2015天皇賞・春


乱戦を絶つ勇者

 春の天皇賞といえば、かつては堅い大レースの代名詞でもあって、1970年代の1番人気馬の平均着順は3.9着。以降、1980年代2.6、1990年代2.4と平穏に推移し、世紀の変わり目もテイエムオペラオーが順当に連覇したのだが、その後、一天にわかにかき曇り、2000年代の平均は4.4着、2010年代に入ってからここまでの5回では7.8となってしまった。2006年のディープインパクト以来1番人気馬が勝っておらず、その連敗記録は全G1中最長を継続中だ。

 それを踏まえて長打力優先、当たれば大きいところを狙うとするとクリールカイザーに妙味がある。父のキングヘイローは高松宮記念勝ち馬だが、3歳三冠は皆勤して(2)(15)(5)。産駒にはローレルゲレイロのようなスプリンターも出れば、カワカミプリンセスのような優駿牝馬勝ち馬もいて、ダンシングブレーヴUSA系らしく力ずくの競馬に持ち込めれば強い。名馬ダンシングブレーヴUSAは多くの産駒を残すことができなかったが、3年目の産駒からコマンダーインチーフGBとホワイトマズルGBが現れ、日本に輸入後は初年度産駒からエリザベス女王杯のエリモシック、2年目には桜花賞馬キョウエイマーチ、3年目にキングヘイローが出現している。コマンダーインチーフGB、ホワイトマズルGBは輸入されていずれも成功し、特にホワイトマズルGBは2004年のこのレースを10番人気で逃げ切ったイングランディーレの父としても知られる。もっとも、ホワイトマズルGB産駒のアサクサキングスはこのレースで2度1番人気となって敗れているので、信頼性には乏しいわけだが、そのような振幅の大きさも穴血統ならでこそとはいえる。ホワイトマズルGBの代表産駒の1頭スマイルトゥモローの甥にあたるのがクリールカイザーで、4頭のきょうだいはいずれも父がホワイトマズルGB。スマイルトゥモローの再現を狙ったその配合ではスマイルプライズが1勝を挙げたのみで、父がキングヘイローに替わった本馬がG2勝ちに至った。母の父サッカーボーイは直仔に2003年のこのレースの勝ち馬ヒシミラクルがいて、ブルードメアサイアーとしても2009年の勝ち馬マイネルキッツを出している。こちらもまた直仔アイポッパーが1番人気4着の2007年を含めこのレースで4度敗れていること、近年はいわゆるサッカーボーイ一族のステイゴールドの産駒が波乱の中心となっていることを考えると危ない臭いがしないわけではないが、血統表にダンシングブレーヴUSA×サッカーボーイが並ぶ点で魅力がリスクを上回る。


ダンシングブレーヴUSA系の長打力
ダンシングブレーヴUSA DANCING BRAVE(USA)(牡、鹿毛、1983-1999、父Lyphard、
   母Navajo Princess、母の父Drone)英仏米で10戦8勝、全欧3歳チャンピオン、英2000ギニー-G1、凱
   旋門賞-G1、キングジョージVI世&クイーンエリザベスS-G1、エクリプスS-G1
 コマンダーインチーフGB Commander in Chief(GB)(牡、鹿、1990-2007、母の父
 |  Roberto)愛3歳チャンピオン、英ダービー-G1、愛ダービー-G1
 |アインブライド(牝、鹿、1995、母の父パーソロンIRE)阪神3歳牝馬S
 |レギュラーメンバー(牡、黒鹿、1997、ナスルエルアラブUSA)JBCクラシック、川崎記念、ダー
 |  ビーグランプリ
 |マイネルコンバット(牡、鹿、1997、ノーザンテーストCAN)ジャパンダートダービー
 ホワイトマズルGB White Muzzle(GB)(牡、鹿、1990、母の父Ela-Mana-Mou)伊3歳
 |  チャンピオン、伊ダービー-G1、ドーヴィル大賞-G2
 |イングランディーレ(牡、鹿、1999、母の父リアルシャダイUSA)天皇賞(春)、日経賞、ブリーダー
 |  ズゴールドC、ダイヤモンドS、白山大賞典
 |スマイルトゥモロー(牝、鹿、1999、サウスアトランティックIRE)優駿牝馬、フラワーC
 |シャドウゲイト(牡、黒鹿、2002、サンデーサイレンスUSA)シンガポール航空国際C-G1、中山金
 |  杯-G3、中京記念-G3
 |アサクサキングス(牡、鹿、2004、サンデーサイレンスUSA)菊花賞、阪神大賞典-G2、京都記
 |  念-G2、きさらぎ賞
 |ニホンピロアワーズ(牡、青鹿、2007、アドマイヤベガ)ジャパンCダート-G1、東海S-G2、ダイオ
 |  ライト記念、名古屋グランプリ、平安S-G3、名古屋大賞典、白山大賞典
 キングヘイロー(牡、鹿、1995、母の父Halo)高松宮記念、中山記念、東京新聞杯、東スポ杯3歳S
  カワカミプリンセス(牝、鹿、2003、母の父Seattle Slew)優駿牝馬、秋華賞
  ローレルゲレイロ(牡、青鹿、2004、テンビーGB)高松宮記念-G1、スプリンターズS-G1、阪急杯
    -G3、東京新聞杯-G3
  メーデイア(牝、鹿、2008、Loed Avie)JBCレディスクラシック、レディスプレリュード、スパーキング
    レディーC、TCK女王盃×2、マリーンC

