2016秋華賞


赤くたぎるえりもの名血

 1996年に始まったこのレースの勝ち馬の父はファビュラスダンサー(勝ち馬ファビラスラフインFR)、メジロライアン(メジロドーベル)、ブライアンズタイムUSA(ファレノプシス)、モガミFR(ブゼンキャンドル)、サッカーボーイ(ティコティコタック)、ダンシングブレーヴUSA(テイエムオーシャン)、デインヒルUSA(ファインモーションIRE)と実にさまざまで、サンデーサイレンスUSA産駒が勝ったのは2003年のスティルインラブが初めて。それまでの7年間には毎年途切れず複数頭が出走しながら、合計26頭が敗退していた。その後もサンデーサイレンスUSA産駒は2005年にエアメサイアが勝ったのみで、このレースの血統的多様性は傾向として持続していたのだが、代が替わってディープインパクトの世になると、初年度のマルセリーナこそ敗退したものの、2年目のジェンティルドンナとヴィルシーナは1、2着を占め、メイショウマンボが勝った2013年はスマートレイアーが2着を確保、ここ2年はショウナンパンドラとミッキークイーンが連勝している。これまでの5年間のトータルでは(3.2.0.12)となるので、おおむね3頭出ていれば1頭は連対する勘定になる。
 春にエルフィンSを勝ったレッドアヴァンセ下表に示した通り兄4頭が重賞勝ち馬。コースの内外や距離など細かい違いはあるが、どれも京都の重賞を勝っている点は留意すべき。母のエリモピクシーはファイナルSなど7勝を挙げたほか京都牝馬S3着など重賞でも活躍し、その全姉エリモシックは秋華賞では2着にファビラスラフインFRの2着に終わったが、翌年のエリザベス女王杯ではダンスパートナーを負かしてタイトルを手にした。祖母のエリモシューテングはテスコボーイGBの娘らしい黒く細面の美しい馬で、忘れな草賞に勝った。3代母の子孫にも菊花賞2着のパッシングサイアーから函館記念3連覇のエリモハリアーまで多くの「えりも」の活躍馬が出ていて、特にこのエリモピクシーの系統は、サンデーサイレンスUSA系種牡馬を幅広く受け入れ、なおかつバックパサー、ヴェイグリーノーブル、テスコボーイGB、ダンシングブレーヴUSAといった母系に並ぶ名種牡馬の良さも損なうことなく伝えている。あとはG1での決定力だけともいえるが、その点、この父とダンシングブレーヴUSAの組み合わせに期待したいところ。種牡馬としてのダンシングブレーヴUSAは結果的にG1クラスの大物は欧日合わせて牝馬の方が多いフィリーサイアーといえ、欧州に残したさほど多くない牝馬からは世紀の変わり目の前後で独ダービー-G1のロベルティコ、英セントレジャー-G1のミレナリー、ジュライC-G1のオアシスドリームなど多くの重賞勝ち馬が生まれた。日本で供用されたのは1992年から1999年までの8年間あるので、数の上ではG1級の娘の仔がメイショウサムソン、スイープトウショウ、ビッグロマンスの3頭にとどまるとは思えない。ただ、本馬の母が18歳。ダンシングブレーヴUSA産駒の繁殖牝馬のうち最も若い世代でも来年には17歳を迎えるわけで、残された時間はもうそれほど長くない。


