2016天皇賞・春


ミスタープロスペクターを掘り起こせ

 このレースで1番人気が勝ったのは10年前のディープインパクトが最後。前年の菊花賞馬が勝つという良き伝統もそこで途絶えており、昨年の勝ち馬ゴールドシップは菊花賞勝ちから足掛け3年がたっていた。また、それとは別に、菊花賞であれだけ活躍するダンスインザダーク産駒は2003年にダイタクバートラムが3着となっただけで通算成績は(0.0.1.18)。2010年に1番人気となって6着に沈んだフォゲッタブルなど、むしろこのレースに向かないとさえいえる。これだけでは証拠不十分ながら、この10年ほどで菊花賞-G1と天皇賞(春)-G1はそれぞれ違う方向にその性格を変化させているということなのではないだろうか。
 ダンスインザダーク産駒の不振と関係があるのかないのかといえばないのだろうが、同様にちょっとした不思議といえるのが、ミスタープロスペクターの活躍。下表に示した10例のうち、ゼンノロブロイとスズカマンボは父がサンデーサイレンスUSA、メイショウドンタクは父マンハッタンカフェ、トーセンラーは父ディープインパクトと、いずれもサンデーサイレンスUSA系だった。これらサンデーサイレンスUSA×ミスタープロスペクターとその発展型は日本における最先端の配合様式といえ、このあたりは天皇賞=長距離=ステイヤーという固定観念からははみ出す部分だろう。サンデーサイレンスUSA×ミスタープロスペクター系として初めての春の天皇賞連対馬であるゼンノロブロイの産駒は、これまでサンテミリオンが優駿牝馬に、マグニフィカがジャパンダートダービーに勝っているが、牡馬クラシックにはまだ手が届かず、トレイルブレイザー、ペルーサ、リアファルなど大物の一歩手前といった存在が多いのも事実。◎タンタアレグリアは菊花賞-G1では3着リアファルに続く4着で、ある意味ゼンノロブロイらしさを示したといえるが、このクラスまで上ってくるようなサンデーサイレンスUSA系は、どのタイミングで上昇気流を捉えるか、それさえうまく行けば頂点を狙える潜在能力を持っていることが多い。足踏みの3歳時を経て、4歳を迎えてのここ2戦には急上昇の兆しが見てとれるのではないだろうか。母タンタスエルテCHIはチリの2歳牝馬チャンピオンで、アルトゥーロリヨンペニャ賞-G1(芝1600m)など母国で5勝。その後4歳で米国に渡り、ダート8.5Fの上級ステークスに勝った。産駒のパララサルーは2、3歳時6戦してアネモネS、紫苑Sなど4勝を挙げており、本馬は第3仔となる。母の父ステューカはサンタアニタH-米G1勝ち馬で、祖母の父ステージクラフトはサドラーズウェルズ直仔でプリンスオブウェールズS-英G2などに勝った。1896年アルゼンチン産の11代母ソリフガ以来100年以上を南米で過ごした牝系だけに、サドラーズウェルズ、ミスタープロスペクター4×4、サンデーサイレンスUSAと北半球のもっとも活力ある血を畳み掛けた効果は大きいだろうし、3代母の父モシートグワポはナシュア系なので、ミスタープロスペクターとの相性もいい。年下のマカヒキ、サトノダイヤモンドに続く活躍があれば、サンデーサイレンスUSA系×南米血脈という新たなパターンが確立することにもなるだろう。


春の天皇賞におけるミスタープロスペクターの存在感
年度着順馬名性齢人気ミスタープロスペクターの所在
20002ラスカルスズカ牡53母の父ミスワキ Miswaki の父
20042ゼンノロブロイ牡44母の父マイニングUSAの父
20051スズカマンボ牡413母の父キングマンボ Kingmambo の父
2ビッグゴールド牡714母の父
20072エリモエクスパイア牡411父スキャターザゴールドCANの父
3トウカイトリック牡54父エルコンドルパサーUSAの父系祖父
20103メイショウドンタク牡416母の父マキアヴェリアン Machiavellian の父
20112エイシンフラッシュ牡43父キングズベストUSAの父系祖父
20122トーセンジョーダン牡63祖母の父クラフティプロスペクター Crafty Prospector の父
20132トーセンラー牡53母の父リシウス Lycius の父

 ○ゴールドアクターは母ヘイロンシンが平地未勝利・障害2勝、その父キョウワアリシバUSAは名馬アリシーバ直仔で現役時代5勝を挙げた活躍馬だが、重賞では朝日チャレンジC3着があるのみ。祖母ハッピーヒエンも未勝利でその父マナードIREの産駒には4歳牝馬特別(西)2着のコメーテス、昇格前のスプリンターズS2着のプリンシパルなどがいる程度、3代母ブゼンフブキは1勝馬で子孫に目立った活躍馬なく、1960年生まれの4代母トサクインが平地5勝、障害11勝、その産駒に神戸新聞杯のホウシュウリッチと阪神障害Sのホウシュウアンダーがいる。今や世界的な名門ファミリーがひしめく日本の良血探求のアンチテーゼのような血統であり、だからこそお化けのような桁違いの強さを備えている可能性がある。同じスクリーンヒーロー産駒で同い年のモーリスとの直接対決はなさそうだが、連勝記録の競争は継続するかもしれない。

 ▲ファントムライトは4月20日に死んだオペラハウスGBの産駒。天皇賞(春)には3勝の実績があるが、これはテイエムオペラオー2勝、メイショウサムソン1勝とそれぞれ時代を代表する名馬が残したもので、それ以外の産駒はアクティブバイオが9、11、17着、トーセンクラウンが18着、12着、テイエムアンコール11着と人気なりの成績でしかない。だから、父の名前だけで飛びつけはしないのだが、祖母はダイナカール。これには飛びついていいのではないだろうか。この一族はエアグルーヴを起点にアドマイヤグルーヴとドゥラメンテの母仔やルーラーシップを擁する分枝が第一だが、オレハマッテルゼやエガオヲミセテの出たカーリーエンジェル系が第二、アイムユアーズのいるセシルカット系が第三と傍流でさえも一流といえる勢力を誇る。ダートで4勝を挙げたマリーシャンタルの子孫にはプリンシパルS3着のコマンドールクロス、アハルテケSなど4勝のシャルルマーニュなどがいるものの、まだ大物の出現がないが、そろそろ順番が回ってきてもいい。

 △フェイムゲームはオーストラリアに遠征しての2戦はツキもなく結果を出せずに終わったが、復帰戦となったダイヤモンドS-G3では2着と立ち直った姿を見せた。祖母ベルベットサッシュがサッカーボーイの全妹かつステイゴールドの母ゴールデンサッシュの全姉。サッカーボーイは父として2003年の勝ち馬ヒシミラクルを送り、母の父として2009年の勝ち馬マイネルキッツを送った。ステイゴールドは過去3年の勝ち馬の父でもある。ゴールドシップにクビ差まで迫った昨年の2着を忘れてはいけない。

 シュヴァルグランはサンデーサイレンスUSA系×ミスタープロスペクター系で、同じパターンの半姉ヴィルシーナはヴィクトリアマイル-G1連覇の名牝。マキアヴェリアンは多くの一流マイラーのほかドバイワールドC-G1のストリートクライや超長距離カドラン賞-G1勝ち馬インヴァマークなど多彩な産駒を送る名種牡馬で、これを母の父に据えると配合に高級感が増す。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2016.5.1
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