2014宝塚記念


大躍進の経緯

 ヌーヴォレコルトの優駿牝馬-G1に始まって、東京優駿-G1のワンアンドオンリー、安田記念-G1のジャスタウェイと春の東京G1シリーズの後半はハーツクライ産駒が席捲した。これが横糸とすると、宝塚記念にはここ20年近くサッカーボーイ血統が特に強いという縦糸がある。下表は2010年宝塚記念-G1のこの欄で使ったものに新しい成績を継ぎ足したリサイクル品だが、近年はステイゴールド産駒が実績を残していることもあって、サッカーボーイ血脈の狩場というべきこのレースの性格はより強まっている。ハーツクライという横糸と、サッカーボーイという縦糸、ここでこれらが都合良く交わることなどあるのだろうかと思ったら、ありました。フェイムゲームは父がハーツクライで祖母ベルベットサッシュがサッカーボーイの1歳下の全妹。11も歳の離れた半兄バランスオブゲームは2006年のこのレースで9番人気ながら果敢な逃げでディープインパクトの3着に粘った。一般に晩成の傾向が強いハーツクライ産駒ながら、本馬は3歳1月の時点で京成杯-G3に勝っている。そのほか3歳で最初の重賞勝ちを収めているハーツクライ産駒はジャスタウェイ(アーリントンC-G3)、ウインバリアシオン(青葉賞-G2)、ヌーヴォレコルト(優駿牝馬-G1)。大物に育つ場合は、どこかで中だるみや停滞期があるにせよ、早くに素質の片鱗を示しているということだ。ワンアンドオンリーなどはラジオNIKKEI杯2歳S-G3に勝つような成長の早さが、3歳春の時点での王座奪取につながったといえるだろう。フェイムゲームもこれまでの実績、示した能力では上位に遠く及ばないのが明らかだが、昨秋のジャスタウェイの突然の覚醒の例もある。母方のサッカーボーイ血脈のサポートも見込めるこここそが大変身の絶好のチャンス。


サッカーボーイ血統の活躍
サッカーボーイ(牡、1985年生、栗毛、白老産、父ディクタスFR、母ダイナサッシュ、母の父ノーザンテーストCAN)11戦6勝、最優秀3歳牡馬(旧表記)、最優秀スプリンター【主な勝ち鞍】マイルチャンピオンシップ、阪神3歳S、函館記念、中スポ4歳S
年度着順人気馬名性齢備考
1993イクノディクタス牝6父ディクタスFR×母の父ノーザンテーストCAN
199511ゴーゴーゼット牡4父サッカーボーイ
1998ステイゴールド牡4母がサッカーボーイの全妹
1999ステイゴールド牡5母がサッカーボーイの全妹
1110インターフラッグ牡6父ノーザンテーストCAN×母の父ディクタスFR
2000ステイゴールド牡6母がサッカーボーイの全妹
2001ステイゴールド牡7母がサッカーボーイの全妹
2002ツルマルボーイ牡4母の父サッカーボーイ
2003ヒシミラクル牡4父サッカーボーイ
ツルマルボーイ牡5母の父サッカーボーイ
1111バランスオブゲーム牡4祖母がサッカーボーイの全妹
2004ツルマルボーイ牡6母の父サッカーボーイ
2006バランスオブゲーム牡7祖母がサッカーボーイの全妹
13アイポッパー牡6父サッカーボーイ
2008ドリームパスポート牡5祖母がサッカーボーイの全妹
2009ドリームジャーニー牡5父の母がサッカーボーイの全妹
2010ナカヤマフェスタ牡4父の母がサッカーボーイの全妹
ドリームジャーニー牡6父の母がサッカーボーイの全妹
201110ドリームジャーニー牡7父の母がサッカーボーイの全妹
2012オルフェーヴル牡4父の母がサッカーボーイの全妹
13ナカヤマナイト牡4父の母がサッカーボーイの全妹
2013ゴールドシップ牡4父の母がサッカーボーイの全妹
フェノーメノ牡4父の母がサッカーボーイの全妹
ナカヤマナイト牡5父の母がサッカーボーイの全妹

