2016有馬記念


ディープキラーの異名を継ぐ者

 今から11年前の12月25日というと無敗の三冠馬ディープインパクトに初めて土がついた日として記憶され、その殊勲は同じサンデーサイレンスUSA直仔で1歳年上のハーツクライによって達成された。3歳春に京都新聞杯を勝ったハーツクライはその後、東京優駿2着、4歳になって宝塚記念-G1・2着、ジャパンC-G1・2着とトップクラスで善戦するものの勝ち鞍からは遠ざかり、有馬記念では4番人気といっても単勝オッズは17.1倍もついていた。意表を突く先行策で大本命馬の足をすくっただけであればやがて名脇役程度の評価となるのだろうが、ハーツクライは翌年には海外に打って出てドバイシーマクラシック-G1を制し、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS-G1でも最後はハリケーンラン、エレクトロキューショニストに交わされたものの一瞬はレースを支配した3着となった。そして最終的にはディープインパクトに先着したことのある唯一の日本馬ともなった。このディープインパクト・キラーとしての傾向は種牡馬となってもある程度残されていて、たとえば2014年の優駿牝馬-G1では娘のヌーヴォレコルトが大本命のディープインパクト産駒ハープスターを抑え、ドバイデューティフリー-G1に勝った産駒ジャスタウェイはIFHAの世界ランキングで130のレーティングを得て1位を守り、これは2年後にディープインパクト産駒のエイシンヒカリが一時的に世界トップとなる129を叩き出しても追いつくことがなかった。総合力ではディープインパクトに劣っても、局地戦では勝利を収める力を秘めているのがハーツクライということになる。シュヴァルグランは京都2歳Sやエリカ賞で3着を続けていたころは3歳春の活躍を楽しみにされていたと思うが、確かな成長を示したのは3歳下半期。そして、4歳を迎えた今年はG2に勝って、G1でも馬券圏内に加わるようになった。下表に並べたように、道程こそ違うが、父が4歳暮れにたどり着いたのと大体同じような場所には立った。このような成長曲線というのか、その線形は大事で、特に有馬記念-G1ではトップクラスで戦っていた者が下り坂に差し掛かったところで逆に急上昇を見せると昨年のような下克上も起こりうる。母は佐々木主浩さんのお気に入りハルーワスウィート。ディープインパクト産駒の半姉ヴィルシーナがヴィクトリアマイル-G1連覇を果たして引退したのに続き、この秋は同じくディープインパクト産駒の半妹ヴィブロスが秋華賞-G1で兄に先んじてG1勝ちを果たした。兄としては自身がハーツクライ産駒なのでディープインパクト産駒よりG1勝ちが遅くなるのは想定内と思っているかどうか知らないが、父と同じタイミングでG1初制覇がなれば立派なものだ。祖母ハルーワソングには産駒にラジオNIKKEI賞-G3のフレールジャック、新潟記念-G3のマーティンボロがいて、3代母モーンオブソングの産駒にはヴェルメイユ賞-G1のメッツォソプラノがいる。4代母は米国でも活躍したカナダの名牝グローリアスソングで、その子孫はシングスピールIRE、ラーイ、ダノンシャンティなど日本でもお馴染み。グローリアスソングはヘイローの牝馬の代表産駒の一頭であり、母の父マキアヴェリアンもその母の父がヘイローなので、本馬はヘイロー3×4×5となる。ただ、ディープインパクト産駒の姉と妹がヘイロー的なのに比べると、こちらは3代母の父ブラッシンググルームに祖母の父ヌレエフのトモをくっつけたようなイメージ。それだけに、姉妹のしなやかな瞬発力とはまた違ったパワフルかつ持続的な中山向きの脚を秘めているかもしれないと想像する。


