2015宝塚記念


逆転への巧妙な一撃

 ドリームジャーニー、ナカヤマフェスタ、オルフェーヴル、ゴールドシップ、ゴールドシップと近6年で延べ5頭のステイゴールド産駒が勝っている。1993年に8番人気で2着となったイクノディクタスから1998年9番人気2着のステイゴールドを経て、ディクタスFRとノーザンテーストCANの組み合わせによるサッカーボーイ型ユニットを抱えた配合は、その後もツルマルボーイ(母の父サッカーボーイ)、ヒシミラクル(父サッカーボーイ)、バランスオブゲーム(祖母がサッカーボーイの全妹)などが人気薄で好走してきた。そういった20年にわたる地道なアンダーグラウンド活動が、このところのステイゴールド産駒の堂々たる成果につながったわけだ。

 一方で、宝塚記念の伝統的な一面はマイナー指向でもあって、歴代勝ち馬の半数近い25頭が宝塚記念を生涯唯一のG1(級)タイトルとしている。下表に示した通り、その名の羅列を見るだけで、実に味わい深い。この傾向はまた血統的多様性の確保にも大いに役立っていて、例えばサンデーサイレンスUSA産駒でさえ3頭しか勝っていないことで逆にそれが証明されているともいえるだろう。そのような宝塚記念が本来持っていた性格を考えると、ステイゴールド6勝目、ゴールドシップ3連覇を前にそろそろ流れが変化を見せる時機ではないだろうか。その波に乗れるとすれば、ディープインパクト産駒の隠れた属性、誰もいわないがG1・1勝主義だろう。ジェンティルドンナが7つのG1に勝ったので意外に目立たないが、ディープインパクト産駒のG1勝ち馬はヴィルシーナ2勝、リアルインパクト2勝を除く16頭が1勝だけ。宝塚記念のマイナー指向とディープインパクトの一点集中主義の交点にある、いや、ありそうなのがトーセンスターダム。クラシック皆勤ながら無冠、海外遠征でも惜しくはあったがタイトルに手が届かなかった。こういう馬に報いるのが本来宝塚記念が備えていた性格ではなかったか。ディープインパクト自身は2006年の勝ち馬。産駒は(0.1.2.4)と未勝利だが、昨年9着のジェンティルドンナ以外の延べ6頭はすべて掲示板を確保している。勝つのは時間の問題というか、目の上のステイゴールド産駒を交わしさえすればいい。母は4勝のすべてをダート1400m以下で挙げたが、多芸多才で知られるクラフティワイフUSA系。祖母の産駒には天皇賞(秋)-G1のトーセンジョーダン、京都新聞杯-G2のトーセンホマレボシがいて、3代母クラフティワイフUSAの子孫には天皇賞(秋)-G1のカンパニー、アルゼンチン共和国杯のレニングラード、マイラーズカップのビッグショウリ、最優秀障害馬ビッグテーストなど多様な活躍馬がいる。代を重ねるごとに活躍の場の格を上げ、近年はG1への進出ぶりも目覚しい。母の父エンドスウィープUSAは直仔のスイープトウショウが2005年に勝っているが、フォーティナイナーUSAの血をその活力を保ったまま伝えるという点で今後更に存在価値が高まりそうだ。