「えりも」のレガシーを伝えるデプグリーフUSA系
デプスUSA Depth(牝、鹿毛、1970年生、父Buckpasser)不出走
 デプグリーフUSA Depgleef(牝、鹿、1974、Vaguely Noble)不出走
  パッシングサイアー(牡、栗、1979、ゲイサンFR)2着:菊花賞
  パッシングパワー(牡、芦、1983、ゼダーン-GB)金鯱賞
  エリモシューテング(牝、黒鹿、1984、テスコボーイ-GB)忘れな草賞
  |エリモシック(牝、青鹿、1993、ダンシングブレーヴUSA)エリザベス女王杯、2着:秋華賞、札幌
  | 記念、3着:4歳牝馬特別(東)
  |エリモピクシー(牝、鹿、1998、ダンシングブレーヴUSA)3着:京都牝馬S、愛知杯、福島牝馬S
  | リディル(牡、栗、2007、アグネスタキオン)スワンS-G2、デイリー杯2歳S
  | クラレント(牡、栗、2009、ダンスインザダーク)デイリー杯2歳S-G2、富士S-G3、東京新聞杯
  |  -G3、エプソムC-G3、関屋記念-G3、京成杯オータムH-G3、2着:京王杯スプリングC-G2、
  |  3着:安田記念-G1、NHKマイルC-G1、毎日王冠-G2、マイラーズC-G2、阪神C-G2、東京
  |  新聞杯-G3
  | レッドアリオン(牡、鹿、2010、アグネスタキオン)マイラーズC-G2、関屋記念-G3、2着:ニュー
  |  ジーランドT-G2、3着:富士S-G3、アーリントンC-G3
  | サトノルパン(牡、黒鹿、2011、ディープインパクト)京阪杯-G3、2着:ファルコンS-G3
  | レッドアヴァンセ(牝、黒鹿、2013、ディープインパクト)エルフィンS
  エリモハスラー(牝、黒鹿、1988、ブレイヴェストローマンUSA)
  |エリモハリアー(セン、鹿、2000、ジェネラスIRE)函館記念3回、2着:朝日チャレンジC、3着:金
  | 鯱賞、オールカマー
  エリモフローレンス(牝、鹿、1990、イルドブルボンUSA)
   エリモダンディー(牡、黒鹿、1994、ブライアンズタイムUSA)日経新春杯、京阪杯、2着:京都金
    杯

 ヴィブロスはヴィクトリアマイル-G1連覇の名牝ヴィルシーナの全妹。ヴィルシーナはジェンティルドンナさえいなければこのレースを含めもっと多くのG1に勝っていたはずで、その点、ジェンティルドンナのいない世代に生まれた妹は恵まれている。マキアヴェリアン牝馬はどんな種牡馬との組み合わせでも配合に洗練された高級感が出るというのが私見だが、サンデーサイレンスUSA系種牡馬との組み合わせではヘイロー3×4となる。4代母がヘイロー産駒の代表的名牝グローリアスソングなので、母自身もヘイロー3×4と同馬の近交が繰り返されていることになる。3代母の父がアガ・ハーン殿下のブラッシンググルーム、祖母の父ヌレエフと母の父マキアヴェリアンはいずれもニアルコス家の服色をまとった大種牡馬で、凱旋門賞が終わったこの時期に見ると、フランスへの憧れが積み重ねられた血統にも見える。

 ▲ビッシュの母の父アカテナンゴはG1・4連勝で臨んだ凱旋門賞-G1でダンシングブレーヴUSAの7着に敗れた独ダービー馬だが、種牡馬としてはジャパンC-G1のランドGERや独ダービー-G1勝ちの名牝ボルジアGERなどを出した。母の父としても独ダービー馬ヴァルトパルク、独オークス馬ミスティックリップスGERを送り、ディープインパクトとの組み合わせからはマイラーズC-G2のワールドエースが出た。母は重賞勝ちこそないものの、E.P.テイラーS-G1やクイーンエリザベス2世チャレンジカップS-G1など北米の芝G1で器用に先行して3度2着となった活躍馬。字面から受けるドイツ的な重さを懸念する必要はない。

 カイザーバルは母が桜花賞、ヴィクトリアマイル、米国でもキャッシュコール招待S-G3に勝った名牝ダンスインザムード。祖母ダンシングキイUSAの子孫にはエアダブリン、ダンスパートナー、ダンスインザダークと名馬名牝が並ぶ。父のエンパイアメーカーUSAはフロリダダービー-G1、ウッドメモリアルS-G1、ベルモントS-G1とG1・3勝。生涯成績も(4.3.1.0)のほぼ完璧なものだった。日本では2011年から供用され、その年から米国に残した産駒の名牝ロイヤルデルタが大活躍し、2015年には孫が米三冠馬となるなどして、米国に買い戻された。いなくなると産駒が走る種牡馬なのかもしれないし、ダンスパートナー産駒唯一の重賞勝ち馬フェデラリストの父もこの馬。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2016.10.16
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