2014桜花賞


掘ればまだ出る金鉱脈

 ディープインパクトの初年度産駒がクラシック年齢に達した2011年から昨年まで、桜花賞-G1はその産駒が3連覇している。2011年は3頭出しで(1)(4)(6)、2012年は4頭出しで(1)(3)(6)(9)着、2013年は2頭出しで(1)(2)着を占めた。4連覇濃厚と見られている今年はしかし、究極の少数精鋭ともいえるハープスター1頭。3月末までに新馬・未勝利を勝ち上がった牝馬の頭数は2011年(2008年生世代)15頭、2012年13頭、2013年23頭、そしてこの世代の2014年が24頭だから、なぜか勝ち上がり数が増えるほど桜花賞出走馬が減るという現象が起きている。ディープインパクト産駒の出走馬が減ったぶんというわけでもないだろうが、今年の場合はリーディング上位の種牡馬が2位のキングカメハメハなどを除いてまんべんなく産駒を送り込んでいる印象があって、これはサンデーサイレンスUSA旋風がひと休みした1997年クラシックで代わってブライアンズタイムUSA産駒が大暴れしたのとも違っている。いずれにしてもディープインパクト産駒がデビューして以来、クラシックに1頭だけ出走するのは初めてのことなので、これまで圧倒的な強さを示してきた阪神1600m、東京2400mでのクラシック成績も少しは変わってくるのかもしれない。
 桜花賞、優駿牝馬に勝った名牝ベガは繁殖牝馬として初年度にダービー馬アドマイヤベガを生み、翌年生まれたアドマイヤボスはセントライト記念に勝った。1年おいて生まれたアドマイヤドンは朝日杯勝ちのあと、ダート王となった。その後3年は生後直死、種付けせず、不受胎と続いたが、2003年生まれのキャプテンベガは重賞勝ちこそないものの、東京新聞杯-G3 2着などオープンで活躍した。ここまですべて牡馬。1年不受胎で空いて2005年に生まれたファルブラヴIRE産駒が、この名牝の系統をつなぐ唯一の牝駒となった。そのヒストリックスターが3年目に生んだのがハープスターだ。母の父としてのファルブラヴIREにまだ実績がないのはこの母の世代が初年度産駒というくらいだから数が少なくて当然だし、ディープインパクトはスプリンター牝馬からでもジェンティルドンナのような堂々たるチャンピオンを送り出すのだから、大抵のことは心配しなくてもいい。ただ、最初に述べたディープインパクトを巡る微妙な風向きの変化に何の理由もないとは考えづらい。なぜ今回ディープインパクト産駒が1頭しか出てこられなかったのか。これはハープスターの強さとは関係がないといえばないが、気には留めておきたい。

 2歳戦でディープインパクト産駒群の出ばなをくじいたのが新種牡馬ヨハネスブルグUSA産駒で、直接対決がほとんどなくても、2歳種牡馬ランキングでは秋までドッグファイトを展開する健闘を見せた。ヨハネスブルグUSA自身は2歳で神童、3歳になったらただの馬という早熟な競走成績を残し、産駒の傾向もそれをなぞると考えて間違いないのだが、アメリカのスキャットダディは2歳時にシャンペンS-G1に勝ち、ブリーダーズCジュヴェナイル-G1、3歳緒戦のホーリーブルS-G3と連敗しながらファウンテンオブユースS-G2、フロリダダービー-G1と連勝してみせた。フランスのサージュブールは4歳になってイスパーン賞-G1が重賞初制覇となったし、オーストラリアのワンスワーワイルドは3歳秋に2400mのAJCオークス-G1に勝った。ホウライアキコにそれらヨハネスブルグUSA産駒の良い意味での例外である可能性をもたらすのは母の父サンデーサイレンスUSAの存在だ。下表は国内でのG1級レースにおける母の父サンデーサイレンスUSAのいいところだけを抽出しているので、実際には着外の山が累々と重なっている点に注意すべきだが、例えば「2008年桜花賞レジネッタ12番人気43.4倍」の文字列に飛びつくのも悪くはない。ヨハネスブルグUSAのスピードで突っ走ってきたホウライアキコが、窮地に立ってサンデーサイレンスUSAの底力を発揮する可能性は残されているのではないだろうか。3代母は英ダービー馬セクレトUSAの全妹。1984年の英ダービーでは英2000ギニーまで6戦無敗のエルグランセニョールが単勝1.7倍の大本命となり、悠々と抜け出したところを懸命に追ってきた単勝15倍のセクレトUSAが短頭だけ差した。30年前の大物食いの再現があるかもしれない。


