2015ヴィクトリアマイル


繰り返しのインパクト

 G1レベルで牡馬を圧倒するような、たとえばウオッカやブエナビスタといった女傑が同性にコロッと負けたりするのが牝馬限定戦の怖いところ。レーティングが示す数直線的な強さの指標が圧縮された結果が大きな波乱につながることも少なくない。また、このレースではウオッカ、ブエナビスタ、ホエールキャプチャ、ヴィルシーナなどは人気の有無にかかわらず連続して好走しており、盲点に入ったリピーターには十分に注意を払いたい。リピーター調査の範囲を上半期に連続して行われる東京芝1600mのG1・3戦に広げて、父馬の名を並べてみると(下表)、初登場からの4年で早くも9回の馬券圏内突入を果たしたディープインパクトをはじめ、特定種牡馬の寡占が目立つ。ディープインパクトやキングカメハメハに関してはおおむね種牡馬ランキング通りで特に今更何を言うこともないが、ウオッカ以外にもこのコースになると好走したタニノギムレット産駒だとか、フレンチデピュティUSA〜クロフネUSA父仔の穴メーカーぶり、フジキセキの健闘などこの舞台ならではの傾向も見て取れる。

 ディープインパクト産駒は恒例の桜花賞-G1制覇に失敗したので、今年のG1勝ちはまだオーストラリアでのリアルインパクトによるジョージライダーS-G1のみだが、このレースは連覇継続中。4歳と5歳しか連対例のない過去9年でやや優勢の4歳であるショウナンパンドラは、母の父もこのコースに強いフレンチデピュティUSA。下表では太字になっていないが、2002年のNHKマイルCではクロフネUSAとグラスエイコウオーUSAが1、2着を占めた。軽く、切れ過ぎる嫌いのあるディープインパクトに対してはある程度抑制的に働いてバランスを保つのかもしれない。母キューティゴールドは未勝利馬だが、小倉の芝2000mで2着と3着が1度ずつあり、何よりステイゴールドの半妹という筋の良さが光る。この母の3代目ではヴァイスリージェントとノーザンテーストCAN、カナダのE.P.テイラー・ブランドのノーザンダンサー直仔が並ぶ形になる整った配合。ディープインパクト+ステイゴールドの組み合わせの面白さだけでなく、両親が池江郎厩舎のOBとOGという点にも運命的なものがあるかもしれない。


東京1600mG1級レースの3着内種牡馬
着順NHKマイルカップ人気ヴィクトリアマイル人気安田記念人気
20051エンドスウィープUSA2 シングスピールIRE7
2サンデーサイレンスUSA10 エンドスウィープUSA10
3エルコンドルパサーUSA4 El Moxie5
20061アグネスタキオン3サンデーサイレンスUSA2ロイヤルアカデミーUUSA3
2フジキセキ9サンデーサイレンスUSA3シングスピールIRE10
3フジキセキ6サンデーサイレンスUSA4El Moxie8
20071フレンチデピュティUSA17フジキセキ12サンデーサイレンスUSA2
2キングヘイロー1ロイヤルタッチ9ストラヴィンスキーUSA3
3キングヘイロー18サンデーサイレンスUSA8ダンスインザダーク9
20081アグネスタキオン1フジキセキ5タニノギムレット2
2クロフネUSA3タニノギムレット1Towkay5
3アルデバランUUSA14アドマイヤベガ4Victory Gallop9
20091マンハッタンカフェ10タニノギムレット1タニノギムレット1
2タイキシャトルUSA5クロフネUSA11アグネスタキオン2
3アグネスデジタルUSA13フレンチデピュティUSA7Kingmambo10
20101フジキセキ1スペシャルウィーク1エアジハード8
2マンハッタンカフェ5アグネスタキオン8ロドリゴデトリアーノUSA6
3アグネスタキオン3タニノギムレット11タニノギムレット5
20111サクラバクシンオー1キングカメハメハ2ディープインパクト9
2ディープインパクト2スペシャルウィーク1シンボリクリスエスUSA5
3ディープインパクト4キングカメハメハ3タニノギムレット3
20121ダイワメジャー1クロフネUSA4シンボリクリスエスUSA2
2シンボリクリスエスUSA3ディープインパクト7サクラバクシンオー13
3ダンスインザダーク5ディープインパクト3キングカメハメハ15
20131スズカフェニックス10ディープインパクト1キングカメハメハ1
2クロフネUSA6クロフネUSA12マンハッタンカフェ3
3ダイワメジャー8テレグノシス5ディープインパクト12
20141ディープインパクト1ディープインパクト11ハーツクライ1
2ヨハネスブルグUSA17スズカマンボ3サクラバクシンオー16
3チチカステナンゴFR12フジキセキ6マンハッタンカフェ10
太字は出現4回以上

