2015秋華賞


黒船は日曜出航

 秋華賞は今年で20回目を迎える。古馬に開放されたエリザベス女王杯を引き継ぐ形ながら、内回り2000mの設定となったせいもあるのか、2桁人気馬の勝利はブゼンキャンドル(1999年)、ティコティコタック(2000年)、ブラックエンブレム(2008年)の3度あり、馬連94,630円(1999年)とか3連単10,982,020円(2008年)の大波乱もあった。勝ち馬の父を見ても第1回の勝ち馬ファビラスラフインFRがファビュラスダンサーだったのに始まって、順にメジロライアン、ブライアンズタイムUSA、モガミFR、サッカーボーイ、ダンシングブレーヴUSA、デインヒルUSA、サンデーサイレンスUSA、エンドスウィープUSA、サンデーサイレンスUSA(2回目)、キングヘイロー、アグネスタキオン、ウォーエンブレムUSA、マンハッタンカフェ、キングカメハメハ、ジャングルポケット、ディープインパクト、スズカマンボ、ディープインパクト(2回目)とほかのレースにない多様さを示している。サンデーサイレンスUSA産駒がなかなか勝てず、最終的にスプリントのタイトルより少ない2勝にとどまっているのもかの大種牡馬の実績を考えれば苦手だったと見てもいいのかもしれない。サンデーサイレンスUSAの正統後継者たるディープインパクト産駒が既に2勝を挙げているのはさすがではあるが、これとてサンデーサイレンスUSA同様に意外な苦戦を強いられる可能性がなくはない。最有力馬を抱えての5頭出しという圧倒的な戦力が逆に内回り2000mで隙の生じる要因とはならないだろうか。そこで、秋華賞未勝利種牡馬に注目してみようということになる。
 フィリーサイアーとしてのクロフネUSAの実績は改めて挙げる必要もないが、下表に示したように母の父サンデーサイレンスUSAは群を抜いて多い。クロフネUSA全産駒の血統登録されたのが1,489頭、出走頭数は1,187頭だから、2割はサンデーサイレンスUSAが母の父ということになる。この組み合わせは確かに優秀だが、数が多いから活躍馬もそれに比例しているという面もある。ホワイトエレガンスはそのクロフネUSA産駒の代表的パターンを踏襲していて、ヴィクトリアマイル-G1のホエールキャプチャとは頭文字と勝負服が同じ。ホエールキャプチャの3代母がエリザベス女王杯のタレンティドガールだったのに対して、こちらは祖母がマイルチャンピオンシップの勝ち馬シンコウラブリイIRE。その子孫には中京記念のロードクロノス、関東オークスのシンメイフジ、セントライト記念2着のトレジャー、チューリップ賞2着のレディミューズなど多くの活躍馬がいる。3代母の子孫も繁栄していて、エプソムCのタイキマーシャル、京都牝馬Sのハッピーパス、札幌2歳S-G3のコディーノ、セントライト記念のキングストレイル、アルゼンチン共和国杯2着のハッピールックなどが現れた。ただ、輸入競走馬ブームの先頭を走ったシンコウラブリイIREに並ぶほどの子孫近親がいるかというと、それはこれからの話。名牝から1代おいて名馬が出るスキップ現象が起きるとすれば、欧州血統で固めたシンコウラブリイIREにサンデーサイレンスUSA、クロフネUSAと米国血脈を配合して大転換を遂げたこの馬ではないかという「そろそろあるかも」程度の推測だ。ホエールキャプチャも欧州血統から米国血統への転換という点では似ているし、いずれもちゃんと日本的風味を持っているのが面白いところ。


クロフネUSA産駒の母の父別ランキング
母の父登録
頭数
出走
頭数
勝馬
頭数
収得賞金
(万円)
主な活躍馬
サンデーサイレンスUSA327261186611662ホエールキャプチャ、フサイチリシャール、
ブラボーデイジー、ユキチャン他
トニービンIRE524334135986カレンチャン、クロフネサプライズ、
アップトゥデイト(障害)
フジキセキ73553766684ホワイトフーガ、トウショウカズン
ダンスインザダーク55412948002サンライズモール
Nureyev(USA)88547189スリープレスナイト
ノーザンテーストCAN33302044302ベストロケーション
Seeking the Gold(USA)15141135066ホワイトメロディー、ゴールデンハインド
アグネスタキオン52331834346ピーエムデメテル
ウイニングチケット54332187ブラックシェル、シェルズレイ
ブライアンズタイムUSA28211331840シゲルスダチ
JBISサーチ「サイアーニックスランキング」より(10月13日現在)

 春のテーマがキングカメハメハのディープインパクトに対する優勢だったが、ドゥラメンテが戦線を離脱し、秋を迎えた前哨戦でレッツゴードンキがディープインパクト産駒に完敗すると、それももう忘れられかけているのではないだろうか。しかし、ローズSで3着に食い込んだトーセンビクトリーはキングカメハメハ産駒。このように新勢力の台頭があるということは、まだ勢いがある証拠。トーセンビクトリーは母トゥザヴィクトリーがエリザベス女王杯勝ち馬。現代の最大勢力というべきキングカメハメハ×サンデーサイレンスUSAで、前段のクロフネUSA産駒にならうと血統登録が422頭、出走頭数が359頭(10月13日現在)あり、キングカメハメハ産駒は3割が母の父サンデーサイレンスUSAということで、この比率はクロフネUSAを凌ぐ。トーセンビクトリーは全兄トゥザグローリー、トゥザワールドともにG1にあと一歩という位置だが、性が違い、厩舎も違えば別の良さが出てくるかもしれない。

 ディープインパクト産駒では上昇の勢いがある▲タッチングスピーチ。母リッスンIREは英2歳G1のフィリーズマイル勝ち馬で、祖母ブリジッドの孫に英2000ギニー-G1などマイルG1・4勝のヘンリーザナヴィゲーター、孫にブリーダーズCターフ-G1のマジシャンがいる。3代母ラヴラヴィンの孫にはフォレ賞-G1勝ち馬で安田記念でも3着となったドルフィンストリートFRがいるので、日本にも馴染みの深い牝系。サドラーズウェルズ牝馬にサンデーサイレンスUSAまたはその直仔が配合されたケースではアメリカンオークス-G1のシーザリオ、天皇賞(秋)-G1のヘヴンリーロマンス、皐月賞-G1のアンライバルドが出ていて、シーザリオは2400mの優駿牝馬にも勝ったが、どれも2000mで強烈な決め手を発揮した。そこから推測するに、この配合は2000mがベストであるのかもしれない。

 ミッキークイーンの母はドラール賞-G2(1950m)、メゾンラフィット杯-G3(2000m、2回)などに勝った中距離馬で、一族の重賞勝ち馬は4代母の孫にようやく南アフリカのG3勝ち馬が現れる程度。5代母の孫に英2000ギニー-G1に勝ち種牡馬として成功したノノアルコUSAがいる。その半弟ストラダビンスキーIREも輸入されているので日本とは30年越しの縁のある牝系で、このような休眠牝系を覚醒させる技はディープインパクトもサンデーサイレンスUSA並みのものがあるようだ。

 アスカビレンの父ブラックタイドはディープインパクトの全兄で秋華賞未勝利種牡馬。この世代の牡馬はキタサンブラックをはじめ頑張っていて、その勢いが牝馬に波及するかも。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2015.10.17
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