 名馬オルフェーヴルの功績のひとつはステイゴールド産駒ならいつどんなことが起こっても驚いてはいけないという認識を残していったことで、特に母の父メジロマックイーンまで共通するゴールドシップは簡単にムラ駆けの癖馬というレッテルを貼って済まされそうなことになってきた。しかし、これまでの成績を「中山・阪神」と「東京・京都」に分けてみれば、前者ではほぼ完璧な成績を残しているのが分かる。後者ではそれぞれ最初だけはわけも分からず走ったが、その後は良くて掲示板。京都が嫌いで東京がイヤなのだ。だから今回は問題になるとすればこのレースに連覇がないというジンクス程度のことで、巻き返してくる確率はかなり高い。実際、ステイゴールド×メジロマックイーンの配合は自身とオルフェーヴル、その全兄ドリームジャーニーで3勝しており、宝塚記念血統といっていいほどのもの。ドリームジャーニーとオルフェーヴルはノーザンテーストCAN4×3のインブリードが特徴的だったが、こちらは祖母の父プルラリズムUSA経由でノーザンテーストCANと同じカナダのE.P.テイラーの手になるノーザンダンサー直仔、英ダービー馬ザミンストレルの血を取り入れている。3代母の父はプリンスリーギフト直仔のトライバルチーフGBだから、ステイゴールドの祖母ダイナサッシュ(ノーザンテーストCAN×プリンスリーギフト)と祖母パストラリズムはノーザンダンサー×プリンスリーギフトの相似配合でもある。6代母の桜花賞馬ハマカゼ(繁殖名梅城)を経て下総御料牧場が昭和6年にアメリカから輸入した星旗USAに遡る牝系は、古い名門であると同時に、オルフェーヴルにない土着性をゴールドシップに伝えているはずで、それが渋太い成長力につながるならば、お気に入りの阪神でこれまで以上に旺盛な競走意欲を示す可能性もあるだろう。

 ▲ホッコーブレーヴは5代母がゴールドシップと同じ風玲。古い名門ながら近親が地味な点もゴールドシップと共通する。父マーベラスサンデーはサンデーサイレンスUSA初年度産駒の一頭で1997年の5歳時にこのレースに勝った。マーベラスサンデー自身は3歳時の骨折などが原因で本格化が遅くなったわけだが、シルクフェイマスやネヴァブション、スマートギアなど産駒は健康でも晩成になる場合が多いので、そういう血統だったのだろう。条件級に定着するかと思えたホッコーブレーヴも6歳にして目覚めたあたりは、この父の特性が極端な形で出たものといえる。母の父として2005年の勝ち馬スイープトウショウ、2007年の2着馬メイショウサムソンを送ったダンシングブレーヴUSAは、香港でも娘の仔ミリタリーアタックが活躍しているように、多湿の季節の芝で馬力が生きる面があるかもしれない。

 ウインバリアシオンは青葉賞-G2勝ちから東京優駿-G1 2着と、初年度産駒の大将格としてハーツクライ産駒群を引っ張ってきたわけだが、同世代にオルフェーヴルがいて、そして自身、屈腱炎との長い戦いもあり、いつの間にか同じ父の後輩に次々と抜かれていくことになった。ハギノカムイオー、スズカコバンの時代から、このように才能はあるのに少しの運に恵まれずにタイトルから縁遠い馬を救済、というよりそれに正当な評価を与える機会となる性格が宝塚記念にはある。これはこのレース独特ですね。父がサンデーサイレンスUSA直仔で、母の父がストームバード、祖母の父がダマスカス直仔タイムフォーアチェンジという並びは、ディープインパクト×ストームキャット×ダマスカスで構成された日本ダービー馬キズナの先駆けにも変奏にも見える。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2014.6.29
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