2015有馬記念


ヒーローは連勝がお好き

 2014年に日本調教馬は海外で29頭が40回出走して4つのG1を制した。今年も28頭が35回出走して3つのG1とひとつの韓国ローカルG3に勝った。昨年はシーズンの初期にドバイでジャスタウェイとジェンティルドンナが世界最高レベルのパフォーマンスを示したが、今年のモーリスとエイシンヒカリの快挙は12月の香港。下表は有馬記念G1のプレレーティング(レースが行われる前の各馬の評価=オフィシャルレーティング)を過去に遡って並べたもので、国際的な成功のピークの位置の違いが間接的にこのレースの質の違いにも影響し、ことプレレーティングに限れば去年と今年の落差が大きくなった。115以上が9頭いて、そのうち2頭が120であれば立派なもので決して低レベルということはないが、個々のレーティングの推移を見ると、ゴールドシップは阪神大賞典-G2で前年までの自己ベストを下回る120の評価を得たきり天皇賞(春)-G1の勝利によってそれが更新されることはなく、ラブリーデイも宝塚記念-G1、京都大賞典-G2、天皇賞(秋)-G1でずっと120が続いた。要するに中長距離部門では上半期の既成勢力を乗り越える者が現れなかったということになる。このまま新たな大物の登場を見ることなく暮れてしまうのだろうか? いや、そんなことはない、最後にはちゃんと帳尻が合うはずだというのが今回のテーマ。
 今年最大の上昇を見せたのはマイル部門のモーリスで、条件級からスタートした6連勝の結果、アジア3大マイル戦を完全制覇した。その父スクリーンヒーローは条件戦を惜敗したあとのアルゼンチン共和国杯-G2に勝つと余勢を駆ってジャパンC-G1も勝った。突破力というのか、ロベルト系がある程度共通して持つそのような力がこの父系には顕著に備わっているようで、その源泉は1998、99年とこのレースを連覇したグラスワンダーUSAであると考えることもできる。ゴールドアクターは母が障害2勝のヘイロンシン。朝日チャレンジC3着のキョウワアリシバUSAの産駒は3頭が繁殖牝馬となり、この母が唯一の現役という希少な存在。それ以上に、米2冠とBCクラシック-G1などG1・9勝の名馬アリシーバの血を継ぐ存在としても今や貴重になった。牝系は4代遡って神戸新聞杯のホウシュウリッチや阪神障害Sのホウシュウアンダーが出るミアンダーGB系で、ほかに目黒記念のマルタカタイソンや京都記念(秋)のゴウカイが出ている。きれいに整った配合とはいい難いが、父の産駒はこのように母に多様な血を持っているのがいいようだ。


有馬記念出走馬のプレレーティング〜過去5年と今年
 201520142013201220112010
130 ジャスタウェイ    
129      
128 エピファネイア    
127      
126      
125  オルフェーヴル  ブエナビスタf
124 ゴールドシップゴールドシップ ブエナビスタf 
123 ジェンティルドンナf ルーラーシップ  
122    ヴィクトワールピサ
トーセンジョーダン
 
121   エイシンフラッシュ
ダークシャドウ
アーネストリー
ヒルノダムール
 
120ゴールドシップ
ラブリーデイ
  トゥザグローリーオルフェーヴル
トゥザグローリー
ドリームジャーニー
ペルーサ
119ラストインパクトワンアンドオンリートーセンジョーダン ジャガーメイルヴィクトワールピサ
レッドディザイアf
118ワンアンドオンリーフェノーメノアドマイヤラクティトレイルブレイザーエイシンフラッシュ
ルーラーシップ
エイシンフラッシュ
117キタサンブラック
サウンズオブアース
ウインバリアシオン
ラキシスf
ダノンバラード
ルルーシュ
ゴールドシップ
ビートブラック
ローズキングダム 
116アドマイヤデウス
マリアライトf
ヴィルシーナf   メイショウベルーガf
115リアファルトゥザワールド
トーセンラー
メイショウマンボf
ラストインパクト
   オウケンブルースリ
ダノンシャンティ
ネヴァブション
プレレーティングは当該レース前1年間に得た各馬のオフィシャルレーティングの最高値。牝馬(f)は4点を加えてランキング。太字は3着以内

 ディキシーランドバンドといえばノーザンダンサー直仔としてもブルードメアサイアーとしての実績はトップクラスで、わが国でも菊花賞馬デルタブルースの母の父として知られるが、特にこのレースではアメリカンボスUSAの大駆けが思い出される。ディキシーランドバンドの娘の仔サウンズオブアースはもう長く勝っていないが、本気を出せば強いネオユニヴァースの産駒で、半兄ドミニカンはブルーグラスS-G1の勝ち馬。祖母の父の米三冠馬セクレタリアトからも底力を受けている。牝系はタップダンスシチーUSAやチーフズクラウンの出る名門で、4代母クリスエヴァートは1974年のニューヨーク牝馬三冠を制して最優秀3歳牝馬のタイトルを得た。4歳暮れではあるが、まだ未知の部分を残した無冠の大器であるかもしれない。

 有馬記念といえばステイゴールドの舞台でディープインパクト産駒は出走例そのものが少なかったが、昨年は一気に7頭出しを敢行してジェンティルドンナが4番人気ながら1着となった。あとはラキシスの6着が最高なので、ジェンティルドンナが強かっただけである可能性は高いが、ディープインパクト自身、有馬記念は2着1回と圧勝1回がある。今回は3頭出しだが、ジャパンC-G1・2着のラストインパクトでもそれほど上位人気にはならないのだから何とも不気味。▲マリアライトはジャパンダートダービーのクリソライトの半妹で神戸新聞杯-G2のリアファルの半姉。母の全弟にはジャパンCダートのアロンダイトがいる。A級ダート一族から芝でも活躍するようになったのは母の父エルコンドルパサーUSAの良さがいろいろな発現の仕方で出ているのだろうし、種牡馬の良さを生かす有能な繁殖牝馬ということでもある。何といってもヌーヴォレコルトに勝っているのが大したもので、この秋ヌーヴォレコルトを負かしたのはほかにショウナンパンドラとエイシンヒカリ。もう一段階上の活躍を期待していいのではないか。

 弟のリアファルは父が2004年の勝ち馬。サンデーサイレンスUSA系種牡馬の増加に比例しているのが大レースの父仔制覇。今ではすっかり珍しいことではなくなった。これは偉大な血統を手に入れただけでなく、それが手の内に入っているということであり、この20年あまりをかけてサンデーサイレンスUSAが日本の競馬にもたらした大きな果実のひとつ。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2015.12.27
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