G1級勝利が宝塚記念だけの馬一覧
年度勝ち馬性齢母の父
2011アーネストリー牡6グラスワンダーUSAトニービンIRE
2010ナカヤマフェスタ牡4ステイゴールドタイトスポットUSA
2008エイシンデピュティ牡6フレンチデピュティUSAWoodman
2002ダンツフレーム牡4ブライアンズタイムUSAサンキリコUSA
2001メイショウドトウ牡5BigstoneAffirmed
1998サイレンススズカ牡4サンデーサイレンスUSAMiswaki
1997マーベラスサンデー牡5サンデーサイレンスUSAヴァイスリーガルCAN
1995ダンツシアトルUSA牡5Seattle SlewPrince John
1991メジロライアン牡4アンバーシャダイメジロサンマン
1990オサイチジョージ牡4ミルジョージUSAファバージFR
1987スズパレード牡6ソルティンゴIREロムルスGB
1986パーシャンボーイGB牡4Persian BoldCrepello
1985スズカコバン牡5マルゼンスキーネヴァービートGB
1983ハギノカムイオー牡4テスコボーイGBヴェンチアGB
1981カツアール(5)牡5ステューペンダスUSAワラビーFR
1980テルテンリュウ牡4ロングエースガーサントFR
1975ナオキ牡6サウンドトラックIREヒンドスタンGB
1973ハマノパレード牡4テューダーペリオッドGBソロナウェーIRE
1972ショウフウミドリ牡6ヴィミーFRトサミドリ
1969ダテホーライ牡4ウイルデイールPersian Gulf
1967タイヨウ牡4ゲイタイムGBShahpoor
1966エイトクラウン牝4ヒンドスタンGBChamossaire
1964ヒカルポーラ牡5ヒンドスタンGBトシシロ
1961シーザー牡4ハクリョウTornado
1960ホマレーヒロ牡4トシシロトキノチカラ
☆=宝塚記念までの重賞勝ち鞍数、カツアールは南関重賞

 ゴールドシップは既に6歳だが、父ステイゴールドは4歳から7歳まで4年連続出走して(2)(3)(4)(4)着。勝ちはしないまでも出走した数多くの大レースの中ではもっともムラのない成績を残したといえる。母の父メジロマックイーンは春の天皇賞連覇の名馬であって、この春は祖父孫制覇が静かに達成されていたほか、4歳時と6歳時に(2)(1)着の宝塚記念でも隔世制覇が既に4度達成されている。この春はデヴォーニアUSA系から出たモーリス、パロクサイドGB系のドゥラメンテ、レディフランダースUSA系のレッツゴードンキなど、日本で代を重ねた牝系の出身馬が近年にない勢いで活躍を見せており、その締めくくりとしては8代母星旗USAに遡る本馬がふさわしいのかも。

 今年もまだサッカーボーイ血統の流れに変化なしとするなら、見直したいのが▲ショウナンパンドラ。祖母ゴールデンサッシュがサッカーボーイの全妹、母キューティゴールドはステイゴールドの半妹だから宝塚記念仕様のディープインパクト産駒といえ、母の父フレンチデピュティUSAとの組み合わせからは2012年に3歳で挑んで5着となったマウントシャスタが出ている。リファール、ヴァイスリージェント、ノーザンテーストCANといったノーザンダンサー初期の傑作の血を集めた配合はパワフル。ステイゴールド的な意外性はむしろステイゴールド直仔よりもこちらにあるのかもしれない。

 桜花賞-G1をレッツゴードンキで、皐月賞-G1と東京優駿-G1をドゥラメンテで制したキングカメハメハは、ほかにもホッコータルマエの帝王賞、ケイアイエレガントの京都牝馬S-G3など合計12の重賞に勝った。これまでサイアーランキング上では産駒の数でディープインパクトに対抗していたのが、今年は質で上回った。ディアデラマドレは父の産駒としては定番ともいえる母の父サンデーサイレンスUSAのパターン。母ディアデラノビアはフローラSなど3つの重賞勝ったが、優駿牝馬のほかエリザベス女王杯、ヴィクトリアマイルでいずれも追い込み届かず3着に終わった。こういった一芸に秀でながらタイトルに遠い者を救済する性格も宝塚記念にはあったが、娘にも似た面があるので、一撃がはまる可能性はある。祖母ポトリザリスARGはアルゼンチンでダービーとオークス相当レースに勝った名牝で、3代母チャルディーの子孫には南北アメリカでの活躍馬多数。アルゼンチンも今や北半球化が進んで固有血脈は貴重。祖母の持つ南米血脈と北半球血脈の出合いも活力の源。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2015.6.28
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