2016宝塚記念


大望とともに突き進め

 昨年の今ごろのワールドベストレースホースランキングにはレーティング121のドゥラメンテと120のゴールドシップがランクインしているのみで、そこに宝塚記念-G1に勝ったラブリーデイが120で加わり、世界ランキング上ではその3頭の上半期体制のままでずっと推移した。最後に変化を起こしたのは12月の香港でのモーリスとエイシンヒカリで、それぞれ香港マイル-G1の勝利には121が、香港カップ-G1には123が与えられた。G1は毎年同じ数だけあり、昨年でもリアルインパクトがオーストラリアでジョージライダーS-G1に勝つなど海外での実績もあるにはあったが、日本のトップはレーティング120の世界ランキングのボーダー上をずっと水平飛行していたということになる。そこへ上昇の勢いを与えたのがモーリスとエイシンヒカリの2頭であり、両者は今年もそれぞれ香港とフランスでG1勝ちを果たし、特に後者は大勝によって129の(それでも抑え気味の)高いレーティングを得て、世界ランキング暫定トップの座にある。3歳牡馬も空前のハイレベルかどうかはまだ結論を出すには早いとしても、マカヒキとサトノダイヤモンドの2頭が世界ランキング入りしており、G1戦線の華やかさでいえば、前年同期との比較で随分と上を行っていると考えていいだろう。上半期の流れを振り返るため、下表にG1級勝ち馬を列記した。1)今年G1を2勝したものがまだいないこと、2)ディープインパクトが5勝していること、3)日高地方の牧場が過半数に勝っていることがすぐに分かるので、この流れに沿って早急に結論を出すと、G1未勝利の日高生まれのディープインパクト産駒、すなわちアンビシャスということになる。これまでクラシックの時期の急上昇ぶりがディープインパクト産駒の強みの最大のものであったが、現3歳世代までで6世代が出走し、年齢を重ねた産駒も増えてくると、クラシック惜敗を経てドバイで結果を出したリアルスティールや環境が変わったことで大覚醒を果たしたエイシンヒカリなどに代表されるように、2段階、3段階の粘り強い成長を示すものが現れてきた。アンビシャスも昨年の今ごろようやくラジオNIKKEI賞-G3に勝ってクラシックには縁のないまま古馬となったが、今年に入っての上昇ぶりはディープインパクト晩成型のひとつのモデルになるのではないだろうか。切れ味で勝負するディープインパクト産駒は重い馬場になりやすいこのレースでステイゴールド産駒やキングカメハメハ産駒に劣勢だったのは確かだが、本馬は母の父がエルコンドルパサーUSA。この血の持つパワーはディープインパクト産駒がこの季節の馬場を克服するのに良いサポートを果たすのではないだろうか。しかも、エルコンドルパサーUSAの母の父はサドラーズウェルズであり、この上半期の隠しテーマともいえるサンデーサイレンスUSA+サドラーズウェルズの組み合わせになっている。牝系は4代母フィエスタファンの産駒に1990年の凱旋門賞馬ソーマレズが現れたあとも活気を保っており、3代母の孫に2010年の独ダービー馬バズワード、曾孫に2008年のヨークシャーオークス-G1やコロネーションS-G1などG13勝を挙げたラッシュラッシーズGBがいる。この距離は初めてながら、2400mのG1勝ち馬を3頭送る牝系にレインボークエスト、エルコンドルパサーUSA、ディープインパクトと配合されてきていれば、2400m血統と言ってもいいくらいだ。


