつ、下表に示した京都の3000m超G1で繰り返された惜敗も特徴的といえる。勝てはしなかったが、超長距離だからこそオルフェーヴルやゴールドシップ、キタサンブラックに迫り得たのだとすると、能力差を埋めたのはステイヤーとしての資質であったということになる。◎サトノクロニクルはハーツクライ7年目の産駒で、この世代には共同通信杯-G3に勝ち東京優駿-G1・2着のスワーヴリチャード、アルテミスS-G3に勝ち阪神ジュベナイルフィリーズ-G1、桜花賞-G1、秋華賞-G1で2着のリスグラシュー、クイーンC-G3に勝ち優駿牝馬-G1・3着のアドマイヤミヤビ、そして米国に渡ってヒルプリンスS-G3(芝9F)に勝ったヨシダがいる。まだG1には手が届かないが層の厚い世代ではある。母のトゥーピーGBは英国産で仏2歳アランベール賞-G3に勝ち3歳時にはプールデッセデプーリッシュ-G1(仏1000ギニー)で2着となったマイラー。その父インティカーブは1998年のクイーンアンS-G2を8馬身差圧勝。それがその年のインターナショナルクラシフィケーションで130のレーティングを得て、131のスキップアウェイに次ぎ、オーサムアゲインと並ぶ2位タイとなった。2000年から種牡馬入りして、産駒に多くの重賞勝ち馬が出るというわけではないが、2年目の産駒からクリテチウムドサンクルー-G1のパイタ、3年目にはロッキンジS-G1のレッドエヴィーといったG1勝ち牝馬を送り、2007年生まれの産駒に英・愛オークス-G1、エリザベス女王杯-G1連覇の名牝スノーフェアリーが現れた。牝馬に活躍馬が多いのを反映してか、娘の産駒も少数ながら精鋭揃いで、昨年の凱旋門賞馬ファウンド、南アフリカの三冠牝馬イググ、スプリントC-G1のゴードンロードバイロンらがいる。母系に入るロベルト系ということでは、俄然菊花賞-G1の穴馬としての地位が上がる。


ハーツクライ産駒の京都超長距離戦惜敗史
日付レース頭数馬場着順人気単勝
オッズ
馬名性齢着差勝ち馬
2017.4.30天皇賞(春)G1172412.0シュヴァルグラン牡50.2キタサンブラック
2016.5.1天皇賞(春)G11821399.2カレンミロティックセン80.0キタサンブラック
2016.5.1天皇賞(春)G118336.4シュヴァルグラン牡40.2キタサンブラック
2015.5.3天皇賞(春)G1172722.6フェイムゲーム牡50.0ゴールドシップ
2015.5.3天皇賞(春)G11731030.5カレンミロティックセン70.1ゴールドシップ
2014.5.4天皇賞(春)G118236.5ウインバリアシオン牡60.0フェノーメノ
2012.4.29天皇賞(春)G118329.8ウインバリアシオン牡41.0ビートブラック
2011.10.23菊花賞G118227.8ウインバリアシオン牡30.4オルフェーヴル

 ハーツクライ産駒惜敗史を見ていると、概ねステイゴールド産駒に底力で勝てず、ディープインパクトには切れ味で劣勢といえる。3000mなら仮想敵はステイゴールド産駒と考えるのが自然なので、にはウインガナドルを抜擢したい。母の父はメジロマックイーンだからドリームジャーニー、オルフェーヴル、ゴールドシップと同じ最良の成功パターン。母のタイムフェアレディはフラワーCに勝っており、メジロマックイーン産駒4頭の重賞勝ち牝馬のうちの1頭という貴重な存在。3代母ダンシングファイタは中山牝馬Sに勝ち、孫に目黒記念のゴーイングスズカがおり、4代母キシューファイターは4歳牝特(西)の2着馬。、その全姉キシュウローレルはデイリー杯を8馬身差、阪神3歳Sを5馬身差で逃げ切った快足で、桜花賞でも2着となった。メジロマックイーンと同じ小岩井農場のアストニシメントGBに遡るファミリーで、今回の出走馬では唯一の明治輸入の在来牝系出身となる。この牝系出身の菊花賞馬は昭和18年の京都農商省賞典4歳呼馬当時に勝った牝馬クリフジをはじめ、メジロデュレンと前述のメジロマックイーンの兄弟がいる。

 ルーラーシップは3カ国で20戦8勝2着2回3着4回という成績なのだが、最後の年の秋の3戦、天皇賞(秋)-G1、ジャパンC-G1、有馬記念-G1がすべて出遅れて3着だったので、その強い印象が定着した。そんなものが遺伝するわけはないのに、春の時点のキセキやダンビュライトの成績ではあたかも父の3着キャラを受け継いでいるようだった。▲キセキの母は優駿牝馬のダイワエルシエーロの半妹で、その父はディープインパクトだから大レース向きの決め手があり、叔父グレーターロンドンはこの秋の飛躍が期待されていてファミリーの活気という点でも申し分がない。サンデーサイレンスUSA、トニービンIRE、キングカメハメハ、そしてノーザンテーストCANと現代日本の重要血脈を揃えた配合でもある。

 凱旋門賞-G1を圧勝したエネイブルはキングジョージ6世&クイーンエリザベスS-G1勝ち馬ナサニエルの産駒。その父ガリレオはフランケルの父でもあり、種牡馬の父としても順調に勢力を拡大している。△ベストアプローチGBの父ニューアプローチは2008年の英ダービー馬。ほかに英チャンピオンS-G1、愛チャンピオンS-G1、2歳時には愛ナショナルS-G1とデューハーストS-G1にも勝ったG1・5勝の名馬。種牡馬入りして初年度産駒から英2000ギニー-G1のドーンアプローチ、オークス-G1馬タレントなどを送り出して順調な成功といえよう。母の父エフィシオがフォルリ系、祖母の父はロベルト系と、母系にも不気味なアイテムを揃えている。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2017.10.22
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