母の父としてのサンデーサイレンスの活躍(国内GT級レース)
年月日レース距離勝ち馬性齢人気単勝
オッズ
2005.04.10桜花賞1600ラインクラフト牝324.6エンドスウィープUSA
05.08NHKマイルC1600ラインクラフト牝323.9エンドスウィープUSA
12.11朝日杯FS1600フサイチリシャール牡223.2クロフネUSA
2006.10.22菊花賞3000ソングオブウインド牡3844.2エルコンドルパサーUSA
2007.06.24宝塚記念G12200アドマイヤムーン牡436.7エンドスウィープUSA
10.21菊花賞3000アサクサキングス牡348.4ホワイトマズルGB
11.24JCダートG1ダ2100ヴァーミリアン牡512.3エルコンドルパサーUSA
11.25ジャパンCG12400アドマイヤムーン牡4510.9エンドスウィープUSA
12.02阪神JF1600トールポピー牝236.6ジャングルポケット
2008.02.24フェブラリーSG11600ヴァーミリアン牡612.4エルコンドルパサーUSA
04.13桜花賞1600レジネッタ牝31243.4フレンチデピュティUSA
05.25優駿牝馬2400トールポピー牝349.7ジャングルポケット
11.30ジャパンCG12400スクリーンヒーロー牡4941.0グラスワンダーUSA
12.21朝日杯FS1600セイウンワンダー牡225.4グラスワンダーUSA
2009.02.22フェブラリーSG1ダ1600サクセスブロッケン牡4620.6シンボリクリスエスUSA
12.20朝日杯FS1600ローズキングダム牡212.3キングカメハメハ
2010.05.02天皇賞(春)G13200ジャガーメイル牡625.9ジャングルポケット
10.24菊花賞G13000ビッグウィーク牡3723.2バゴFR
11.28ジャパンCG12400ローズキングダム牡348.8キングカメハメハ
12.19朝日杯FSG11600グランプリボス牡2514.6サクラバクシンオー
2011.05.08NHKマイルCG11600グランプリボス牡314.6サクラバクシンオー
10.16秋華賞G12000アヴェンチュラ牝323.1ジャングルポケット
12.18朝日杯FSG11600アルフレード牡213.1シンボリクリスエスUSA
2012.05.13ヴィクトリアMG11600ホエールキャプチャ牝447.2クロフネUSA
12.16朝日杯FSG11600ロゴタイプ牡2734.5ローエングリン
2013.04.14皐月賞G12000ロゴタイプ牡313.7ローエングリン
12.01JCダートG1ダ1800ベルシャザール牡538.4キングカメハメハ
1着:27 2着:22 3着:36 着外:393 勝率:0.056 連対率:0.102 3着率:0.177

 ▲レッドリヴェールの父ステイゴールドはドリームジャーニーからオルフェーヴル、ゴールドシップまで牡馬は続々とチャンピオンを送り出しているのに、牝馬のクラシック制覇はない。ただ、2歳重賞に勝ったのも牝馬としてはこの馬が初めてで、その勢いで頂点にまで至ったのだから、これまでの傾向を一変させる可能性はある。5代母コスマーの子孫には父系曽祖父ヘイローのほか、1985年のこのレース、11番人気で2着となったロイヤルコスマーがいる。

 ヌーヴォレコルトはハーツクライ産駒だけに完成するのはまだ先だろうが、ハーツクライ=ジャスタウェイのドバイ国際G1父仔制覇など父系に勢いがある。現役時のディープインパクトの連勝を止めたのもこの父だ。伯母のゴッドインチーフはエルフィンSを8馬身差の大勝、チューリップ賞で2着、桜花賞4着と尻すぼみに終わったが、こちらは上昇の余地あり。


競馬ブックG1増刊号「血統をよむ」2014.4.13
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