 ゴールドシップは父ステイゴールドの産駒がこのレースを一昨年、昨年と連覇。母の父メジロマックイーンは1991年、1992年に連覇を達成していて、孫としては「祖父さんの時代とは時計が4つも違うんだよ!」と文句のひとつもあろうかとは思うが、少なくとも血統表の上4分の3は春の天皇賞血統と呼ぶよりほかない。祖母がプルラリズムUSA×トライバルチーフGB×ラークスパーIREという軽量級配合なので、これが超長距離になると底力不足となるのか、あるいはメジロティターンのスノッブ、プルラリズムUSAのシカンブルと相近い血が組み合わさることで気難しさが増幅されるのか、そのあたりはよく分からないが、体調が良ければ機嫌良く走ることができ、機嫌良く走れれば少々不向きな条件であっても踏ん張りが利くもので、そういった部分が結果に大きく現れる馬ということなのかもしれない。

 今年はここまで桜花賞-G1、皐月賞-G1といずれもキングカメハメハに奪われ、押され気味のディープインパクトだが、東京・京都の開催となってJRA種牡馬ランキング首位の座は奪還した。このあとには東京G1シリーズが控えているので、その勢いは増しこそすれ弱まることは考え辛い。▲キズナは勝ちから遠ざかっているとはいえ大きく崩れているわけでもないし、骨折明けから復活に向けての上昇のさなかにあると見れば、復帰後の内容に悲観すべきではない。1番人気での勝利が実現すれば父ディープインパクト以来であり、パシフィックプリンセス系としてはイトコのビワハヤヒデ以来21年ぶりの天皇賞(春)制覇となる。ただ、年を重ねるにつれて馬体にストームキャットの影響が濃くなっている点を見ても、超長距離をこなすには何らかの工夫が必要かとは思う。

 今年は3歳牝馬にマンハッタンカフェ産駒の活躍馬が多く現れていて、初期のステイゴールド、後期のディープインパクトに対して中期サンデーサイレンスUSA後継種牡馬が巻き返し態勢にあるようだ。ネオユニヴァースは初年度産駒から皐月賞馬アンライバルドと日本ダービー馬ロジユニヴァースを出し、2年目の産駒からもヴィクトワールピサを送ったが、その後は種牡馬ランキングのベスト10前後に落ち着いた。しかし、今年のクラシック世代にはブライトエンブレムなどが現れて、久しぶりに華やか。ネオユニヴァース産駒のサウンズオブアースはニューヨーク牝馬三冠の4代母クリスエヴァートに遡る名門ファミリー。チーフズクラウンやクラシッククラウン、サイトシークやテーツクリークなど多くのG1勝ち馬が現れる土台に、ホイストザフラッグ、セクレタリアト、ディキシーランドバンドと米国血統でも底力のあるものを重ねられた。特に母の父は菊花賞とメルボルンC-G1に勝ったデルタブルースや有馬記念2着のアメリカンボスらのブルードメアサイアーでもある。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2015.5.3
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