2016年ここまでのG1/Jpn1勝ち馬
日付レース競馬場距離勝ち馬性齢母の父産地生産者
1/27川崎記念川崎ダ2100ホッコータルマエ牡7キングカメハメハCherokee Run浦河市川ファーム
2/21フェブラリーS東京ダ1600モーニンUSA牡4ヘニーヒューズUSADistorted Humor米国エンパイアイクワインズ社
3/26ドバイターフ首メイダン芝1800リアルスティール牡4ディープインパクトStorm Cat安平ノーザンファーム
3/27高松宮記念中京芝1200ビッグアーサー牡5サクラバクシンオーKingmambo浦河バンブー牧場
4/10桜花賞阪神芝1600ジュエラー牝3ヴィクトワールピサPistolet Bleu千歳社台ファーム
4/17皐月賞中山芝2000ディーマジェスティ牡3ディープインパクトブライアンズタイムUSA新ひだか服部牧場
5/1天皇賞(春)京都芝3200キタサンブラック牡4ブラックタイドサクラバクシンオー日高ヤナガワ牧場
5/1チャンピオンズマイル港シャティン芝1600モーリス牡5スクリーンヒーローカーネギーIRE日高戸川牧場
5/5かしわ記念船橋ダ1600コパノリッキー牡6ゴールドアリュールティンバーカントリーUSA日高ヤナガワ牧場
5/8NHKマイルC東京芝1600メジャーエンブレム牝3ダイワメジャーオペラハウスGB安平ノーザンファーム
5/15ヴィクトリアマイル東京芝1600ストレイトガール牝7フジキセキタイキシャトルUSA浦河岡本牧場
5/22優駿牝馬東京芝2400シンハライト牝3ディープインパクトシングスピールIRE安平ノーザンファーム
5/24イスパーン賞仏シャンティイ芝1800エイシンヒカリ牡5ディープインパクトStorm Cat新ひだか木田牧場
5/29東京優駿東京芝2400マカヒキ牡3ディープインパクトフレンチデピュティUSA安平ノーザンファーム
6/5安田記念東京芝1600ロゴタイプ牡6ローエングリンサンデーサイレンスUSA千歳社台ファーム

 マリアライトはアンビシャスと同じ父と母の父の組み合わせ。昨年の有馬記念-G1 4着は地力の高さとディープインパクト産駒らしからぬ切れ味の不足を同時に示したが、このレースでは逆にそれが武器となりうる。半兄クリソライトはジャパンダートダービー勝ち馬で、半弟リアファルは神戸新聞杯-G2勝ち馬。叔父のアロンダイトはジャパンCダート勝ち馬。3代母リーガルイクセプションは1972年の愛オークス-G1に勝ち、凱旋門賞-G1ではサンサンの4着となった。きょうだい近親がいきなりの相手強化でも結果を出してきたように、優れた底力の期待できる牝系であり、牡馬相手に力勝負を挑んでも引けを取らなさそうだ。

 ▲ドゥラメンテはアドマイヤグルーヴ、エアグルーヴ、ダイナカールと遡る女系の名門に現れた。この系統ではダイナカールの孫オレハマッテルゼ、エアグルーヴの仔ルーラーシップに続く牡馬のG1級となる。同じ父の叔父ルーラーシップにサンデーサイレンスUSAが加わったぶんだけ瞬発力が増したということで、ルーラーシップの瞬発力でも相当なものだったのだから、その切れ味の鋭さたるやといったところではある。晴雨兼用のキングカメハメハが父であれば、道悪になったらなったで何とかしてしまう可能性が高い。

 キタサンブラックは大阪杯-G2でアンビシャスに敗れたとはいっても58キロ対56キロでクビの僅差。休み明けでもあったので、地力ではこちらが上なのは明らか。ブラックタイドはディープインパクトの全兄だが、その産駒はディープインパクトらしくなさを前面に押し出しているものが多い。兄が弟の代用品と呼ばれてたまるかと思ったりはしないだろうが、そのあたりの違いは見ていて楽しい。母の父のサクラバクシンオーはこの上半期、父として1200mの高松宮記念-G1に勝ち、母の父として3200mの天皇賞(春)-G1を制した。死んではや5年がたつが、隠れた今季MVP種牡馬といってよく、偉大なテスコボーイの血を後に伝える仕事もやり遂げたといえるだろう。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2016.6.26
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