2015安田記念


名牝系の力を見直そう

 5週間にわたる東京G1シリーズが一段落する今回、上半期ここまでのG1級レースを振り返ってみると、キングカメハメハ、ディープインパクトの2大種牡馬の大活躍の陰で目立たないながら、在来牝系の健闘が頻度でも質の面でも大きかったのではないだろうか。上半期代表馬を確定的にしたドゥラメンテは5代母パロクサイドGBが英国産の輸入馬であり、桜花賞のレッツゴードンキ、ヴィクトリアマイルのストレイトガールも5代母が輸入馬。ゴールドシップは8代遡って戦前輸入の下総御料牧場の星旗USAが牝祖となる。まとめると下記の通り。

レース名勝ち馬
 代(ex; (4)=4代母)輸入牝馬生年
川崎記念ホッコータルマエ
 (2)アンフォイルドUSA1995
フェブラリーS-G1コパノリッキー
 (4)アリーウィンUSA1984
高松宮記念-G1エアロヴェロシティNZ
 本馬ニュージーランド産
桜花賞-G1レッツゴードンキ
 (5)レディフランダースUSA1969
皐月賞-G1ドゥラメンテ
 (5)パロクサイドGB1959
天皇賞(春)-G1ゴールドシップ
 (8)星旗USA1924
かしわ記念ワンダーアキュート
 (1)ワンダーヘリテージUSA1995
NHKマイル-G1クラリティスカイ
 (2)タイキダイヤUSA1996
ヴィクトリアマイル-G1ストレイトガール
 (5)ラバテラIRE1970
優駿牝馬-G1ミッキークイーン
 (1)ミュージカルウェイFR2002
東京優駿-G1ドゥラメンテ
 (5)パロクサイドGB1959

 母が輸入馬だったのはワンダーアキュートとミッキークイーンの2頭だけで、前者の母ワンダーヘリテージUSAは輸入競走馬として日本で走っている(未勝利)ので、繁殖牝馬として輸入された母から生まれたのはミッキークイーン1頭だけ。今回の出走馬の過半数の母が輸入馬であることが示すとおり、輸入馬が生産の底上げに果たす役割は大きいが、在来牝系もそれに劣らず改良されているのが結果として出ているわけで、これは健全な発展の仕方であるだろう。

 レッドアリオンは京都牝馬S、愛知杯、福島牝馬Sでそれぞれ3着の母エリモピクシー、忘れな草賞勝ちの祖母エリモシューテングを経て米国産の3代母デプグリーフUSAに遡る。3代母は1974年生まれで、その産駒に菊花賞2着のパッシングサイアー、金鯱賞のパッシングパワー、孫に日経新春杯のエリモダンディー、函館記念3連覇のエリモハリアーが出る。えりも農場のスター牝系のひとつで、母の全姉エリモシックはエリザベス女王杯に勝ち、秋華賞と札幌記念で2着となった。母は競走成績では姉に劣るが、繁殖成績では大きく上回っており、初仔リディルはスワンS-G2、デイリー杯2歳Sに勝ち、2番仔クラレントもデイリー杯2歳S-G2など6つの重賞に勝っている。クラレントとは兄弟対決ということになるが、1994年ジャパンC-G1の弟マーベラスクラウン(1着)と兄グランドフロティラ(8着)、2006年天皇賞(秋)の弟スウィフトカレント(2着)、兄アサクサデンエン(7着)、2007年有馬記念-G1の妹ダイワスカーレット(2着)、兄ダイワメジャー(3着)など、たいていの場合で弟や妹の方が先着している。この兄弟の直接対決でも2度レッドアリオンが先着した。母の父ダンシングブレーヴUSAは英2000ギニー-G1、エクリプスS-G1、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS-G1、凱旋門賞-G1に勝った名馬で、英国で5年(1987〜1991年)、日本で8年(1992〜1999年)の長くない期間にそう多くない産駒しか残さなかったが、種牡馬となったコマンダーインチーフGB、ホワイトマズルGB、キングヘイローらのほかにも娘の産駒から多くのG1勝ち馬が現れた(下表)。欧州のものはスプリントか長距離か極端で、日本のスイープトウショウやメイショウサムソンにも現代的な器用さがあるとは言い難いが、力任せの勝負には強いし、このレースは往々にしてそのような展開となって切れ味より力の血統が台頭する。実際に10年前のこのレースではスイープトウショウが2着となった。父のアグネスタキオンは東京芝1600mのG1級レースでロジックとディープスカイのNHKマイルCを含めて(2.2.1.14)となかなかの好成績を残している。


母の父としてのダンシングブレーヴの成果
馬名産地生年毛色生年   G1勝ち鞍
Zomaradah1995鹿DeployJawaher1989伊オークス-G1
Robertico1995鹿RobellinoDance on the Stage1989独ダービー-G1
Mus-If1996鹿センLahibNavajo Love Song1990愛ナショナルS-G1
Beat Hollow1997鹿Sadler's WellsWemyss Bight1990パリ大賞-G1、WRターフクラシックS-G1、マンハッタ
ンH-G1、アーリントンミリオン-G1
Millenary1997鹿Rainbow QuestBallerina1991英セントレジャー-G1
Primo Valentino1997鹿Primo DominieDorothea Brooke1992ミドルパークS-G1
Oasis Dream2000鹿Green DesertHope1991ミドルパークS-G1、ジュライC-G1、ナンソープS-G1
スイープトウショウ2001鹿エンドスウィープUSAタバサトウショウ1993宝塚記念-G1、エリザベス女王杯、秋華賞
メイショウサムソン2003鹿オペラハウスGBマイヴィヴィアン1997天皇賞(春)-G1、天皇賞(秋)-G1、東京優駿、皐月賞
Military Attack2008鹿センOratorioAlmaaseh1988香港クイーンエリザベスU世C-G1、シンガポール
航空国際C-G1
ビッグロマンス2008黒鹿グラスワンダーUSAグリーンヒルマック1999全日本2歳優駿
Esoterique2010鹿Danehill DancerDievotchka1989ロートシルト賞-G1

 モーリスは祖母メジロモントレーがアルゼンチン共和国杯、アメリカJCCなど重賞4勝、4代母メジロボサツは朝日杯に勝ち、桜花賞3着、優駿牝馬2着。子孫には名牝メジロドーベルを筆頭に多くの活躍馬が現れた。8代母が1925年米国産で、社台牧場の吉田善助氏によって昭和5(1930)年に輸入されたデヴォーニアUSA。この第七デヴォーニアを経たメジロボサツの一族は完全にメジロの牝系といっていいのだが、安田記念のデヴォーニアといえば第五デヴォーニアから出たフレッシュボイスが第一。あの鮮やかな差し切りが、同じファミリーでも全然違う血統のモーリスによって再現されたら、それはそれで血統の不思議といえる気がする。

 ドゥラメンテは名牝の仔であり名牝の孫であり名牝の曾孫でもあって、このようなエリート血統がちゃんと結果を出すのは大事なこと。▲ヴァンセンヌは母フラワーパークが高松宮杯、スプリンターズSを制した名スプリンター。母の父ニホンピロウイナーは安田記念、マイルチャンピオンシップに勝った短距離路線確立の功労馬。

 在来牝系の渋太い復元力、サンデーサイレンスUSA系の不振から立ち直る底力などを考えるとメイショウマンボはまだ見限れない。7代母ダイアンケーUSAは2歳で米国から輸入されて快足を誇り、産駒ダイコーターは菊花賞に勝った。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2015.6.7
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