 ヌーヴォレコルトがこの距離で走るのは昨年の桜花賞-G1以来となるが、ハーツクライ産駒の東京芝1600mということでは、昨年のM部門世界1位で安田記念-G1勝ち馬ジャスタウェイが道をつけてくれている。自身は初めての条件でも父系的にはリピーターということになる。同じオーナーの服色で走った母オメガスピリットは小倉と福島の芝1200mで合計3勝。その父スピニングワールドUSAはジャックルマロワ賞-G1(2回)、ムーランドロンシャン賞-G1、ブリーダーズCマイル-G1、愛2000ギニー-G1とマイルG15勝の名馬。欧州や日本ではそれほど成功したとはいえないが、シャトル先のオーストラリアで成功し、直仔ソーンパークがその父系をつないでいる。流浪の血脈というか、欧州色が濃いがゆえに、オセアニアで芽が出たといえる面もあり、そういった面では母の父として、サンデーサイレンスUSA血脈を迎えることで名マイラーの真価を伝えるのかもしれない。

 ▲メイショウマンボは昨年が3番人気で2着。2桁着順が続くし、調教で見せる仕草がもう走るのを嫌がっているようなところもあって、かなり人気は落ちるだろう。祖母のメイショウアヤメは2歳夏にフェニックス賞、3歳春に葵Sに勝ったが、3歳秋以降は2桁着順を続けたかと思うと好走し、人気になると凡走しと、難しい面を見せていたので、そのあたりがより強く表面に現れてきた印象があるが、サンデーサイレンスUSA系はそういった深刻な落ち込みからしばしば立ち直ってきた。そういう場があるとすれば、今のところパーフェクト連対の東京、昨年2着に食い込んだこの舞台が、可能性としては最も高い。父のスズカマンボにしても、4歳春の天皇賞に勝つまではかなりのらりくらりとした成績ではあったので、ピリッとするまでに時間を要する面もあるのだろう。ミスタープロスペクター×ヌレエフのキングマンボとミスタープロスペクター直仔で祖母がスペシャルのジェイドロバリーUSAはよく似た強い良血を受けているので、両者が3代目に並び、そこにロベルト系のグラスワンダーUSAと大種牡馬サンデーサイレンスUSAが加わる配合は据わりが良く、ダイアンケーUSAに発する古い牝系に現代的な活力を与えている。

 ストレイトガールはどうもツキのないレースを重ねるうちに6歳を迎えたが、フジキセキ産駒の東京1600mでの強さは芝ダート不問で定評のあるところ。サンデーサイレンスUSA系の父とタイキシャトルUSA牝馬の組み合わせはヘイロー3×4となって、この配合は昨年の日本ダービー馬ワンアンドオンリーが成功した。祖母の父デインヒルUSAは大レース、特に東京芝1600mでは安田記念のフェアリーキングプローンAUSや同レース2着のブレイクタイムなど確かな実績を残した血脈。3代母タイセイカグラの産駒には神戸新聞杯のオースミブライトと関屋記念のオースミコスモがいて、後者の父はフジキセキだった。4代母の産駒シャダイカグラは1989年の桜花賞馬。この勝負服の勢いに乗って6歳馬初の勝利があるかも。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2015.5.17
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