ゆっくりとたどる父の蹄跡
ハーツクライ 鹿毛 2001.4.15 千歳産シュヴァルグラン 栗毛 2012.3.14 安平産
日付
レース

騎手距離1着(2着)馬馬体
14.09.21新馬32福永芝2000ドラゴンヴァース464
14.10.12未勝利11福永芝2000(アルバートドック)468
04.01.05新馬11武豊芝2000(ミヤタイセン)49214.11.29京都2歳SG353内田博芝2000ベルラップ468
04.02.15きさらぎ賞53芝1800マイネルブルック48814.12.27エリカ賞500万13内田博芝2000ベルーフ478
04.03.20若葉S21安藤勝芝2000(スズカマンボ)48415.01.24若駒S取消内田博芝2000アダムスブリッジ 
04.04.18皐月賞514安藤勝芝2000ダイワメジャー48015.03.28毎日杯G385内田博芝1800ミュゼエイリアン470
04.05.08京都新聞杯21安藤勝芝2200(スズカマンボ)47615.05.09京都新聞杯G278内田博芝2200サトノラーゼン464
04.05.30東京優駿52横山典芝2400キングカメハメハ48215.08.30500万12福永芝2000アルバート468
04.09.26神戸新聞杯23武豊芝2000キングカメハメハ48615.10.03500万11福永芝2400(ミッキーポーチ)468
04.10.24菊花賞17武豊芝3000デルタブルース49215.10.311000万11福永芝2400(エイシンアロンジー)476
04.11.28ジャパンCG1310武豊芝2400ゼンノロブロイ48015.12.13オリオンS1600万11ルメール芝2400(シホウ)474
04.12.26有馬記念109横山典芝2500ゼンノロブロイ47216.01.17日経新春杯G212ルメール芝2400レーヴミストラル480
05.04.03大阪杯G242横山典芝2000サンライズペガサス49016.03.20阪神大賞典G211福永芝3000(タンタアレグリア)470
05.05.01天皇賞(春)85横山典芝3200スズカマンボ49216.05.01天皇賞(春)G133福永芝3200キタサンブラック468
05.06.26宝塚記念G132横山典芝2200スイープトウショウ49616.06.26宝塚記念G159福永芝2200マリアライト468
05.10.30天皇賞(秋)26ルメール芝2000ヘヴンリーロマンス49016.11.06ア共和国杯G221福永芝2500(アルバート)474
05.11.27ジャパンCG122ルメール芝2400アルカセット49616.11.27ジャパンCG163福永芝2400キタサンブラック482
05.12.25有馬記念41ルメール芝2500(ディープインパクト)49816.12.25有馬記念G1福永芝2500

 シュヴァルグランが仮想ハーツクライとすると、仮想ディープインパクトはサトノダイヤモンドとなる。アルゼンチン牝系にサザンヘイローUSAを重ねた一流牝馬が土台となっている点ではマカヒキと同じで、こちらはグローリアスソングの全弟デヴィルズバッグを経由したヘイローが入ってヘイロー3×5×4となる点はシュヴァルグランに似ている。母の父のオーペンはモルニ賞-G1勝ち馬で、BCマイル-G1勝ち馬ルアーの後継として貴重な存在でもある。種牡馬としてはマイラー色が強かったが、ナタルマの曾孫でダンチヒの孫という点ではデインヒルUSAの発展バージョンと見ることもでき、そうであればマイラーと決めつけるのは表面的に過ぎる。

 ▲キタサンブラックはディープインパクトの全兄ブラックタイドのディープインパクトと違うところを最大限に生かしたような面があり、だからこそ、ジェンティルドンナ以外それほどディープインパクトが結果を残せていないこのレースには逆に合う。サクラバクシンオーはスプリンターズS2連覇の名馬で日本を代表するスプリンター血統でもあるが、その母サクラハゴロロモは1981年のこのレースの勝ち馬アンバーシャダイの全妹。そして、特に関係ないが、サクラユタカオーはシンボリルドルフが勝った1984年の有馬記念の同日の万両賞(1800m)で7馬身差圧勝を演じていた。

 ヤマカツエースは中山2戦2勝で母の父がグラスワンダーUSA。この2点を頼りに買う手はある。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2016.12.25
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